Episode13 「宇宙船戦闘ってスゲーな!」
豪華客船から離れたベルトリカは少し距離をとった。
「いいのか、客船を護らなくても」
「私たちの依頼主はあくまでキャリバー海賊団。地獄の沙汰も金次第。客船から直接交渉があるなら、それはその時」
そんな後味の悪い事をフランがするのか、ラリーの知らない何か裏があるのではないか。
「アンリッサに何か言われているのか?」
「な、なにって、何もないよ。なに言ってんの!?」
態とらしい。アンリッサとフランの事だ、何かを掴んでいるのは間違いない。
「……アークスバッカー、使わせてもらうぞ」
「勝手を言わないで。今は見ているだけよ」
ラリーには言えない何かが起きている。
襲撃者が何者なのかを知っているのかもしれない。
「さぁ、観戦しましょう。謎の海賊船とランベルト号が交戦するわよ」
謎の海賊団はアザルドを名乗っている。
「聞いた事ないな。大型船に中型船が2隻、結構な元手があるようだ。新参では有り得ないな」
「ブラガ、あいつらはなんでこんな、警察機構軍の巡回航路で襲ってきたと思う?」
警報から3分、キャプテンシートに沈むように、腰を折るミリーシャは状況を確認する。
「お早いお帰りですな」
「会場の近くにエアーロックがあったからな。宇宙空間を飛べば、あっと言う間だ」
初めての宇宙遊泳を、エルディーのサポートはあったとは言え、慌てることなくランベルト号のブリッジ裏に取り付いた。
「キャプテン、どうも様子がおかしい。機構軍が動いていないみたいだ」
「通報に対する回答です」
ブラガは目線をモニター画面から移すことなく、索敵兼通信士が回答内容をキャプテンシートに転送する。
「ノインクラッド近辺で大規模戦闘って、一体なにがあったっての?」
それは戦闘後に判明するのだが、これはブラフ情報だった。
そもそもの警報が警察機構軍に届く事もなく、全てがアザルト海賊団の下準備にハメられた結果だ。
「どうします? ベルトリカが離れていきましたが」
「ラリーめ、……いや、これはフランの仕業か。離れたと言っても離脱したわけではないだろう? 今は目の前の敵に集中する。客船が危なくなるようなら、客船がベルトリカを当てにするだろう」
ノインクラッドの案件が落ち着けば、警察機構軍も来てくれることを期待し、ランベルト号のメインエンジンに火が点る。
高濃度粒子を散布するランベルト号は、敵のビーム攻撃を物ともせず前に。
「中型船が左右に分かれて、回り込もうとしています」
「砲撃開始、問答無用で撃沈していいわ」
それは混沌の宇宙の海で生まれた暗黙のルール、撃たれたら撃ち返せを実行する。
ランベルト号が放ったのもビームだが、高濃度粒子はまるで生きてでもいるかのように、穴を開けて荷電粒子を通し、砲撃後の防御を固める。
被弾する中型船が撃ち返してくるが、それも赤の船には届かない。
「フェルミ粒子増大、前方の大型船です!」
それが敵の切り札であろう、フェルミオン砲の充填が完了しようとしている。
これを凌げれば、敵の戦意を削ぐ事ができるはず。
「荷電粒子砲で迎え撃つ!」
「うむ、キャプテンの決定に従おう。荷電粒子砲準備を」
相手は発射寸前。素人でも間に合うはずがないと分かるタイミングだが、トップツーの判断は違っている。
「60%でいい。間に合わせて」
ランベルト号のフィギュアヘッドは人魚。
その下の隔壁が開き、荷電粒子砲が姿を見せる。
「敵粒子砲、臨界のようです」
「こっちは?」
「充填42%」
機関士からの報告、推算のエネルギー量には達していないが、それに賭けるしかない。
「砲、きます!?」
「発射!!」
閃光防御は各自に任せ、短く発射命令を出す。当のミリーシャ自身は間に合わず、目を瞑って顔を背けるのみ。
「まだまだですな。キャプテン」
「ブラガ……、自分だけズルイではないか」
サングラスを外す副長はいち早く状況を確認、ミリーシャに報告する。
