Episode30 「大団円なんて言っていいのかよ!」
「いい訳ないでしょ」
専用契約をしている宇宙船ドックに着艇したベルトリカ。
港の待機室で息をつくラリーに食ってかかってきたのは、地上勤務の事務所からわざわざ上がってきたアンリッサ=ベントレーだ。
「確かに奴を捕まえられなかったのはまずかったな」
「そうではありませんよ。あれは仕方のないことだと、警察機構も評議会も認めて、それ相応の報酬の上乗せをしてくれました」
「だったらいいじゃないか」
マーカーを打ち込めなかったことは痛恨の極みではあるが、評価としては最高の報酬を得られた。
「なんの問題があるんだよ」
「ラリー、あなたが即決をしなかった事で無駄な時間を使い、無駄な弾薬を消費した」
経費が嵩んでいる事を心得ていながら、合体を拒んだ事を責められているのだ。
「あなたの要望でミラージュが設備を整えたにも関わらず、使わずに済ませられる案件でない事は、あの金色の船を見た時に察したはずです」
「男が細かい事をちまちまと」
「男も女もありませんよ。もし私が女性の身であったとしても、執り行う業務に変わりはありませんから」
それでも警察機構艦隊の被害を考えれば、ベルトリカ、ランベルト号、ブルーティクスの活躍なくして解決はなかった事は立証するまでもない。
「口止め料も含めてふんだくったんだろ?」
「そうですね。あの古代船がどれだけ驚異かを示した後に、圧倒して見せたのは交渉材料として有効であったとも言えますが」
「だろ?」
「まったく、リーノに感謝してくださいよ」
報告があるラリーだけが降りてきたが、格納庫では機体の整備の準備をしているリーノがくしゃみをする。
「きったないなぁ~」
「悪い悪い」
ロボットから出てきたリリアが目の前を飛び回っている。
「風邪でも引いちゃった?」
「ああ、いやいや急に鼻がむず痒くなっただけだから」
リーノの額に手を添えて、妖精は少年を心配する。
「アンリッサが来てるらしいからな、お前の噂でもしてるんじゃあないか」
夜叉丸のメンテナンスを終え、カートが顔を見せる。
「二人が俺の話を?」
「ラリーはアンリッサに怒られるのも仕事の内だからな。今日の反省会の中でお前の褒め言葉が出たのだろう」
まるで見ていたかの様に二人の様子を言い当てるカートは、更に妄想を拡げる。
「正座ですか?」
「ああ、頭を垂れてクドクドとこぼされる小言を聞いている頃だ」
青ざめるルーキーは、まだあまり接点のないアンリッサを畏怖の対象と位置付ける。
「カート、お望みならあなたの頭の中のラリー同様に、私の意見をお聞き頂きましょうか?」
それはカートの計算では後20分は反省会が続くはずだったのだが、まさかの二人が開けっ放しにしていた扉を潜って姿を見せた。
「お前の頭の中の俺は、そんなだったんだな」
なにを言われようが訂正する気もなく、アンリッサはリーノに近寄った。
「リーノ、ちょっといいかい?」
「は、はい!」
直立不動で固まるリーノに首を傾げるアンリッサ、更に声を掛けたリリアもなんだか硬直している。
「君たちはカートの話が冗談であったとは考えないのですか?」
溜め息混じりに「まぁ、いいです」と流すと、二人に労いの言葉を贈り、レクリエーションルームに場所を移した。
「それでなんですが、概ね事情はティンクから聞きました」
金色の船事件の事はまだこれから警察の事情聴取を受け、テイカー支援団体にも報告の義務があり、アンリッサは多忙極まりないのだが、なによりも先に片づけなくてはいけないことがある。
「リリアス=フェアリア、君に聞きたい」
「な、なんですか?」
まだ緊張の抜けないリリアが宙で姿勢をピンと正す。
「君はリーノのプロポーズを受けてここにいると聞いた」
