Episode08 「問答無用で襲ってくるガーディアンはウザイわな!」
ランベルト号の突撃艇に乗せてもらい、目的地に到着したソアとリリアは、その場で待っていたクララと合流して、地下迷宮の入り口前に立った。
「ちょっと待っててね。扉開けるから」
リリアが見つけた解除ボタン、中に入るための作業があるからと、ソアは二人から離れる。
「久し振りね」
「えーっと、ああ妖精ちゃんだね。リリアちゃん」
リリアのロボットは、ソアとオリビエが面白がって、毎日のように弄っている。
見た目が大きく変わる事はないが、クララの脳裏に残っているのは、初めてリリアが使用した素体の姿、なんとなくイメージが違って見えた。
「一度、あなたとはじっくりお話ししたいと思っていたのよ」
「私と、ってことはリーノの事?」
「やっぱり計算なんだ」
「あ、あはははは……」
相手が普通の思春期男子なら靡いていただろう、恥ずかしい行動を思い出して、クララは笑ってごまかそうとする。
だが本気で男臭い大きな目標を持った少年は、憧れ以外の物に目もくれない。
「そう言うあなたは、リリアちゃん」
「わたし、一応あなたよりも年上なんだけど」
「えっ、と言う事はもうオバサン?」
「バカにして言ってるんじゃない事が分かるだけ、質が悪いよね」
「えっ?」
「天然は本物なんだ」
本題に入る前に扉は開き、雑談は中断。
「ガールズトークは終了よ。ここからは気を抜かずに行くわよ」
「年下と言えば、ソアって本当にいくつ?」
「いくつって、リリアは本当の私を知ってるでしょ?」
「うん、ロボットのソアとそっくりだった」
「この見てくれで成人してますって、おかしいでしょ」
「いや、実はそう言う、未発表のどこかの惑星人なのかと、小人族とか」
妖精や爬虫人類とか、人間とはかなりかけ離れた種族がいるのだ。
見た目は人間だけど、その身体的成長速度が遅いとか、成人しても人間の幼少期のようだとか、そんなことをリリアは想像している。
「私は歴としたキリングパズール人よ。くだらないお喋りは暇な時にね」
最年少ソアの誘導で先に進む。
「ねぇ、そんなにドンドン進んで大丈夫なの?」
「二人にもマップ転送するね」
何の疑いもなくホイホイついて行くクララと違い、リリアが慎重さを見せる。
オリビエからの情報をリリアのロボット、クララのウイスクに送り、二人に確認させる。
「どういう事?」
このダンジョンはキャリバー海賊団のために作られた物だ。
マップの提供者を明かし、信頼できるものだと教える。
「安心するのは早いわよ。鍵を貰ったからって、ここの防衛装置を無力化する事はできないから、ここのシステムは全てスタンドアローン、たとえカートでも全システムを掌握できないから」
鍵やマップがあろうと、ここで襲われるのは避けられない。
迷宮の創作者、ギャレット=キャリバーでも例外ではない。
「露払いは私がするから、殿はリリアね。近接戦闘に特化したガーディアンが出てきたらお願いねクララ」
案外寄せ集めチームはバランスよく。
入り口付近の敵はソアの飛び道具で、甲虫型のガードロボットを無力化していく。
「最短ルートで行ったとしても、このペースでガーディアンが出てきたら、こっちの残弾の方が先に尽きるわね」
ソアはショルダーバックに武器を詰め込めるだけ詰め込んできたが、財力に物を言わせた迷宮の物量は思った以上。
「それより大丈夫なの?」
クララの心配は、甲虫型がレーザーを内蔵していて、ソアは攻撃を正面から避けることなく受け続けていた事。
「あの程度ならね。この服は冷却処理がされているから、ほとんどのビームやレーザーの熱量を奪い取れるから」
ペンシルミサイルの30%を消費し、最初のセーフティーゾーンに到着する。
「少しだけ休憩しましょう」
ここまで何もしていない二人に疲れはないが、しきり役をするソアに意見する気もない。
「さっき聞きそびれちゃったけどリリアちゃん」
「リリアでいいわよ。私もあんたの事クララって呼ぶから」
「ああ、うん。それであなたはリーノの事どう思っているの?」
「どうって、あの人は私の婚約者、どう思っているかなんて聞くまでもないでしょ?」
それは返事になっていない。
「あなたはお姉さんを追って、特定保護管理惑星から出たかったと聞いて、その……」
「クニングス巡査、あなたの言いたい事は分かったけど、リリアの事情はそれなりに複雑だから」
「ソア、いいよ。ちゃんと答えるから。でもその前にクララ、先に教えて欲しい、あんたがリーノの事をどれだけ大切に想っているのかを」
