Episode29 「問答なんざ不要なんだよ!」
ブラストレイカーの優に十倍はあろうラオ=センサオのホログラム。
本当にそこに目がある様に見下ろす先にはカート達がいる。
『無事に脱出したようだな。そのまま逃げ出せばよいものを』
金色の船は回頭し、無人機との戦闘を続けるベルトリカやランベルト号、ブルーティクスと後方の警察艦隊に向け、広域全チャンネル通信を送る。
『我が前に立ちふさがる愚か者共よ』
ここにきて登場した真の首謀者、踊らされていただけのヘレンもクララから逃げ回りながら注目する。
『うっせーんだよ。時間の無駄だから引っ込んでろ!』
事件に関わった全ての者の機体を裏切り、ブラストレイカーが粒子砲を発射する。
『ゴチャゴチャとクッチャベリたかったら、大人しく捕まってからにしろ!』
小型ミサイルでホログラムを浮かび上がらせていたレンズを破壊し、巨大なラオ=センサオは姿を消した。
『ほ、本当にやっちゃって良かったんですか?』
『やっちまった後で、なにを気にしてんだ』
モニターに映ったキーワードをただ口にしていたリーノは、顔を上げればトンでもない展開になっていて、焦りが隠せないが、やってしまった物はどうしようもない。
確かにラリーの言う通り、今さら遅いのだから、自分の仕事を全うする他ないのだ。
「ラオ=センサオ、なにを言おうとしたのか……。まぁいい、さっさと終わらせるのは俺も賛成だからな」
ラリーの行動に疑問を持つ事は日常茶飯事、何よりブレーキになるのがチームでの役割だと考えているカートだが、今は言われるがままに剣を振るう事が最善と心得ている。
「ヤツの考えなぞ、こいつを叩き壊してからで十分だ」
『おいおいカート、ぶっ壊すのは最終手段だぞ。ちゃんと加減して壊せよ』
物騒な会話に戸惑うリーノだが、同じように浮かない表情のリリアが首を縦に振っているのを見て、腹を括る決意を固める。
『ブ、ブラストエッジ!』
剣を構え飛び込むブラストレイカーは、戦闘ロボット故の間接の少なさが仇となるモーショントレースシステムで動く巨人は、まるで生身であるかのようなしなやかさを見せる。
次から次へと飛び出してくる無人機、切り倒し続けながら大きな船の周囲を飛び回る。
考えていた以上に隔壁の数は多く、見つけるたびに砲台が出てきて撃ってくる。
『ブァ~ルカン!』
リーノの声に合わせて胸にある夜叉丸のバルカン砲が火を噴く。
『ブァ~ルカン! ブァ~ルカン! ブァ~ルカン……』
『こいつバルカンって言ってないよな』
「だがどのフレーズよりも力が入っている。気合いが伝わっているんだろう」
威力が半端なく、一発一発が焼夷弾の破壊力で、三周するとほぼ敵砲弾が飛んでこなくなる。
『ナーグミサイル』
シュピナーグのミサイルは六基が搭載されている。
断層破壊に二基を使用したはずなのだが。
格納庫のあるブロックに飛んでいくのは六基のミサイル。
『どうなってんすかね? 俺、刀が剣になったのもわけ分かってないんですけど』
リーノの疑問ももっともだが、これもそれもただの演出でしかない。
金色の船イグニスグランベルテには空間を遮断し、位相差空間と行き来することができ、障害物を避ける事ができる能力がある。
対してベルトリカには転送装置が存在し、重量制限があり短距離ではあるが、物質を瞬間移動させられる能力を持っている。
破壊される格納庫。
工作室の場所も記録済み。
『アークスミサイル!』
搭載可能な小型ミサイルは全部で12基、それを遥かに超える数の攻撃によって記録のあった箇所と、左右対称に当たる場所で爆発が起こる。
「ヤツは艦橋か、場所は分かるが三つの内どこにいるかだが……」
『カート、その前にメインエンジンだ。直結する動力部を潰さないと、こいつを位相差空間に行かさないためにも』
攻撃手段を全て奪い、行動力とエネルギー源を奪い去れば、甲羅を剥がすのも難しくはなくなる。
ブラストレイカーはイグニスグランベルテ後方のメインエンジンへ向かい、チャージを済ませたバスターキャノンを即座に照射。
