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マイン ~僕を導いてくれた場所~  作者: 木野かなめ
第四章――シクラメンの咲くアプローチ――
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第7話――超贅沢よ、こんなの――

 バスを降りた後、トラたちは(おん)の先導に従った。


 向かった先は亀山(かめやま)商店街だ。どの店もシャッターを閉め、人通りは皆無。暗い道をてくてくと五分ほど歩き、温は商店街の横道へと入った。

 するとその道筋には、二、三軒の間隔で灯りの点った店が並んでいた。ジャズバーからは軽快なベース音が流れ、化粧品屋の窓の奥にはコーヒーを飲む老夫婦の姿が見える。まるで祭りに並べられた提灯のような光がトラたちを挟みこむ。一軒の古びた日本家屋の前に差しかかった時、温はぴたりと足を止めた。


「到着です」


 ここ? なんだか時代劇に出てきそうな瓦張りの家だ。本当に合っているのだろうか。


 だけど温は慣れた調子で磨り硝子の戸を横に滑らせ、家屋の中に入っていった。仕方なく、トラとすくねも温に続く。


「やあ、藤原(ふじわら)さん」

 金茶色(きんちゃいろ)の灯りの奥から、若い男の声が聞こえた。

 男の手前にはカウンター席が三つ。奥は座敷になっていて、二箇所に設けられた掘り炬燵には和式のテーブルが架かっている。古びた外観とは不釣り合いな、小洒落た内装だ。


「こちら、マスターの(みなと)さん」

 温が言うと、紹介された港という人はゆっくりと頭を下げた。目は大きく、彫りが深くて南国的な顔つきだ。だけど笑った顔は愛嬌たっぷりに見える。

「こんばんは、後輩の尾崎(おさき)といいます」

在布(ざいふ)といいます。今日はよろしくお願いします」

 トラが手をこすりながら挨拶をすると、港は、お、という顔をした。

「きみがトラくんか! 誕生日おめでとう。クリスマスが誕生日とか、すげーな」

 すごくない。三百六十五人を集めてくれたら、単純計算で一人くらいはいそう。だけど港がよく通る声で褒めてくれたものだから、トラは素直にお礼を言った。

「よっしゃ、そしたらみんなはカウンターに座ってえな。今日は頑張ってごちそうをつくるぞう! 最後にはケーキも用意しとるけんなぁ」

「えっ、ケーキ?」

 すくねの表情がぱあっと咲いたものだから、みんなして笑ってしまった。


 暖房の利いた部屋がかじかんだ手にありがたい。トラは毛細血管の隅々が拡大していくような感覚を覚えながら、指定された席に座った。今夜はいちおう主役なので、三つの席のど真ん中だ。茶色く(くすぶ)ったカウンターテーブルは日本風で、細かい木目が入っていた。


「いきなりじゃけど、これでも食べてん」

 目の前にドカッと厚切りのローストビーフが置かれる。前菜にしてはすごい。どうやらコースで予約をしているみたいだけど、この後はどんな料理が出てくるんだろう。

「そういえば、他のお客さんは?」

 すくねが、バーベキューソースを箸で伸ばしながら訊く。温は手と手を合わせて、うふふと笑った。

「ちょっとね。せっかくだし、貸し切りにしてもらったの」

「え! クリスマスなのに?」

「まあまあ。そこはいいじゃない」

 温は簡単に言うけど、すくねは「いいのかー。超贅沢よ、こんなの。いいのかな」と難しい声を漏らす。

 トラだって、ちょっと驚いた。念には念を入れて一万円をもってきたのだけど、これで足りるのだろうか? 足りるよな……、きっと。


 だけど支払いのことばかり気にしていたら、楽しめない。

 トラは大きく口を開けてローストビーフにかぶりついた。身は柔らかく、一回噛んだだけでもっふりとほぐれる。柑橘系(かんきつけい)のソースの味が口中に広がった。


 隠し味はたぶん、柚子だ。


挿絵(By みてみん)

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