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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion01 白の章
25/144

Episode25 「まだ何か出てくんのかよ!」



「お前はリリアス=フェアリアを連れてシュピナーグへ戻ってろ」


「えっ、カートさんは?」


「俺はあいつ等と決着をつける」


「なら俺も」


「リリアスは初めて人の死に立ち会ったのだろう、今の状態は一人にするべきではないだろう」


「……分かりました」


 敵の狙いがカートにあると知っているのに、下がってしまっていいのかと考えたが、確かにリリアを放ってもおけない。


 先輩の言うことに従い二手に別れると、リーノは真っ直ぐ格納庫へ向かい、シュピナーグにリリアを乗せようとする。


「おい、どうした?」


「ら、ラリーさんかぁ……」


「驚かしたのは悪かったが、トリガーを引くのは相手を確認してからにしろよ」


 右頬にヒットするはずだった弾丸を躱し、拳骨をリーノの頭頂部にヒットさせた。


「なんでお前らだけ撤収しようとしてんだ」


 リーノはラリーの質問に簡潔に纏めて答え、カートの指示に従ったと伝えた。


「なるほどな、おいちびスケ」

「なによ」


 リーノに肩を借りているリリアが顔を上げる。


「お前は姉ちゃんに会って、目的は果たせたのか?」


「ソニアに聞きたかったことは聞けたわ」


「じゃあ、もう星に帰っても悔いはないよな」


 ラリーは最初に顔を合わせた時から思っていた、リリアはリーノを利用して宇宙に飛び出したのだと。


「悔いは残るわ。……言ったでしょ、私はリーノの為にフェニーナになるって」


 それは最初に宣言した通り、リリアはリーノのプロポーズを受け止めた流れを貫く。


「そうか、覚悟ができたってんなら、しっかり自分の足で立て」


 リリアはベルトリカに残ることを望んでいる。


 ラリーはその想いは、常にリーノの隣にいることだと察して、厳しめの言葉を投げ掛けた。


「ラリーさん、リリアはまだ……」

「いいよ、リーノ。ラリーが言う通りだ。私はみんなと一緒にいるんだから」


 リリアが使っているロボットは、操縦の全てを脳波コントロール装置に委ねられている。


 座席にいる妖精は眠るようにしてサイバー空間に潜り、自分の体のようにフレームを自由自在に操ることができる。


 フレームを覆う肉感を持たせたクッション材にも触覚があり、事情を知らない者からすれば、それは生身の存在と変わりない。


 つまりロボットを操作するのには、リリアの情緒が直結する。


 リーノの心配もラリーの叱咤も、リリアの心を支え、ロボットは一人で立ち上がる。


「行こう、やっぱり私、ちゃんとソニアと話がしたい。グワンの実を本当に食べちゃったってんなら、新しく採るか、買ってでも返して貰う」


 リリアはラリーに見透かされた自分の感情を隠して、先頭に立って歩き出す。


「どこに行くつもりだ?」


 ラリーに声を掛けられて振り返った表情は、表現しづらいものだった。






 カートが招き入れられたのは、これと言った調度品もない広い空間。


「ここは自動工作室よ。外で飛び回っている無人機はここで生み出されるの」


 ヘレンと新たなベック=エデルート、ソニアル=フェアリアが扉とは反対の壁の前に立ち、カートとの間には無数の人型ガードロボットが待ち受けている。


「これもこの船の中で見つけたの。無人機同様、ここの機械で量産もできるのよ」


 頭に付けた発信器で命令を送り、かなりの数の機械兵士がカートに一斉に飛びかかってくる。


「なんだと!?」


 その一体一体の動きは、現行の最新型ガードロボットの3倍は素早く、打撃力も倍ほどはあるだろう。


 それらがヘレンの指揮下で統率の取れた動きをする。


 真っ向から対決を!


