Episode22 「くだらねぇことを、いつまでも言ってんじゃあねぇ!」
ベルトリカの到着を待たずして、警察艦隊は戦闘を継続できる船を一隻も残す事ができなかった。
艦隊指揮官の警察幹部は開いた口が塞がらず、深くシートに腰を落とした。
「最後の小型艇の脱出を確認しました。
艦隊旗艦を始め、大型艦は艦橋がそのまま脱出艇となるが、中型艦以下の戦艦は搭載された小型艇に乗り換えなくてはならない。
時間を稼いでくれたランベルト号、ブルーティクスには感謝しかないが、艦隊指揮官だけは責任転嫁の対象に当て、最小限の被害で済んだ警察機構艦隊の脱出艇は、無事に宙域から離脱することができた。
「包囲網が解けたのに、なぜアイツはここから動こうとしないんだ?」
リーノは次元震の感知が起こらないかを見張っているのだが、今もまだ転移の兆候は見られない。
「よーし、外に出るぞ」
三人は各々のモビールに乗り込み、アークスバッカーと夜叉丸が飛び出していく。
「また一緒に出るのか?」
「そうよ。さっきので気付いたもの、リーノは視界が狭くて危なっかしいのよ。私がレーダー索敵してあげるから感謝してよね」
驚いたことが一つ、リリアはつい先日まで文化の香りの感じられない原始の森に住んでいたのに、ここ数日で電子機器に随分と慣れてきている。
偏に役に立ちたいと思い、なによりリーノの為に頑張っている。
『どうした、何かトラブルか?』
「いえ、すぐ出ます」
出遅れたリーノにラリーからの通信が入り、慌ててシュピナーグも発進した。
『ちびスケも一緒なのか?』
「はい、俺のサポート役を買って出てくれて……」
『そうか分かった。遅れるなよ』
降ろしてこいと怒られるかと思ったが、すんなりとリリアの参加は受理されて、タンデムのシュピナーグは速力を上げて前の二機に並ぶ。
「このくらいの加速なら平気か?」
「気を遣わなくていいわよ。このロボットの性能なら、リーノより耐久力上なんだから」
ロボットの緊急射出装置のGは、ロケットの打ち上げにも匹敵する。
加えてシュピナーグの慣性制御の掛かったコクピットで、負担は皆無に等しい。
「なるほどそうか。それでも最前線に出るんだし、あまり無理しないでくれよ」
目視できる距離に目標の金色の船、私語を続ける場面ではなくなり、リーノは加速砲のセーフティーを解除する。
『よ~し、先鋒はリーノ、お前からだ。次がカート、最後に俺が突っ込むからな』
敵の砲撃はランベルト号が盾になってくれている。
その陰を利用して可能な限り近付いてから、次元の断層が薄いポイントを弾き出してくれたティンクの指示に従って粒子加速砲を照射。
『断層の歪みを検知したわよ』
「ソアか?」
『そうよ、こっちで計測はしてるから、変化があれば全部モニターに出してあげる』
『行くぞ』
シュピナーグは進路を開けて、突進する夜叉丸が刀を振るう。
断層破壊をする振動波をぶつけると、何もない空間にヒビが入り、数回の振り下ろしで、空間のヒビは網目状に拡がる。
その中心に光の塊と化したアークスバッカーが突入。
空間に穴が開き、そこへベルトリカは断層を破壊するミサイルを撃ち込み、波も治まって通常空間のみとなった。
「リーノ、金の船から小型機がいっぱい出てきたよ」
レーダーを監視していたリリアからの報告。
小型機の大きさはモビールサイズ。
後方に下がっていたブルーティクスが突出して、無人機を発進させてくれた。
ランベルト号は主砲で進路を確保すると荷電粒子砲を古代船に放つ。
『ちょっと何よあれ!?』
粒子の波が何かにぶつかって四散した。
『何があったガキんちょ』
『あの船が張ってるシールドが荷電粒子を分解しているみたいよ』
『ただのビームシールでではないと言うことか。リーノ、アイツに粒子加速砲をお見舞いしてやれ』
ラリーの指示を受け、リーノはランベルト号の荷電粒子砲に合わせて発射、敵に傷一つ負わせる事はできない。
『あんな強力な防御装置を持ってるのに、なんで次元断層なんて使ってんだ? あの船だって無限にエネルギーが使える訳じゃあないだろうに』