幼少期に嫌がるリーノを連れ回して大怪我を負わせたと聞いている。
それを棚に上げて、久し振りの再会した幼馴染が、立派になっていて気持ちが惹かれた。
「お姉ちゃん気分が甦ったとかなら分かるけど、それでどうやって恋心を持てるのかが気になるのよ」
リリアは年相応に狭い世界の中ではあったが、それなりの経験を積んでいる。
クララの想いが軽い物ではない事は感じている。
「傷を負わせたのは事実だし、それどころかあの子は二週間も生死の境を渡った。私の所為で……」
少し考えて重い口を開いたクララ、リーノの記憶とは違う事実をリリアとソアに告げる。
「私は生まれついてイズライトが覚醒していたんだって」
ほとんどの異能力者は、後天的に何かを切っ掛けにして、イズライトを発動するものだが、ごく稀に母胎の中で覚醒する者もいる。
クララの能力は筋肉操作。
身体強化とは違い、意識せずとも体を動かしただけで、その効果は発揮される。
子供の頃は特に、気をつけようとしても制御する事ができず、友達と遊んでいる時も、大人以上の力がいつの間にか加わる事があった。
「みんな怖がって近付いてこなくなって、私はいつも独りぼっちだった」
それでもヤンチャ坊主や、お山の大将気取りのガキ大将が、いい気になるなとちょっかいを出してくることはあった。
その結果は想像に任せると言って話は続く。
「学校にいられなくなって二回転校して、そこでお隣さんになったリーノは昔から優しい子だった」
新天地で心機一転とはいかず。
クララに落ち度はなくとも、人に大怪我を負わした事に間違いはない。
学校にも行かなくなって人を遠ざけるクララを、リーノは放っては置けなかった。
「本当に優しい子で、強い子だった。ムキになって彼のゲーム機を壊した私と喧嘩して、腕の骨を折った後も、変わらず接してくれた」
大怪我を負わせて、引きこもるクララを見舞って、二階の窓から忍び込もうとして落っこち、二カ所目の骨折。
「私のためとは言え、目を離すと何をしでかすか分からない。リーノの気の済むように、でもなるべく感情的にならないように、あの頃はそれしかできなかったから」
次第に外に出るようになったクララは再び学校にも行くようになり、大きな事件はそこで起きた。
「リーノ以外の人と触れ合うのはやっぱり怖くて、教室でも息を潜めるように過ごしてたんだけど、クラスのリーダー的な女の子の気に障る事があったとかで、私は知らないところで目を付けられて」
男女問わずクラス全体から総スカン、無視されるがそんなことで堪えるクララではなく、リーダー格は実力行使に打って出てきた。
少しでも体を思い通りに動かせるようにと、運動はしていたクララは、鉄の棒で叩かれたくらいでは傷つかない体になっていて、リンチにあいながらも堪え続けた。我慢していればいずれ飽きてくれる事を待って。
「いつものように私を迎えに来たリーノを巻き込む事を、私は考えもしなかった」
クララの仲間と勘違いされたリーノを、クラスメイトは年下とかも考えずに力いっぱい殴りかかり、意識を失うほどの大怪我を負わせた。
「リーノが非道い目にあって、私はぶち切れた。気が付いたら誰も立ってなかった。私以外」
クララの保護観察が決定し、クニングス一家も引っ越した。
意識を取り戻したと聞いて、お見舞いに行きたい気持ちを抑え、リーノの両親、エギンス夫妻に事の成り行きの説明と謝罪を書いた手紙を渡すようお願いをして、クララは思い出の街を去っていった。
「私は保護観察を受けて、指導教官をしてくれた巡査長からイズライトの事も教わった。警察官になって受けた任務でまさかの再会。あの事件で記憶の混乱を起こしたリーノが、こっちが用意したシナリオを信じていることが確認できてホッとした」
普通はトラウマで避けられてもしょうがないのに、仕事だからだろうけど、ちゃんと相手をしてくれた。
「こんな事で好きになるなんて、私の反省は足りないのかもしれないけど、気持ちに嘘はつけない」
リーノが昔を気にしていないのに、こっちが気構えるマネはしたくないと、いつも以上にはしゃいでいたことが、リリアの気に障ったのなら謝りたい。
「はぁあ、やっぱり聞くんじゃなかった。けどこれでスッキリした」
「そ、それじゃあ次はリリアの……」
「ストップ、休憩はここまでよ」
あまり時間を掛けて向こうを待たせる事はできない。
ソアも続きは気になるが、お茶の道具を片付けて、少女達はダンジョン攻略を続けた。




