Episode20 「俺達が主役なんだよ!」
格納庫で自分のモビール、シュピナーグを見上げるリーノ。
粒子加速砲は確かに戦艦にも有効だが、相手は歴史にも残らない昔に造られた物だと言っても、超文明の遺産だ。
こちらの戦力は中型の航宙船と三機のモビール。
その内の一機はパイロットがいない。
それでもランベルト号とブルーティクスもいるし、警察機構軍もいる。
戦力的には問題ないはず。
「どうかしたのか?」
「ラリーさん、いえなんでも……」
古代船は現在、警察機構が鋭意捜索中。
「何か気になる事があるのか?」
「いや、その……」
考え倦ねる少年に鉄拳が見舞われる。
「なにするんですか!?」
「うるせぇ、なよなよせずにハッキリしろってんだ!」
「いやだから、俺達ここまでど真ん中で関わってきたのに、最後になって後ろから指をくわえて見ているだけになるのかなって?」
「なんでそうなるんだよ?」
いちいち拳が振り下ろされ、リーノは失神寸前。
「だって、俺達の装備で大型船を相手なんて……、なんかもっと強力な装備があればな。って」
ハンター養成所時代に学んだ戦術を元に考えれば、この展開はベルトリカチームは後方待機がセオリー。
「そんなの知ったこっちゃねえよ」
敵の中に仲間がいる以上、黙って手をこまねいているつもりはない。
ラリーならそう言うだろう。
「俺達にも出番がある。いや、この件は俺達でケリを付けなきゃならん。それに必要な装備は揃ってるんだ。次の展開に備えて整備をしっかりしておけよ」
ラリーの依頼で警察が動いている、今は待機をして、しっかりと準備を整える時間だ。
言われるまでもなく、メンテナンスはもう終わらせている。
ちらりと格納庫の片隅に目をやると、身代わりロボットのオーバーホールを終えたソアが、ベルトリカの艤装チェックを行っていた。
リーノは後ろに立ってモニターを覗き込む。
「なぁに、なんか用?」
「ああ、いやソアってロボット工学の権威なんだよな」
「自分から名告った事はないけどね」
小さなチョコレートを口に入れ、幼女は開いていたウインドウを閉じて振り返る。
「それで?」
「いやこの戦い、やっぱり俺達が前に出るには火力が足りないと思うんだけどさ」
「へぇ、ただの単細胞ではないみたいね」
明らかにバカにされているが、言われている事に間違いはない、と言う自覚があるので反発はしない。
「けど大丈夫でしょ。この船なら一対一でも戦い方次第で勝利も得られるはずよ」
フウマから受け取ったデータを解析したのはソアとオリビエだ。
追っている古代船は、警察機構大艦隊と渡り合える力があると断言した。
「何より厄介なのは防御能力ね。防御というか位相を隔てた空間断層で攻撃を通さないから、通常兵器は先ず当たらないと考えた方がいい」
なのにデタラメな古代船の砲撃は断層を越えて、通常空間に被害を与える事ができる。
「そんなの反則じゃあないか」
「そうね」
このアウストロダム銀河で位相差空間を利用できるのは、超速航行を実現させる為に膨大なエネルギーを注ぎ込んでいるゲートウェイでのみ、戦闘のための実用などはまだまだ、長い年月をかけた研究が必要となる。
「それが分かってるんなら」
「だから大丈夫って言ったでしょ。いいからちゃんと準備して、つまらない失敗のないようにね」
「そ、それなら巨大ロボット! なんかこう、絶対最強とか熱血無敵みたいなドカンとしたヤツを造ってくれよ」
「はいはい、私も暇じゃあないんだから、早く持ち場に戻りなさい」
年齢は8歳でも、中身は短絡思考の16歳を窘められる耳年増。
格納庫ではリーノがいつまでも五月蠅いので場所を変え、事務室でウインドウを開く。
「なにか揉め事か?」
「そんなんじゃあないわよ。ただリーノが可笑しくてね」
「笑いたければ年相応に大笑いすればいいだろう」
「本人は至って真剣なんだもの、笑っちゃあ悪いでしょ」
