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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion02 赤の章
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Episode06 「終わったな、じゃあ始めようか!」



 蛇腹剣ではラリーのナックルを叩き落としていたミリーシャは、セイバーに持ち替えると英雄のラッシュを全て受け流し、いなして見せた。


「蛇腹剣みたいに動きにラグが有る訳じゃあない。正確にピンポイントで軌道を変える、一点を狙ってきやがる」


 ミリーシャの突きの速さはラリーが両手で打ち続けるより早く、しかし強さには欠ける一発一発はダメージに繋がらない。


「やせ我慢は体に悪いよ」


「蚊に何回刺されても、気にすることじゃあないだろ」


 それが強がりではないのが、ミリーシャにも伝わってくるのが腹立たしい。


 この展開ではカートvsエルディーのようにスタミナ切れで決着なんて、最悪の最後を迎えてしまう。


「ラリー、不味いですよ」


 一騎打ちに割って入ってきたのはアンリッサ、左手首を右手の人差し指で指している。


 ラリーはウインドウスクリーンを立ち上げる。


『ラリー大変だよ』


「ティンクか、どうした?」


 ベルトリカからの通信と、クルーズ船内のアナウンスが被る。


『ショーをお楽しみ中の皆様にご報告です。ただいま本船は所属不明の船団に路を塞がれており……』


 ショーの間に接近を許した船籍はパスパード登録を装っているが、データと照らし合わせた一隻は登録された物と船舶の形状が違う。

 全てを確認したが、どれ一つヒットしなかった。


 数は五隻、いずれも大きな砲門を備えている。


「もうそんな時間か?」


「予想よりかなり早いですね」


 壇上に登ったアンリッサと小声で確認し合う。


「しょうがねぇな、待機中の嬢ちゃんには?」


「クニングス巡査は不明艦を視認した時点で離脱しました」


 ここからはキャリバー海賊団が、今まで一度も実行した事のないプラン。


 不認可の別海賊を巻き込んだ艦隊戦。


 警察機構に賊の情報を横流ししてもらい、クルーズ船を運行する会社にも許可を得て、向こうが反応しなければスルー、向かってくるようならそれを撃退する綱渡りプラン。


『投降を促してきたよ。熱源も感知した』


 待機している警察艦隊がクララの報告を受け、到着するまでは待っていられない。


 これで向こうが口火を切ってくれば反撃ができる。


「キャプテン・ミリー、ここは一時休戦し、協力して乗り切るぞ」


 マイクをオンにして、これもショーの内だと乗客に報せる。


 ほぼノープランのプランが始動する。






 クルーズ船より前に出るベルトリカとランベルト号。


 敵の砲撃が始まり、ミリーシャ達は赤の船に戻り、ベルトリカチームもアンリッサとソアを乗せている夜叉丸は一度船に戻り、反撃はシュピナーグの粒子砲。


 先頭の貨物船に偽装した大型艦のシールドを突破し、側面に被弾すると爆発が起きて動きが止まった。


 慌てて散開する四隻をランベルト号、ベルトリカ、アークスバッカー、シュピナーグがそれぞれ一隻ずつを追いかける、動けなくなった一隻には夜叉丸が取り付いた。


 敵は回避航行をしながら、搭載したモビール軍団を発進させる。


 特徴のない汎用機だが、その数は60近くあり、夜叉丸へ半数が襲ってくるが、カートは小物は相手にせず、レーザーの網を搔い潜って大型船に取り付き、粉微塵にするかのように切り刻む。


 轟沈する大型艦、残る四隻も一気に終わらせたいが、そう簡単にはいかない。


 ベルトリカチームのモビール三機に敵モビールが連携攻撃を仕掛けてきて、巡航艦一隻と駆逐艦三隻がベルトリカとランベルト号を狙う。


 無茶な砲撃を続けていたベルトリカ、そのベルトリカからの攻撃を受け続けていたランベルト号はボロボロ、多勢に無勢もあり苦戦を強いられる。


 偽装を外し、スピードの増した敵艦隊。


 ちょっと冗談では済まなくなっている。


 クルーズ船は十分に遠ざかっている、ベルトリカもランベルト号も無理を押す必要はなくなった。


 一気に片をつけるため三機のモビールは合体し、巨大な人型の大活躍で辺境海賊は撲滅、英雄と女海賊の決闘を見られなかった客からも大喝采をもらう事ができ、興業は大成功の内に幕を閉じた。






