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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion02 赤の章
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Episode02 「新しい仕事だってよ!」



 ノエルはミリーシャの思いつきを実現しようとベルトリカにコンタクトを取った。


 本来ならアンリッサのいる地上事務所に連絡を入れるのだが、ベルトリカは今までアトラクションの仕事のオファーは受けた事がないと聞いている。


 ランベルト号は運搬品受領のためエルガンドへ進行中。


 ゲートウェイに入る前にどうにか話を通しておきたい。


 けれど相手の船へのホットラインを知っているわけではない。


 だがアテならついさっき出来た。


『はいはぁ~い、お電話替わりました』


 クララは口になにか物を詰めたままモニター前に姿を現す。


「……」


『あのぉ~?』


 口の中の物を呑み込んだクララが、ジッと黙ったままのノエルに声を掛ける。


「ああ、申し訳ございません。少しクニングス巡査にお伺いしたい事がありまして」


 つい我を見失ったが、ノエルはクララに事情を当たり障りない様に加工して説明し、ラリーに連絡を取りたいと伝える。


『なるほど、分かりました。お待ちください』


 警察官としての知識を学び、現場で日々実践を積み続けているのだろうが、非常識な新社会人を前に気を抜いていたつもりはない。


 しかし天然ボケだとしか思えない新米警官の手によって、ノエルは一気に窮地に陥れられた。


『おお、お前さんか。女海賊の右腕』


「なっ!」


 クレマンテ=アポース巡査長が出た事で、普段はあまり感情を表情に出さないノエルだったが、無意識に驚きを露わにし、それを見た中年オヤジは大笑いをした。


『はははっ、流石の鉄面皮も想定外の事には冷静さを欠いてしまうか。いやその方が人間らしくていいぞ、嬢ちゃん』


 どうやらモニターの回線は最初に繋がった事務所的な所ではなく、アポースのウイスクに接続されたらしく、喋り口調から恐らく周りには人影はないようだ。


『まぁ、うちのもお前さんの所でやらかしてくれたみたいだからな、こっちも一つくらいネタ提供してもらってもいいだろ?』


 ノエルには笑えない提案だが、クララが取った問題行動に比べれば、こちらは大した失態を晒したわけでもなんでもない。


 だがこの屈辱はノエルとってアポースは、絶対に敵に回してはならない存在だと思いこませるのに十分なインパクトがあった。


『いや、いいもん見せてもらった。お礼にと言っちゃあなんだが、ラリーんとこの回線コードを教えてやるよ』


 それは願ってもない話だが、相手がクララならなんの心配もないが、この中年を両手を上げて信じる事は出来ない。


『パクったやつの情報も見逃してやったんだ、今は黙って俺の好意を受け取っておけ』


 あの情報に裏がある事は確定した。


 しかしミリーシャが楽しみにしているあの情報を、今更水に流す事もできない。


 ノエルは心の溜め息が漏れない様に注意しながら、アポースとの通信を終わらせた。


 通信終了後に送られてきた回線コードを使い、ベルトリカと回線が繋がると手短に内容を告げた。


『なるほどです、ではウチのリーダーに替わりますね』


 システムAIとのやり取りは一瞬で、ラリーと話したいというノエルの要望は二つ返事で了承され、間もなく当人が現れた。


『よう、久し振りだなノエル、またミリシャにこき使われてんのか?』


 チームリーダーのフィゼラリー=エブンソンは海賊ミリーシャ=キャリバーのことをミリシャと呼ぶ。


「お久しぶりですミスター、察して頂いているなら話は早いです」


 ショービジネスなどに手をつけなくても、しっかり稼ぎのあるベルトリカチーム。


 顔見知りだと言ってもそんな失礼な依頼を持ってくるなんて、恥知らずなお願いをしなくてはならないなんて。


『大変だな、お前さんも。つらい時は顔に出した方がいいぞ』


「はぁ、だからミスターとお話しするのは苦手なんです。なぜ私の心を見透かすのですか?」


『そういうのも仕事の内だよ。』


 詳細データも転送し、中身を確認してもらう。


『OKだ。受けてやるよ。借りがあるなんて思っちゃいないが、お前さんに免じて協力してやるよ』


 こんなに交渉が順調に進むと考えていなかったので、肩すかしを食らったみたいで油断をした。


『そうそう、そう言う顔を見せるのも交渉事には必要だぞ』