「粒子砲の競り合いは流石に負けてしまいましたが、ランベルト号のシールドで残りを霧散させる事に成功しました。無傷ですよ、我々の船は」
ブラガの指示で再充填は開始される。
ビームを撃とうにも出力が下がっているので、ここはミサイルで対向するようミリーシャが命令する。
敵の中型船に向かうミサイルは、全て艦砲で落とされてしまうが、先のビーム攻撃でかなりダメージを与えられていたようだ。
後方に廻られた中型2隻だが、しばらく放っておいても大丈夫だろう。
「大型船もこっちの熱量を関知して、再充填を開始したようです」
これは好機である。後方の船は確かに戦力を落としているが、まだ沈黙しているわけではない。
大型船が乱戦に持ち込んでくれば、全方位されたまま、近接戦を余儀なくされてしまっていた。
近接戦で多くのモビールを出されでもしたら、いかなランベルト号でもただでは済まなくなる。
「充填率80%。敵はまだ先の砲撃の半分くらいにしか、熱量は達していません」
あれだけの粒子砲を連射できるだけでも、敵船のランクの高さが計り知れるというものだが、仮にも古代文明を取り入れたランベルト号の敵ではない。
「対閃光防御。今度こそ終わらせるわよ。……発射!」
先に撃ったのはランベルト号。数秒遅れでフェルミオンが飛び出すが、荷電粒子の前にあっさり吹き飛び、大型船は閃光に飲み込まれた。
「……全く、最低の幕引きだな。ラリーには負けてしまったが、最高のショーであったというのに」
どこかでダンスの相手に指名しよう。そして今度こそ逃がさないようにしよう。
同業とは言えないが、似たもの同士の海賊とテイカー、繋がりが断たれる事はない。
「左舷後方、高速で突っ込んできます」
荷電粒子に飲み込まれた大型船は、炎に焼かれて轟沈する。
そちらに注目している間に襲ってきたのは、中型船のうちの1隻。
荷電粒子の連続発射で、シールドも解除されたランベルト号に特攻を仕掛けてきた。
だが……。
「中型船、沈黙。ベルトリカの援護です」
『よぉ、大丈夫か?』
「何しに来た?」
『お前らがやられたら、誰から報酬をもらえるんだよ?』
「そんな心配はいらん。私らに何かあっても、客船会社からお前達の取り分は受け渡される。その客船を放っておいて、なにかあったらどうする?」
『なに!? フラン、お前これはどういう事だ?』
敵の狙いは間違いなくこのブリッジだった。
ベルトリカチームに助けられたわけだが、それを悟られるわけにはいかない。
自分たちは助けなんてなくても切り抜けられたと、相手に思わせる必要がある。
「敵船はまだ1隻いたはずだ」
ブラガが索敵に確認させる。ものの例えに口にしただけだったのに、いなくなった1隻は豪華客船を狙っている。
「不味いぞ。もうやつらは彼の船の目前だ。恐らくは乗客もあの会場に集まったままだ。副長、私らも突撃艇で乗り込むぞ」
勝利を確信した後の急展開、今から向かったところで、乗客並び船員が人質に取られたら逆転負けが確定する。
「ラリー、追加の依頼よ。報酬を受け取りたいなら、問答無用で参加しなさい」
ランベルト号は間に合わなくても、ベルトリカの足ならまだ間に合うはず。
あの中型船のサイズからして、乗組員の数はたかが知れているだろう。
ラリーの腕なら、足止めもできるはずだ。
『ダメよ。今回のは相手が悪い。ベルトリカはこの件から手を引く。ショーの代金も請求しないわ』
ラリーからベルトリカのコントロールを奪い返し、フランがミリーシャに返答する。
「そんな事を言っている場合じゃあ」
『ごめんなさい……』
通信は一方的に断ち切られた。
ここに来て足の速いベルトリカを当てにできないとは……。
「くそ、なんなんだ!?」
もう打つ手が思いつかない。ミリーシャは唇を嚙んだ。
「落ち着けキャプテン、突撃艇はもう客船だそうだ。エルディーの判断が功を奏した」
その突撃隊長から、賊の進行は水際で食い止めていると報告を受け、ミリーシャは士気を取り戻し、ブラガと共に豪華客船を目指して宇宙空間に飛び出した。