「当たったのか?」
爆発が起こらない。
カートが眉を顰めるのと同時に炎が上がり、金色の船は推力を失う。
『なんなら完全破壊もあるかと思ったんだがな』
『次元断層が発生してる。攻撃は完全に通ってないよ』
ラリーも首を傾げるが、その答えはリリアの観測情報で明らかになる。
動力までの完全破壊には至らず、エネルギー量も十分な開戦当初に阻まれた分厚い断層が生まれている。
『リーノ、断層をぶち破るぞ』
しかしエネルギー残量を考えれば、バスターキャノンの連射は不可能。
最大の破壊力を示す粒子攻撃でなければ突破できない断層を前に、ここまできて打つ手がなくなってしまうのか。
『ラリー、いい?』
『なんだ、オリビエか』
回線を開いて顔を見せたオリビエは、一つのデータをブラストレイカーに送ってきた。
『それをインストールして、うまくいけばバスターキャノンよりも少ないエネルギーで高いパワーを発揮するはずだから』
イグニスグランベルテは補助エンジンに火を入れ、断層内で移動を開始する。
「まずいぞ、このままでは逃げられてしまう」
『インストール完了だ、頼むぞカート、リーノ』
レールガンを背中にマウントし、ブラストエッジを手に、残った攻撃用のエネルギーを剣に充填し、上段に構える。
『ブラストエッジ・アークブラスト!』
一点集中したエネルギーの刃が、上段からの振り下ろしで飛び出し、断層を縦に割り、更に船体にも食い込んで爆発を引き起こす。
『やったか?』
「……いや、間一髪のところで間に合わなかったようだな」
『金の船の反応が消えたよ』
まだ目の前にいるのに、各種センサーが捉えられなくなった事をリリアが告げる。
『位相差空間に潜ったな。ティンク、Nの6番だ。俺の示した座標に飛ばせ』
指示通りに転送したのはシュピナーグ用のミサイル。
6番は信管を抜いた不発弾。
だが放り込まれたのは。
「爆発したじゃないか」
イグニスグランベルテのメインエンジン脇に、左右対称となる四基のサブエンジンが同時に火を噴いた。
『どういう事だティンク、爆薬入ってたのか?』
『それは7番だよ。私は言われた通りしたからね』
『なっ、お、俺が指示した座標とも違って……』
『もしかしてラリーが示したかったのってここ?』
目も当てられないとはこの事だ。
自分が担当しないシュピナーグのミサイルの種別を間違え、転送座標と航路座標を間違えて指示したなんて、幸いにもリーノは今ひとつピンと来ていないようで、どうにか誤魔化せそうではあるが。
『ラリーも意外とおマヌケさんなんだね』
リリアには通じていた。
『過ぎた事はいい、もう一度修正して送れ』
『もう無理だよ。位相の更に深いところまで潜っちゃったもの。もうすぐ姿も見えなくなるよ』
ティンクの言う通り、イグニスグランベルテは虚空に姿を眩ませてしまった。
「それで、お前は結局なにをしたかったんだ?」
『あいつらが使っているのと別周波を出すマーカーを仕込んでおこうとしたんだよ。けどまぁ、あれだけ痛めつけたらもうどこにも行けないだろう』
確かに全ての推力を奪い、搭載機も破壊した。
砲台も残っていないだろうし、なにより工作室を潰したのが大きい。
ラオ=センサオがいったい何者かは知らないが、古代の超文明遺産を単独で直せるとは思えない。
「メンテナンスロボットもシステムを乗っ取った時に、全て使い物にならない様にしておいたからな」
『廃棄されたブロックからそこまで出来たんですか?』
「ああ、あまりに異質なプログラムだったからな、メインサーバーと接続したままだったことをラオ=センサオは気付いていなかったのだろう」
修復は絶望的なまま、別空間に漂っていった目標は無力化に成功したと言っていいだろう。
こうして一連の騒動は決着を遂げた。
クララはヘレンに逃げられ、重要参考人の一人も捕まえる事ができず、警察の面目は丸潰れ、艦隊を指揮していたエリート幹部は左遷され、アポース巡査長は内心でほくそ笑んだ。
ラリー達もベルトリカに戻り、ノインクラッドの宇宙港へ戻っていった。