 ランベルト号は惑星キリングパズールにある宇宙船ドックで修理中。


 ベルトリカも同じ状況で、大幅な修理に入ったと連絡があった。


 諸手続でラリーもしばらく事務所で、アンリッサの手伝いをしなくてはならないらしい。


 カートは海賊の情報に興味を示さず、一人でさっさと別の仕事を勝手に見繕って行ってしまった。


「それでお前が代表して来たわけか?」


「は、はい!」


 名うての女海賊を前に、リーノは汗が止まらない。


 ベルトリカチームを代表して、そんな大それた事になるなんて思ってもいなかった。


 お目付役にソア=ブロンク=バーガーとリリアス=フェアリアが同席している。


「うちのリーダーからはこのボサリーノに一任すると仰せつかってます」


「まさかブロンク=バーガーのお嬢様まで、ベルトリカに乗り込んでいたなんてね」


 銀河評議会加盟惑星で、最も経済の安定したキリングパズールには大きな企業も多く、中でもトップスリーと称されるバーガーコンツェルン、オレグマグナカンパニー、フィッツキャリバーコーポレーション。


 年齢差から二人が同じ宴席に出席することはなかったが、お互いその名は以前から記憶されている。


「お噂はかねがね。私もフィッツキャリバーのミリーシャ様に、こういった場でお会いできるとは思っていませんでした」


「ここは私の船だ。そちらがここへ来たのなら会って当然だろう」


 ミリーシャは海賊帽とマントを脱ぐと、お茶の用意されたテーブルに皆を着席させた。


「よくも思い切って、企業法人のご令嬢様が、海賊稼業に足を踏み入れたものですね」


「海賊と言ってもキャリバー海賊団は認可を受けた団体だからな、先代のキャプテンが道楽で作った物だし、お祖父様が喜んでくれるのなら安いものだ」


「ちょっとミリー、新人テイカーの前で!?」


「いいだろノエル、ボサリーノはあの銀河の英雄の後輩だ。ラリーは私の家の事もよく知っている。このボーヤに隠して話すなんて、労力の無駄ってもんだ」


 未だ緊張の抜けきらないリーノ、ロボットから出てきて背中をさすってくれるリリアにお礼を言いながらお茶を口に運んでいる。


「さて本題に入ろうか。と言っても今回の情報は、ベルトリカが絡んでもなんの得にもならんものだぞ」


「ウチのメカニックが狙っているのは、お宝のデータだそうです。それを警察機構が万が一の時のために解析して、横流しして欲しいそうですよ」


「ああ、あの古狸がそんなことを言ってたそうだな。この情報で手に入れられた物に限りだぞ。それ以外は契約外だ」


 ギャレット=キャリバーの受け継いだ会社は造船業のトップ企業で、それを更に多くの資本出資で子会社等の傘下を置き、一代で多角経営化に成功した。


 その頃の苦労から解放された反動で、昔から憧れがあったとは言え、本当に海賊になるなんてバカな事だと、誰にも本気で相手にはされなかった。


 その頃から色々と相談を受けていた警察機構のオーグリー=ベッケナー警視、今は引退しているがギャレットとは古い友人関係。


 最後の最後まで反対しながらも協力し、認可後にギャレットと顔合わせをさせたアポースは今でも、キャリバー海賊団との関係を良好に保っている。


「ベルトリカもランベルト号も古代文明船なのに、それを民間人に管理させるなんて、評議会の審査をどう通過させたのか、気になるところですけどね」


 ブロンク=バーガーの末娘は年相応ではない聡明な女児だと、噂には聞いていた、これは見た目に騙されてはならないなんて、生易しいものではない。


 慎重に警戒しないといけない相手だ。


「にしても妖精まで仲間にいたなんて驚きだね」


 古代船の事もともかく、まさか保護管理種をコスモ・テイカーにしてしまうなど、本当に銀河評議会の中でなにが話し合われているのか?


「そっちの妖精のは分かるが、お嬢さんは体を改造したって事?」


 ショーの時から気になっていた。

 手持ちの武器も豊富に持っていたが、ブリッジでは体の中からミサイルを発射していた。


「詳しくは言えませんが、私の意識をちゃんと持っているれっきとしたロボットですよ」


「ほぉ、どちらにしても見事な出来映えだね。武装を展開してなければ、どこからどう見ても人間そのもの、ロボットとは思えない」


 ソアの作るロボットは繊細な彫刻のようで、その動きも人間そのもの。


 内蔵武器の展開部も、その接続部分は近寄って、目を凝らしてようやく何となく分かるくらい。


「武器はウチの優秀なメカニックが設えた物だから、その威力も半端じゃあないですよ」


「ああ、ノエルを苛めてくれた子ね。まったくラリーもトンでもない子達を……」


 でもこれなら信用もできる。


 ミリーシャは情報をリーノ達に開示した。

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