Episode05 「どうやら俺はショービジネスが嫌いではないようだ!」
『ちょっとオリビエ、待ってってば』
次々と絶え間なく攻撃をし続けるオリビエに、ベルトリカのシステムAIであるティンクが待ったをかける。
「まだ大丈夫、ボクが一人でどうにか出来るレベルだから」
焼け付く砲門、無茶なミサイルの連射、併せてエンジンもフル回転でオーバーヒートしないのが不思議な状態。
『ホントにもう、この仕事が終わったら今度こそ、私のコーディネイトで可愛いドレス姿を撮影させてもらうからね』
ティンクのデータはコピー元の妖精の性格を、正確にトレースして構築されている。
可愛い物好きのティンクは、リリアやソアにも色んなロリータ服を着せては、よく撮影会を開いて大いに喜んでいる。
「ボクに可愛いはいらないよ。女だからってドレスを着なきゃならない。ってことはないでしょ」
『絶対可愛くなるのにもったいないよ』
「ティンク、ボクがシャワー浴びてるのを覗いてるでしょ」
『だってゴーグル外すのその時だけなんだもん。寝る時も填めたままじゃない』
「恥ずかしいから止めてよね」
少年のような体つきに、オリビエはコンプレックスを持っている。
「いいかげんにしないと、コアプログラムを凍結させるよ」
『いい加減にして欲しいのはこっちよ、船の事ももっと考えてぇ~!?』
オリビエによってカットされているが、本来ならレッドアラートが鳴りっぱなしの状態。
クルーズ船からはかなり離れた。
このくらいの位置でランベルト号を足止めできればいい。
『とにかくこれ以上は船を苛めないでよ』
「そんな事は向こうに言ってよ」
ベルトリカの猛攻に、ノエルが頭を痛めているなんて、二人は考えもしていない。
「今回は俺達の圧勝で終わりそうだな」
「今回はってことは、次を期待してもいいのかしら」
何度かぶつかり合い、距離を取って舌戦を繰り広げ、そろそろ決着も見えてきた。
「そうだな、俺はいいんだが、チームメイトには誰一人理解してもらってないからな」
「そう、それじゃあ今日の勝ちを譲る事はできないわ」
中央のスクリーンに映し出されたのは、膝をついたはずのエルディー。
「エルディーは確かにスタミナじゃあ、若いのには敵わないけど、まだ終わりじゃあないよ」
今までは技で勝り、スタミナ切れなど気にするまでもなかった。
海賊ショーでは使う事など一度もなかったイズライト、体力増加の能力で息切れを抑えて、一からの仕切り直し。
「エルディーだけじゃあないわよ」
ブリッジで睨み合っていたパメラとリーノにも新たな展開があった。
パメラはあまり得意とは言えない銃から、本来の戦闘スタイルに切り替えて鞭を手に取る。
「その鞭で俺の銃と戦おうって言うんですか?」
「完全な爬虫人類ではなくても、あたしはエルガンド人だ」
力一杯振り回される鞭の軌道は、まるで生き物のように空を切る。
リーノも実弾に切り替えて応戦する。
それを見ていたシアター舞台上のミリーシャが微笑する。
「うちらもまだまだこれからだよ」
大したことを言った訳じゃあないけど、沸き立つ客席、興奮状態で箸が転んでも笑うみたいな状態。
「よく見ろよ。なんの好転にもなってないぜ」
エルディーは何度か膝をついてはイズライトを使った復活をするが、スタミナの地力の差が有りすぎるカートを前に、能力の無駄遣いをしているだけ。
たまに立ち上がる他の海賊の相手もしながらなのに、カートの動きはキレを損なわない。
特殊諜報員の戦いを眺めて、虚しさがあふれたエルディーはお尻を付いた。
胡座をかいたまま起ち上がろうとしないエルディーが、手招きしてカートを呼び寄せる。
「なんだ、海賊」
「お前なにもんだ、俺もそこそここの業界長いが、お前みたいなヤツ、見た事無いぞ」
「俺の里には俺みたいなヤツは五万といるぞ」
「五万、そんなにか!?」