 安堵からだろうか、ほんの少し口角が緩み、穏やかな表情を浮かべるノエルに、ラリーは笑顔で返してくれた。


『そんじゃあ打ち合わせの日程とかはそっちに任せるから、もう一個の方は後日顔を合わせた時にな』


 突然切られた回線。


「へっ?」


 今日一番の間の抜けた顔を誰にも見られなかった事は、唯一の幸運だったのかもしれない。






 打ち合わせはノインクラッドの宇宙港、ベルトリカの駐留ドックで行われる事となった。


 テーブルに着いたのはミリーシャとノエル、ベルトリカチームからはリーダーのラリーと、運営管理をしているアンリッサが顔を出してくれた。


「全く、いつもいつもキャリバー海賊団は私という存在を毎度無視してくれますね」


 優男はわざとらしく咳払いをし、ノエルを睨みつける。


「それは失礼をいたしました。我々の行動の決定権はキャプテンにのみ存在します。その傷害になるものをどう攻略するかも必要な事なのでお許しください」


 これもいつもの返事、二人にとっては挨拶の様なものだった。


「代表が直々に請け負ったのですから、私がキャンセルする事も出来ませんが、次こそは私を通す事をお約束願いたい」


「ベントレーさん、申し訳ないがキャプテンは一つ前の仕事の後で疲れている。今ある仕事以外の内容はまた後日にお願いします」


 アンリッサは大きく息を吐き、無言で了解をすると資料を受け取った。


 ミリーシャ=キャリバーは姿をさらけ出す事は嫌ってはいないが、色々言葉に制約が発生する番組というのを好ましく思っていなくて、思った事を思う様に発言できないストレスで不機嫌度はMAX状態。


 噂は耳にしているアンリッサは、だったらなぜこのタイミングで打ち合わせを入れるのかと言いかけて呑み込み、資料の中身を通しで確認する。


「なるほど、良くできてますね。当然の事ですが」


 興業プランは100通り以上あって、その中でももっとも経費を掛け、派手な演出で趣向を懲らした内容。


「上客ですので、最も喜ばれる物をと考えまして」


「確かにこれだけの事をすれば、満足も頂けるのでしょうね」


 しかしそれはかなりギリギリの攻防、興業の申請はもちろん出すが、それでもヘタをすれば通報されてしまうレベル。


「今まで何度行いましたか?」


「0です」


「はい?」


 何度聞き返されても答えは同じ。


「今まで執り行った事は一度もありません。これだけの段取りをこなせるのはベルトリカチームの方々だけと、我々が知りうる限り頼めるチームは他にありません」


 ミリーシャの思いつきで構成され、何度もシミュレーションを重ね、双方の戦術データを同一人物が設定すると仮定して、何とか成功率は38%。


「却下に決まってます」


 下手をすれば死人が出る。


 アンリッサは資料を投げ出した。


「待て待てアンリ、これはあくまで基本だ。こいつを元にアトラクションとして安全第一に煮詰めていけばいい話だろ」


「ラリー、あなたの目を見れば分かります。このプランに興味津々なのでしょう?」


「いいじゃないか、英雄が勝つことが前提のお遊びなんてくだらねぇ。だがこういった内容なら受けて立つまでだ」


 ラリーは挑発的な笑顔をミリーシャに向けるが、キャプテンは赤ら顔で呆けている。


「ミリシャ、どうした?」


「はへっ?」


「ミリー、しっかりしてください」


 肘を抓られ、耳元で囁かれて我に戻ったミリーシャは気を取り直して咳払いをした。


「ガチンコの真っ向勝負でいいんだな」


「そうよ、あなた達が勝てばいつ戻りのシナリオ、我々が勝てばお客様から金品を巻き上げる」


 この興業を受ける側は海賊の襲撃を受けた際、金品を奪われると参加者には同意書にサインをもらっている。


 しかしながらそれは建前で今まで海賊が勝利したケースを実行したアトラクションが打たれた事はない。


「ヒーロー役なんて面倒ごとを受けて、尚かつ名誉を傷つけられる事を受け入れてくれるチームはない。リスクが高すぎます」


「アンリ、俺達が負けるというのか?」


「ラリー、もう勝ったつもりでいるの?」


 二人の船長は火花を散らしあう。戦いの幕は既に上がっている。


 細かい約束事は開催までの短い時間で詰めるとして、次の話題がラリーにとっての本題。


「その事をどこで?」


 表情にこそ出さないが、ノエルは相当面食らっている。


「決まってるだろ、アポースのおやっさんからだよ」


 情報源はもちろんクララだ。

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