Episode22 「後手後手が続くよな!」
銀河評議会はパスパードのように、放っておくと消滅する恐れのある惑星には、積極介入して自治権を奪って最悪の事態を防いできた。
パスパードと同じ文明レベルのガテンは、平和を維持する時代を迎えながらも、小さな紛争や戦争も絶える事はない。
しかし未だ評議会が手を出さない、危うい均衡を保っている。
「どうだ?」
カートの要請で応援に入ったヘレンは、ヴァン=アザルドに限定してネットチェイスするが、正午を過ぎても何もヒットしない。
「本当にこの星にいるの?」
「ああ、俺がここへ来る2時間前に入り、ヘレンに引き継ぐまでに出て行った形跡はないそうだ。フランがキャッチしてくれた」
「またあいつ? 仲がいいのね」
「フランと俺が? 有り得んな」
「あら、もしかして苦手なタイプ?」
「そうだな。アイツは直ぐに俺をからかってくる。お前ソックリだ」
ヘレンはまた不機嫌になり、八つ当たりをするようにキーボードを叩く。
「しかし、ヘレンでも手掛かりすら見つけられないとは……」
「それって褒めてる? どう聞いても嫌みなんだけど」
「褒める? 本物の力を持つお前を俺が?」
嫌みに聞こえるのもしょうがない。カートは自分にない力を持つ者に抱く劣等感を、隠さない性格なのだから。
それを知った上でなお不満を抱くヘレン。
「お前が考えているような事を言ってるんじゃあない。ヘレンが掴めない。しかし相手はガテンにいるようだとなれば、それは探りを入れていない場所なんじゃあないか? と言う話だ」
「えっ、なにそれ。まさかあんた、里の事を言ってるの?」
それ以外に心当たりはないが、それこそ考えられない話だ。
「フランが潜入した時は、ヘレンに気付かれて目的を果たす事しかできなかったと言っていたが、邪魔する者がいなければ」
「分かったわよ。調べてあげるわよ」
ここまできたら覚悟を決めるしかない。だがその前に一つカートに条件を突きつけた。
「もしも上層部に咎められたら、アンタの所為だからね。一生養ってもらうからね」
「俺が養う? 里を抜けると言う事か?」
「……冗談よ。今回はあんたの依頼だからね。後始末までちゃんと責任取ってくれたらそれでいいわよ」
「それじゃあ、頼む」
念のためにカートのイズライトでシステムを黙らせると、ヘレンは里の管理装置を調べ、異変をキャッチする。
「はっ、有り得ないわ」
「何を見つけたんだ?」
「だから! 有り得ないのよ」
ヘレンは自分の端末をカートのウイスクと接続する。
「あなたの言う通りだったわね」
「未登録者がなぜ、そんな所まで入れるんだ!?」
里の諜報員であっても決して跨げない敷居の奥。
これ以上先に進もうにも、ヘレン達では許可を得ることはできないだろう。
「ヘレン、ダイブをする。フォローを頼めるか?」
「ちょっと待って、あなた今までそんなフウマの中央まで潜った事あるの?」
「必要がなかったからな。これが初めてだ」
「危険よ!」
「お前が傍にいなければやらない。多分フランには任せられない。ヘレンだから試してみるんだ」
ズルイ言い方だ。そんな風に言われては、これ以上は止められない。
「……分かった。それじゃあこれを着けて」
「ペンダント?」
「それにはバイパスがセットされているわ。万が一の場合は強制ダイブアウトするから」
ダイブシステムの事故を軽減するため、バイパスを設けるのは当然の措置。
ただここでいうバイパスは一般的に使われている物とは違う。カートのイズライトの為の特別な物。
カートは能力を使って、システムに干渉出来るほどに高い脳量子を電子化する。当然脳への負担も大きく、危険も比べようがないほど高くなる。
「当然、実験らしい実験はできてないわ」
それでもあるとないでは大きく変わる。
心に余裕があれば、ネットダイブは楽になるのだ。
「行ってくる。奥まで入れるようになったら信号を送るから、データ収集は頼んだぞ」