「そ、そうです」
それがかなり強引な言いがかりに過ぎない事だと、リリア自身も自覚している。
「外の世界に出たかった理由も、その目的は達成されていない事も聞いた」
雲行きが悪い方へ向いているリリアの頬を冷や汗が伝う。
「では今の気持ちを確認したい。このチームで行動するという事は、人の死とも直面するという事だ。今日もそういった場面があった」
ベック=エデルート、そう名前を付けられたテロリストが生命力を吸い上げられて息絶えた。
あの時の込み上げてくる気持ちの悪さは今も残っている。
「この船に乗っているだけでも命のやりとりが行われる。もちろん自分自身の安全も誰も保証してくれない」
新人もベテランでも一瞬のタイミングで最期を遂げる、その危険度は地上で一般的な生活をする人の何倍も高くなる。
「君が口にしたお姉さんとの些細な諍い、それを理由に皆と行動ができるのかい?」
代表者はラリーで間違いないが、運営の全てを任されているアンリには、諸々の権利が与えられている。
「生半可な覚悟で務められる仕事ではないが」
「……私は、リーノの側にいたい。心からの願いを叶えるためなら、努力は惜しまない」
アンリの耳元まで飛んで囁く妖精は、悪漢から命がけで救ってくれた少年に好意を抱き、彼の直向きで一生懸命な様に惹かれていった。
「君とリーノは波長がピッタリだからね。分かった、評議会への手続きは私の方でやっておこう」
保護種族の身元引き受け手続きは初めてではないアンリは、柔らかい笑顔をリリアに見せた。
頬を染めてリーノの元へ飛ぶリリアは、今度はルーキーに耳打ちをする。
「思ったほど恐くないじゃない。ビビって損したわ」
正座するラリーの図が頭から離れないリリアは、自然と吹き出る冷たい汗を止められないが、言質を取ったことは安心材料となる。
「安心するのは早いわよ。あれは隙を見せてはいけないタイプだわ」
「ソア、お疲れさん」
ベルトリカのコントロールを預かっていたソアも、データの整理が終わってレクリエーションルームに入ってきた。
「やっぱりあれってやばいタイプ?」
「私の事も乗員と認めてくれたけど、背筋が凍る思いだったわ」
弱みを握られているわけでもないのに、口では勝てる気がしない。
少女達は敵に回してはいけない人間と言うのに、生まれて初めて対面した。
「あぁ~あ、あの金ピカの船、欲しかったのになぁ」
ヘレンはモビールをガテン方面に飛ばし、途中のアステロイドベルトに隠していたスペースクルーザーに乗り込んだ。
ソニアと新たなベック=エデルートはモビールを船底に固定している。
ベルトリカよりも一回り小さな船だが、人に自慢できるほどの性能は備えているクルーザーにはお留守番が二人。
「おかえりなせぇ、姐さん」
「ボス、よくご無事で」
大男とトカゲ男、魅了して手下にしたものの。
「あんた達が役立たずじゃあなければ、もっとうまくやれたんだろうけど……」
ヘレンはまだイグニスグランベルテを諦めたわけではない。
だが今は装備をもっと充実させる事が先決。
「しばらくは小銭稼ぎねぇ、もうフウマは利用できないだろうし」
クルーザーはキリングパズールに向けて発進した。
各所への報告を終えたベルトリカ。
全装備に大きな被害を受けた箇所はなく、オーバーホールも数日で完了した。
大仕事の後だから、数日はノンビリと過ごすことをアンリッサにも承諾させて、高級リゾートが多く存在するワールポワートを目指す。
資本家の多いキリングパズール随一の大企業の所有だが、運用は現地の自治政府が行っている。
広く全銀河から人々がバカンスに訪れる水の惑星。
まさかそんなリゾート惑星が、次の騒動を巻き起こす発端の地になるとは、この時は誰も思っていなかった。