ソアの幼女らしからぬ言動に、ラリーも吹き出しそうになる。
「それであいつはなんて言ったんだ?」
「巨大ロボットが欲しいんだって、自分達の機体見て、何も気付かないのかしらね」
特に夜叉丸やシュピナーグは、どう見ても腕と足なのに。
ラリーのアークスバッカーも見る角度によっては頭部が確認できる。
「腕だの足だのは無駄なもんなのにな。特に宇宙空間じゃあよ」
ただ三機のモビールの動力を直結して得られるエネルギーはバカに出来ない。
シュピナーグが下部に備えている粒子砲の威力は桁外れに向上する。
「シュピナーグ単機でも戦艦と渡り合える砲撃だもん、合体したら空間断層だってあっさり抜く事が出来るわ」
更には夜叉丸の刀も、刀身にエネルギーを纏わせる事で切れ味を増して、これもまた次元の壁を越える力となるだろう。
「使うんでしょ?」
「趣味じゃあないんだがな」
合体した姿を見ればリーノが興奮して使い物になるかもしれないが、使わずに済むとは思えない。
「それにしてもどこで手に入れたの? この航宙船とモビール。出所は追いかけている船と一緒よね」
「……お前を囲ったのは正解だったな。どこまで知ってるんだかは知らんが、俺はこいつらを貰い受けただけだ。詳しい事は何も知らん」
前リーダーのフランソア=グランテは謎多き女性だった。
本人に確認できない今、古い話を気にしてもしょうがないと言うのが、ラリーの結論である。
「ふーん、オリビエも知らないって言ってたし、まぁ私としては面白いものを、調べられるだけ調べさせてもらえるなら、どうでもいい話なんだけどね」
「だったら聞くなよ」
ソアはベルトリカの全艤装を、自分のウィスクで操作できるようセッティングを完了した。
これでラリーがこの船にいない時は、ソアがコントロールルームに入ることなく、砲撃を担当する事が出来る。
「手間かけたな」
「いいわよ。私に合うシートがないんじゃあ、しょうがないでしょ」
25歳と8歳のミーティングとは思えないやりとりも終わり、後は警察からの報告を待つだけ。
ティンクは二人のためにコーヒーとホットミルクを用意してくれた。
艦隊の集結は着々と進んでいる。
遅れて到着したベルトリカは最後方に位置付けた。
「ここでいいんですか?」
位相差空間を渡って空間跳躍した古代船。
すでに追いつけないほどの距離を離されているのではと心配したが、発見されたのはガテンとノインクラッドの中間点より、600万Kmノインクラッド寄りのポイント。
ゲートウェイの設置してあるノインクラッドから来る警察機構の艦隊が先に到着するのは当然。
「まだ随分と距離ありません?」
それでも通常の惑星間航行船の三倍速で、亜光速ドライブが使えるベルトリカが最後の船ではない。
通常空間を移動する亜光速ドライブでは、一般の旅客便なら丸一日かかるガテンとノインクラッドの距離、警察の船ですら半日は掛かる。
「後から来た方が前に出てますよ、ラリーさん?」
「ぎゃあぎゃあ騒ぐな! 俺達の第一目標は敵の包囲じゃあない。ティンク、信号は掴んでるか?」
『大丈夫だよ。ちゃんと指定ポイントに向かってる』
艦隊の進む方向とはコースを外れ、ベルトリカは一つの小惑星に降りた。
「警察が行動を起こすのは後どれくらいだ?」
『向こうが動かなければ、三時間後のはず』
ティンクがこっちには回されていないはずの、警察無線を傍受して手に入れた情報だ。
因みに現在クララリカ巡査は、直属の上司であるアポース巡査長の元に戻っている。
「あんまり余裕はねぇな。あいつは?」
『もう来てるよ。夜叉丸を発進させるね』
「夜叉丸をって!?」
「決まってんだろ、あいつを迎えに出すんだよ」
夜叉丸を発進させるためにベルトリカのハッチが開いたその時、警察からの通信が入った。
古代船が先に動き出し、戦闘は始まった。