「……ああ、もう! やってやるわよ! 仕事が終わったら、丸一日は私のオモチャ決定だからね」
結論から言えば、ヴァン=アザルドはもう里にはいなかった。
2人がネット内を探索中にガテンを脱出したと、フランからの連絡があった。
ヴァン=アザルドはガテンにあるモノを手に入れる為に来た。
それがあるのはフウマの里のとある場所。
今回のようにデータを確認するだけでも、いくつものセキュリティを抜けないといけない里の奥。
それをどうやってか、ヴァン=アザルドは目的の場所まで入り込み、どうやら目的を果たしている。
「結局何も分からないままか。とんだ無駄足だったな」
カートに仇討ちの意識は残っているが、それ以上にヴァン=アザルドによって、また犠牲者が出るのを阻止しなくてはならない。
「ありがとう、助かった。ここでお別れだな」
「ダメよ。今夜は帰さないからね」
ヘレンの仕事は完了した。報酬の一部としてカートを一晩自由にできる権利を、フランから得ている。
本当は丸一日を希望したのだけれど、認められたのは半日以下だった。
「まったくフランも、この忙しいときに何を考えているんだ」
「何を言ってもダメよ。今晩のあなたは私の物」
実験のできていないアイテムを使用したのだ。経過を観察せずに次の行動なんて認めるわけにいかない。
2人はガテンで一番大きな大陸の、東方に位置する島国の首都にある、高級ホテルのスイートルームを取った。
「なんとも贅沢だな」
「いいでしょう。銀河評議会が絡むと報酬が段違いよね。しかも今回はご氏名の依頼。副賞も贅沢だわ」
「こういうのに興味があったとはな」
「組織の末端では一生できない贅沢よ。めいっぱい羽を伸ばすわよ。朝まで寝かせないからね」
「お前、俺を休ませてくれるつもり、だったんじゃあないのか?」
「もちろんよ。覚えてない? 私は神業オペレーターであり、神業マッサージ師でもあるのよ」
スイートルームの浴室で垢を流し、食事をルームサービスで終わらせると、カートをベッドの上に引っ張り上げ、シャツを奪い取るヘレンは頬を朱に染める。
「どうかしたか?」
「カート、いい体してるね」
「……熱でもあるのか」
うつ伏せになるカートの背中にもドキッとし、彼の腰に両手を当てる。
「手が冷たくて気持ちいいな」
緊張のあまり熱が手が冷えてしまったけど、カートにそれがいいと言われて悪い気はしない。
「なるほど、言うだけの事はあるな」
「ビックリするくらい効くでしょ? でも私もビックリよ。こんなに無理をして、少しは体を労りなさいよ」
骨格の歪みを戻し、丁寧に筋膜を剥いて揉みほぐす。
「まだ背は伸びているの?」
「いや、もう半年くらい、あまり変化はない」
街を並んで歩いて驚いた。いいや、6年振りなのだから当然だ。
幼い頃の面影を残した幼馴染み、性格も変わってない様に思えたが、違和感は否めない。
「ねぇ、私はまたあなたに会えるのかな?」
「……どうだろうな」
「私も実動部隊員として励んでいれば、里から出られたのかしら」
「工作員の中でも里を出るのは一握り。俺がその中に組み込まれたのもただの偶然だし、外部工作員は仕事を終えれば、里に戻されるのが通例だ。評議会絡みでコスモ・テイカーになるなんて前代未聞だからな。今後の事も分からん」
この帰郷で、カートがベルトリカに登録される許可を出したのが、親方様だと知った。
なにか理由があるのは間違いないが、それを知るとしても今ではない。
「それにヘレンの能力を、上層部が手放すとは思えんしな」
それは我ながらそうだと思う。
けどそれを、カートの口からは聞きたくなかった。
「まぁ、いいわ。その気になれば不可能はない。ヴァン=アザルドが教えてくれたしね」
鉄壁のフウマの里にだって、その深層部にまで侵入できる者がいる。
カートを誑し込んで、既成事実を盾に付いていく計画はここまで。
今はまだ、他のアイディアは浮かばない。
ヘレンはマッサージを終わると、特に何も言うことなく寝床につき、就寝をした。