 ラリーやリーノならその選択肢もあったのだろうが、カートは近くに入力可能な端子を見つけ、イズライトを使ってロボットを奪い取るべく接続しようとする。


「やはり罠か。こいつにアクセスした途端に高圧電流で眠らせるつもりだったか」


 こういった事態は常日頃から起こりうる為、オリビエが作ったチェッカーを先に差し込むようにしている。


 蓄えられた電力をアースで逃がし、端末に再度アクセス。


 通電し続けているが、そちらもバイパスに回避させて微電流を注ぎ込む。


「バッ!?」


 迫ってくるガードロボットを警戒しつつ、取り付いた端末からの電撃は完璧に対処できた。


 まさかのその襲撃はソニアだった。


「この子にはあの馬鹿力と、蜥蜴のスピードを覚えさせてあるから、この状況ならきっと警戒しないと見越したのは正解だったわね」


 ボディーへの一撃、カートは何とか耐えて見せて端末から離れて後方に飛ぶが、ソニアのスピードはそれを上回り、背中側から首を捕まれる。


「ソニアのコピー能力はオリジナルに比べるとかなり落ちてしまうから、正面からじゃあ相手にもならないだろうけど、あなたなら私やベックが動かない限りは、最短での決着を考えると思ってたわ」


 ソニアは左手の掌を相手の首筋に押し当てて、対象の能力を読み取る。


 カートのダメージは大したことはなく、すぐにソニアの手から抜け出すが。


「マスター、コピーできました」


 相手の精神状態が正常では、能力のコピーをすることはできないが、カートは戦闘の緊張と、直撃を受けたダメージで抗う事が出来なかった。


「なるほどな、こうしてバシェット=バンドールとデルセン=マッティオの能力をコピーしたと言うことか」


「システム浸食能力を安定化します。マスターの魅了は消去されます」


「あらら、声に出して言わなくていいって言ったのに、言いつけを聞けないってことは、それはお約束だったのね」


 人の能力をコピーするなんてスペシャルにも程があると思われたが、流石に色んな制限はあるようで、複写できる数もどうやらシビアに縛りがあるようだ。


「便利な能力が手に入ったしね。暫くはそれで固定してね。必要になったら指示するわ」


 目的を果たしたソニアは飛んでヘレンの元へ戻る。


「もうあなたに用はないわカート、後はガードロボットと遊んであげてね。このブロックごと廃棄してあげるから」


「ここを去るのはお前も一緒だ。ヘレーナ=エデルート」


 動きを止めないガードロボット。


 カートはシステムを乗っ取ることは諦めて応戦に転じる。


 そこに横槍を入れる者。


「あなた、誰?」


「おいおい、小さい頃から目を掛けて可愛がってやったのに、俺の氣を忘れたってのか?」


 カートが入ってきたのとは別の入り口から姿を現した大男。


 バシェットのようにただ筋肉を付けただけとは違い、均整の取れた体躯は、ラリーよりも力強く、カートほどのスピードを持ち、リーノのように柔軟性を持っている。


 カートは自然と男の体を見て恐怖を覚えた。


「ラオ=センサオ……」


「えぇ、ラオってあのお爺さん? だってあなたの目の前で死んだんでしょ?」


「見た目に囚われるなんてお前は里で何を学んできたんだヘレーナ=エデルート」


 見た目は三十代後半だが、肉体は全盛そのもの、どう贔屓目に見てもヨボヨボの御老人と結びつけることはできない。


「良くできた傀儡かいらいであったでろう」


 長年にわたり影武者に里の導き手を演じ、本人は今まで何をしてきて、そもそも目の前にいるこの男はいったい何歳だというのだろう。


「カート!」

「ラリーか」


 ラオとヘレンが睨み合う中、ようやく到着したラリーとリーノ、リリアが割って入ってくる。


「役者は揃ったと言うところか、さてそれではこのブロックを廃棄してやろう。お前の望み通りになヘレン」


 ラオ=センサオは声を高らかに宣言する。


「金色の船、イグニスグランベルテよ。お前の真の主であるこのラオ=センサオの声を聞け」


 ラオの言葉に応えるように振動する金の船。


「な、何をしたのよ。この船を動かすカードは全て手に入れた。私がこの船のマスターよ」


「お前は何も分かっちゃいない。この船を手に入れたくば、発掘と共に手に入れるべきはこの船の名前。イグニスグランベルテと呼べた者が真の持ち主となるのだ」


 振動は更に大きくなり、ブロックは分離された。


 ラオもまた一緒に飛ばされたかと思いきや、大男の姿は消えてしまう。


「空間転移か?」


 ラリーは突進してきて、カートの周りのガードロボットを一気に弾き飛ばし叫ぶ。


「端末に取り付け、この大きさのブロックならスラスターがまだ生きているはずだ」


 重力制御も切れて空中浮遊するカートは器用に端末に取り付いた。

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