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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion01 白の章
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Episode26 「いつまで遊んでやがるんだよ!」



 分離されたブロックは加速を始め、金の船イグニスグランベルテから離れていくことが振動で伝わってくる。


「カート、ガードロボットは俺達が抑える。お前はダイブしてシステムを抑えろ」


「ああ」


 ラリーの指示に従い、端末に取り付くカートにソニアが近付く。


「その子にも手伝わせるわ。おそらくあなたがよく知るシステムとは違うでしょうから」


 ここで議論を交わす時間はない。


「好きにしろ」


 カートはくないと呼ばれる短刀を端末に挿し、その手をソニアが握った。


 電脳世界での行動をしやすくする為にカートはアバターを構築する。


「コピー能力はオリジナルからかなり落ちると言っていたが、本当に役に立てるのか?」


 カートがシステムを掌握する方法は至って簡単である。


 侵入者を排除するプログラムもイズライトでイメージ化し、障害を破壊し突破する。


 中央回路までそれを続け、システムに取り付けたら目的は達成となる。


 疑似化される排除プログラムはセキュリティーレベルによってより強力になるが、この銀河で使われるプログラムのイメージは大抵がガードロボットのような無機質なマシーンになる。


 能力の根源はカートにありながら、その製造者の拘りを悟ってイメージ化されるようだ。


「私のコピー能力は確かにオリジナルに遠く及ばない。だけど現実世界では制限のある能力も、電脳世界では縛りを受けないこともある」


 過去に複写した能力なら、ここ限定でいつでも使えると感じ、試してみると確かに炎を操る力も、空気のつぶてを高速で打ち出す力も再現できる。


「あなたの助けになると判断したマスターに感謝してください」


「そうだな、あいつは昔から聡い人間だったからな」


 自分達のアバターに続いて電脳空間も固定化を始める。


「なんだ明るいな、緑の平原なんて珍しい」


 電脳世界には明確なイメージが与えられていなくて、何となくいつもカートの想像通りの空間が現れるのだが、なぜか地上の大平原といった風景が生み出されている。


「古代文明の技術者の想像力とは独特な物だな」


「恐らくはゲーム世界を形付けているに違いない。ここはファンタジーの世界なのよホラ」


 迫りくるのは小型生物、可愛いげなく仕掛けてくる。


「なるほど、戦闘シミュレーションに出てくる仮想ターゲットによく似ているな」


「それってフルダイブ型RPGゲームの事でしょ」


 カートにただの娯楽を遊ばせるのは難しい。


 ラリーは戦闘訓練と称してカートにプレーをさせている。


 そのお陰で今の状況を説明しなくて済んだのは非常にありがたい。


「なんて事はない、いつも通りだ。ただ暴れまわって、一番奥にたどり着く。それだけだ」


 実にこのやり取りは、現実時間の3秒ほどで行われている。






 先に進むにつれ、出てくる排除プログラム“モンスター”の種類も変わってくる。


 ドンドン強力になり、大型化していく。


 戦闘の主導権はソニアが握っており、飛来する吸血鬼に炎を浴びせて怯んだところをカートが斬りつける。


 進むルートもソニアが検索し、的確に誘導してくれる。


「この手のゲームはずっとやってたから」


 小さなフェラーファ人では、人間のゲーム機は大きすぎて楽しめない。


 だけどフルダイブ型の物なら利用できるからと、評議会が接触を試みた時に持ち込んだ。


 最初は娯楽用品と考えていた物が、フェニーナとなるフェラーファ人には新生活の準備に最適と気付き、あっと言う間に広まった。


 童心に返ったのか、ソニアの口調が少し柔らかくなる。


「次です。ストーンゴーレム。あれは私がトドメを刺すので気を引いてください」


 言われるままに相手の前に躍り出たカートは周囲を走り回る。


 ストーンゴーレムは見た目に反して、素早い反応を見せてカートを真正面に捉え続けた。


 気を引くのが役割なのだからこれはこれで正しい結果なのだろうが、カートは隙を見つけてはクナイを投げ続け、その一本が左肩の関節部に挟まり、動きのバランスが崩れたゴーレムは倒れてしまう。


 そのチャンスを見逃さず、ソニアは怪力を活かしてカートの突き刺したクナイに力を加えて左腕を胴体から引き剥がし、更に角度を変えて押し込めばコアになる石を破壊して、人型はバラバラになって崩れ落ちた。


