Episode23 「大人しくお縄につきやがれ!」
ガテンでの追跡は間に合わず、取り逃がしたヴァン=アザルドの足取りにも見失ってしまった。
カートに遅れること5時間、アポース巡査長との行動を終えて、ベルトリカにラリーが帰還してすぐに、フランの提案でミーティングが行われた。
「客船事件からこっち、噂も聞かなくなったヤツの名前が、頻繁に挙がるようになって2ヶ月、ようやく足取りが読めてきたと思ったんだがな」
変装をすることなく、パスパードに集まるクリミナルファイターに情報を求めるアポース。
「旦那こちらへ」
荒くれ共からの歓迎を受け、あっと言う間に包囲される。
「俺たちの中心へ」
「おやっさん、こいつらは?」
友好的な連中は全体の3割。
「おお、ラリー。俺は今からこいつらと話がある。他の連中の相手はお前に任せるぞ」
残りの7割はラリーと拳で語り合うこととなった。
「まっ、まさか俺をここに連れてきたのって、このためか!?」
問答無用で向かってくるファイターは、ラリーと縁のある連中だった。
「こいつら見覚えあるな、……俺が以前にのした奴らか。いいぜ、来いよ!」
あの港での喧嘩とは違う。歯ごたえのあるファイターばかりだが、頭に血の上ったラリーの敵ではなかった。
「なんだぁ、もう終わりかぁ!!」
吠えるラリーが、アポースの情報収集の間にのした人数は38人。
ラリーの暴れっぷりを見て、荒くれ者どもも無闇に突っ込むのをやめ、睨み合いとならなければ、あと25人は相手にしなければならなかっただろう。
アポースが引き上げると言ってからも、飛びかかってくるやつを2人ぶん殴りパスパードを出た。
「念のためにフル装備で来るように。って言われていたんでしょ?」
「それこそ挑発にしかならねぇだろ。たかが喧嘩に銃やナックルはねぇよ」
「それでもヘッドギアくらいはつけておきなさい。それ以上バカになったら洒落にならないよ」
「頭を打たれるようなヘマはしねぇっての」
バカになる云々は聞き流し、ラリーは傷の手当てを続ける。
「背中側は俺が塗ってやろう」
「おお、サンキューな、カート」
パスパードに集められたのは、金で雇われた言わば傭兵みたいな頭数。
アポースの世話になり、恩義を感じている犯罪者が複数いるらしいからと、話しを聞きに行ったのだ。
とは言え、その供述を信用するかどうかは、巡査長とフラン次第という事で。
「これでヴァン=アザルドの行動が読めると?」
「試しに調べてみたら、ヒットしちゃったのよ。これがパブリックカメラの映像に」
アポースが聞き出したヴァン=アザルドの行動予定通りに、監視映像をチェックすると。
全ての映像に映る、あるデータが一致する人物が特定され、自動追尾を始めたとフランは言う。
その設定されたデータとは身長と骨格。
服は色や簡単な形を、ボタン一つで変えることができる。
市販の物なら後から照合できると言うが、決定的な証拠とはならない。
やはり抑えるなら身体的特徴が必要だが、どんなトリックがあるのか分からないが、ヴァン=アザルドは顔の形を一瞬で変えられる。という証言が多数上がっている。
「監視カメラの映像だけじゃあ、顔や服装での追跡は不可能だけど、そこに身長と骨格のデータを合わせれば」
「確かに絞り込めてるな。ときどき2人以上にマーキングが付くな」
そこから数分後、顔と服装が替わっている容疑者に、マーキングを残して追跡は続けられている。
今、設定した人物が潜伏しているのはワールポワート。
キリングパズールからほど近い開拓惑星。
そのほとんどが観光客とあって、ノインクラッドやキリングパズールと比べるとあまりに人がいなさすぎる。
その中でも特に人影のない山奥に追跡者は向かう。
『まずいわ。そんな奥地まで行かれたんじゃあ、カメラでは追えないわね』
フランはアックスバッカーで待機するラリーに話しかける。