いまそんな疑問はどうでもいい。
人智を越えた古代兵器からの反撃。
『重粒子反応』
古代船の大砲は、ランベルト号のシールドを一発で撃ち破り、真っ赤な船体からは被弾の炎が上がる。
『やべぇな、ランベルト号ほどの巨体じゃあ避けるに避けらんねぇか、ティンク!』
『はいはぁ~い』
『ベルトリカが盾になれ、あいつの相手はどうやらこっちが相性がいいみたいだ』
「いいんですか? あんなの喰らったら一溜まりもないでしょ? 航宙船としても小さめのベルトリカですよ」
『俺を信じてお前はあの船に取り付け。お前のイズライトなら辿り着けるだろう』
機動力を活かして懐に潜り込め、発進前のブリーフィングでもそう言われた。
その時は軽口も叩いて見せたが、今の一撃を見て脳天気に強がりが返せるほど、リーノは修羅場というものを知らない。
「が、合体しましょうよ。ラリーさん」
『お前はまだそんな!』
「聞きましたよソアから」
『ガキんちょ!?』
『いやだって、あれだけ口喧しくせっつかれたらさ』
いい加減に面倒くさくなって、リーノが納得できるように懇切丁寧に説明してやったのは数分前のこと。
『合体はしない。いいか必要ないものは使わない』
「なんでですか、必要なくてもいいじゃないですか」
『バカを言え、あれは金がかかるんだよ。一回使っただけでフルメンテが必要だからな』
「それが理由ですか?」
『それ以上の理由がいるか! なんならお前がアンリッサから承認を得てみせろ』
子供のようにダダをこねていたリーノだったが、会計の名前を出されては引き下がる他ない。
『グダグダ言ってる暇はないぞ。突っ込め』
今回は引く他ないと諦めるが、いつかどうしても合体しなければならない時を夢見て、リーノは金色の船を目指す。
「意外とあっさり取り付けたな」
「カートから通信、ハッチが開くから乗り込めだって、ラリーが私も付いて行っていいって」
「んなっ!?」
ブルーティクスが小型機のほとんどを引きつけてくれて、重粒子などの砲撃もランベルト号が採算度外視で反応ミサイルも使って、全力で囮になってくれた。
お陰で敵機銃と小型機数基だけを軽くかわして、シュピナーグは夜叉丸を伴って、古代船に張り付く事ができた。
カートが目の前にあるハッチを開けてくれて、格納庫に入り込む事ができたリーノ達は、エアロックを抜け、生命維持装置の働いた船内に潜入した。
外ではまだ激しい砲撃戦が続いているのに、船内は物音一つない静けさがだった。
「行くぞ」
「行くってどこへ?」
「先ずは動力室だ」
船内マップを頭に入れてあるカートが道案内をし、先ずは船の動きを止めるべく動力室を目指す。
三人が走り出した途端に防衛装置が働き、通路はガードロボットでいっぱいになる。
自立型のマシーンを相手に、リーノの二丁拳銃が道を拓く。
動力室までの道のりはさほど険しくもなく、いつも六本のエナジーパックを持っているリーノはその二本を空にするだけで、一つめの局面を乗り越えた。
そこで三人を待ち受けていたのは、リリアにとっては千載一遇の、カートにとっても因縁の顔合わせ、二つの人影が立ち塞がった。
「まだ邪魔をするのかカート」
「ベック、お前ではこの船を持て余すだけだ。別の方法を探す事をお勧めする」
「笑えない冗談だ。この船がノインクラッドの銀河評議会に辿り着いても、そんな与太話を続けるつもりか?」
こんな中途半端な宙域で足踏みをしているから、なにか問題を抱えているのかとも考えたが、どうやらベックには何か別の理由があるようだ。
「何か足りない物でもあるのか?」
「足りているものの方が少ないのは確かだな。だがこの数時間でこの船の驚異を全銀河に示す事はできた。後はベルトリカとランベルト号を沈める事ができれば、つまらないちょっかいを出してくる者もいなくなるだろうさ」
つまりベックは今後の憂いを二隻の発掘船と位置づけ、ここで決着をつけようとしていたのだ。