「かなり時間を取られているな、ソニアル=フェアリア、もう中央回路にかなり近付いていると思うのだが」


「正解、この先に洞窟があって、そこに最後のプログラムがいます。そいつを攻略すれば中央回路に辿り着くことができるはず」


 その言葉通りに滝があり、その傍らに洞窟があった。


 中は一本道、迷うことなく暫く進むと大きな扉が現れた。


「間違いない、ここはボス部屋。この中にいる大物を倒したらゲームクリアになるはずよ」


 完全にゲーム感覚のソニアはカートに確認を取らず、警戒も怠って扉を開く。


 中は真っ暗、なのに足下はしっかり見えて、部屋の中央に踏み込むと一気に明かりが拡がり、部屋の全容が見えてくる。


「……何もいないぞ」


「これもお約束、敵は間違いなく頭の上にいる」


 広がる光は足下から天井に伸びていく。


「この場合待ち構えているのはこれもまたお約束の……」


 吼えるモンスターは大きな翼を持ち、鋭い爪が光を反射し、大きな口からは炎を吐き出す。


「竜か?」


「そうドラゴン。ファンタジー世界で最強の生物として登場する強敵」


 真っ赤な外皮は鱗に覆われ、カートのクナイはもちろん、刀も通してはくれなさそうだ。


「弱点はあるのか?」


「あれは火竜。大量の水を浴びせたり、一瞬で凍り付かせる冷気が出せるなら有効打になるはず」


 ソニアが記憶しているコピー能力がオリジナルに匹敵するものなら、一人で退治することも可能だっただろう。


「ここは私はフォロー側に入ります。トドメはお願いします」


 これまでも巨大なガードロボット型とは何度も戦ってきた。


 その要領で突っ込み、氣を使った業で、ソニア以上の術を使って、先ずはドラゴンを地面に堕とすため、風でできた刃を翼にぶつけて破れ目を作る。


 数カ所に裂け目を作るとドラゴンは呆気なく地面に堕ちた。


「こいつの弱点は水か氷だったな」


 本来は媒体無しでは発生させられない業だが、ここは電脳空間。


 イメージさえしっかりとしていれば、氣だけで固めた術でも効果は十分に発揮される。


 経験で裏付けされた自信で、カートは大量の水を天井から滝のように落とし、ずぶ濡れのドラゴンの体が氷塊となるほどの冷気を浴びせかけた。


「最後は任せるぞ。力一杯殴れ」


 ソニアは飛び上がり、渾身の力を込めたキックを見舞う。


 塊は砕け散り、その氷と共に竜も粉々になった。


 これで弊害となるプログラムは全て削除されたはず。


 残るは中央制御装置を見つけてコントロールを奪うのみ。


「おかしいです。出口はおろか、ここに入ってきた時の扉もなくなっている」


 カートの目にも扉は確認できない。


「バグが発生したようだな」


「バグ?」


「よくあることだ。制御装置が不具合を抱えたまま動作をする機械なんて、五万とあるものだ」


「じゃあどうするの? プログラムミスでゲームオーバーなんて洒落にならないわよ」


 ここまでノリノリで楽しんでいたソニアは、最後の最後で肩すかしをくらって不満をぶちまける。


「心配はいらない、バグが発生した時点でこの世界は空間を保てなくなっている」


 カートは部屋の端まで歩み寄り、岩壁に向かって斬りつける。


 剣で切りつけた傷などではない亀裂が拡がり、先ほどの氷塊と同じように粉々に砕け散る。


 そこはよく見覚えのある電脳空間になっていて、目の前にはシステム制御回路があった。






 カート達が電脳空間に潜り込んだ後、ラリー達は工作機から生み出される援軍の絶えないガードロボットを相手に奮戦を続けた。


 戦闘開始から時間にすれば、たかが十分程度だが、息つく間も与えられず呼吸も乱れてしまう。


「カートのヤツ、なに苦戦してやがるんだ!?」


「しょうがないでしょ、古代から蘇った超文明の遺産だもの、いくらカートでもそう簡単にはいかないわよ」


 一時休戦し、互いの死角を補い合い、潰しても潰しても減らない敵にアゴも上がってくる。


「しょうがないとは思うけど、早くしてぇ」


「待たせたな」


「おせぇよ」


 俯き目を瞑っていたカートが声を上げると同時に、一斉にガードロボットは機能を停止させた。


「今晩の打ち上げはお前の奢りだからな」


「ああ、いいだろう」


 全員が一カ所に集まったところでカートは、外部カメラの映像を各員のウィスクに転送した。

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