「もしかして失敗か?」
『ふふん、あまいあまい。こんな事で撒いたと思っているなら、ヴァン=アザルドは恐るるに足らずね』
ほくそ笑み、自信満々のフランはアックスバッカーにデータを転送する。
「これは?」
『ねっ、あからさまに怪しいでしょ。間違いなくなんかの罠か誘いか』
「だが、ここに何かあるのは間違いなさそうだな」
森の中に微かな反応、熱量からしてモビールが隠されている。
「行ってみるしかないか」
『とっくにワールポワートに向かってるけど、あと1時間くらいかかるわよ』
「分かった。カート、一緒に来てくれ。ティンクはベルトリカでフランのサポートな」
後手後手なのはしかたない。でも今度こその決意を持って、ラリーとカートは到着したワールポワートへ降りていく。
モビールはあった。罠はなかった。ターゲットはいた。奇襲は成功しなかった。
「ようクソガキ、久し振りじゃないか」
「おっさん、こんな所で何をしてんだ。ってか、こつこつと準備して何を企んでるんだ?」
「おいおい、サプライズを前もって教えるヤツがいるかよ」
「迷惑なサプライズならお断りだぜ」
背後に回ったカートが跳びかかる。
「ようカートも、久し振りの再会に興奮しちまったかぁ」
「キサマ、またフウマの若者を!」
カートの愛刀“烏丸”を受け止めたのは、名前は知らないが、里に戻った時に聞いた行方不明者の少年A。
「カート、お前の後ろにまだ2人いるぞ」
カートは大きく後ろに下がった。残りの2人もフウマの少年、BとC。
その表情はラリーと出会った頃の自分にソックリ、カートは洗脳が解かれた時のことを思い出す。
「強い衝撃を与えれば……」
「残念。確かにお前はそれで正気に戻ったが、ガキはチビになればなるほど、深層まで支配できるようになる。元に戻すには、殺すくらいのショックを与えるしかないぞ」
ヴァン=アザルドを守るように立ち塞がる3人は、いずれも8歳だとヘレンが言っていた。
「やる事は変わらねぇぞ、カート。眠らせるくらい簡単だろ?」
そうだ、まともに相手をしてやる必要はない。
諜報員になるべく訓練を始めたばかりの子供が3人。無力化するのは至って簡単。
後は里へ送り、元に戻してもらえばいい。
「こっちは任せておけ」
「逃がしたら承知しないぞ」
カートはラリー達から少し距離を取る。少年達がそれを追う。
ヴァン=アザルドはラリーしか見ていない。それが気になったが、カートは少年たちに集中する。
「時間はかけられないな」
訓練を始めたばかりと聞いていたが、体術の基本はできている。氣の練り方も悪くない。
5歳からの初期教育課程で、この3人は既に将来を嘱望されていたことだろう。
「こいつらは高位工作員になれるだろうな」
少年Aを中心にフォーメーションを組んでくる。そんな戦術は、まだ訓練で教えられていないはず。
「……人知れず潜入して、これだけ優秀な子供を狙いうちで、3人も連れ出せるものか?」
3人の内の2人が正面から連係攻撃を続け、残りの1人がカートの死角に周り込む。入れ代わり立ち代わりしかけてくる。
「末恐ろしいな」
タイミングもバッチリで、反撃もしにくい。
「俺が教官なら満点どころか、ボーナス点も付けたくなるな。しかしだ!」
少年たちの動きは、訓練プログラムに忠実すぎて、次の手が読めてしまう。
「これが外部活動を許可された者の実力だ。意識はなくても体は覚えているだろう」
簡単なフェイントに引っかかり、カートの誘導にあっさり乗り、本人達には自覚のないうちに気絶させられてしまった。
「目を覚ましても面倒だな」
カートは黒い丸薬を腰につるした小さな袋から取り出して、少年達の口に放り込み、姿勢をいじり呑み込ませた。
「これでよし、ラリーはどこへいった? ヤツを抑えただろうな……、なに!?」
カートはラリーの位置情報を探っていて、そのアクシデントへの反応が遅れてしまった。