「……そのくらい大勢という意味だ」
クルーズ船側で慌ててチャンネルを切り替えて、動力室の場面は映されなくなったが、エルディーが酒を取り出した時は、ノエルもさすがのミリーシャも驚きが隠せずあ然とした。
「わはははっ、面白いクルーを雇ってんな」
ラリーは後からカートに聞いて更に笑い飛ばしたが、映っていないカメラの向こうでエルディーはヒーロー役を海賊に勧誘していたのだとか。
マイクを切り忘れて大笑いしたから、お客さんも釣られてドッと沸き上がった。
「パ、パメラはそんなに甘くないよ」
映し出されたブリッジの様子。
エルガンド人の体力は人間の5倍以上、スタミナとパワーならパメラはカートに負けない自信がある。
振り回し続ける鞭は、連射される弾丸のように襲い来るが、その全てをリーノは撃ち返した。
「ボーヤが実弾を使っているのなら、いずれ弾切れになってパメラが勝つよ」
「お前、忘れてないか?」
舞台上の二人は観客達と一緒に画面に釘付け、パメラが両手を持ち上げる瞬間を並んで確認する。
「あのおチビちゃん達って、ロボットだったのね」
廊下でパメラチームの団員と戦っていた所は、パーティールームでは見られない。
体中から飛び出すミサイル、流石に爆発物は使っていないが、電気ショック弾や催涙弾で相手を動けなくする。
「くそぉ……」
痺れて上手く動けないパメラは仁王立ちで降参した。
「外も終わりだな。ランベルト号の動きを止めたか」
オリビエのオペレーションは非常識にも程があり、母船の操作と三機のモビールもリモート操縦で、赤い船を追い込んでしまった。
「やられたやられた、けどこれで幕引きは味気ないねフィゼラリー=エブンソン、最後はあたしらで勝敗を決めようじゃあないか」
チーム戦では完敗を喫したが、このショーのフィナーレはリーダー対決で、勝った方が全部をいただく事を提案してきた。
「いただくってお前、都合良すぎるだろ」
「けど観客はそれを望んでいるようだよ」
海賊が勝てば、なにかお宝を一つずつ奪われる事になっている観客も、ここでラストを迎える事を望んでいない。
「しょうがねぇな、つき合ってやるよ」
「ちょっとラリー」
「いいだろアンリッサ、これもサービスの内だ」
モニターには女海賊と銀河の英雄、各々に戦闘態勢をとり、緊張感を高めていく。
ラリーとの出会いは子供の時、お互いがこの業界に足を踏み入れるなんて、思ってもいなかった頃。
出会った頃はまだ、ギャレットの計画も進行中でまだ非公認だったランベルト号が、公認海賊となって15年。
認可を受ける海賊業も他に6団体も誕生し、先駆者のキャリバー海賊団は次代のキャプテンをミリーシャに決定した。
「お祖父様のことは大好きですし、尊敬もしておりますわ。けれどどうして私なんですか?」
ミリーシャには兄が二人いる。
ただその二人共が父親の会社に入る事を望み、一切ギャレットの言葉に耳を傾けなかった。
そこで海賊も祖父も好きだと言ってくれる、末っ子の孫娘に跡取りになってもらおうと白羽の矢が立った。
「そっか、お前があのじじいの孫か」
「お前ってなによ、年下のクセに」
「嘘だろ、年上ぇ?」
ミリーシャの思い出は、ここで出会いのシーンに変わる。
「ミリ、シャ……キャリバー、ひっく」
「ミリシャか、俺はフィゼラリー=エブンソン。ラリーって呼んでくれ」
ミリシャではないと言おうとしたが、この後に訂正する余裕はなかった。
「なにボーッとしてんだよ」
我に返ると少年は立派な青年になっていた。
自分の海賊装束も板についたと我ながらに思う。
「気合いを入れ直したとこさ。これに勝ってボーナスをゲットするためにな」
ミリーシャの右手にはさっきまでの蛇腹剣ではなく、細身のセイバーが握られている。
「そんな物で俺の攻撃を受け止められると?」
「私の本領発揮はこれからさ!」




