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マイン ~僕を導いてくれた場所~  作者: 木野かなめ
第四章――シクラメンの咲くアプローチ――
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第1話――ショックに沈んでいてはいけないのだ――

 秋の日々が過ぎるのは、早い。


 十月に入る頃には、トラはある程度の元気を取り戻していた。


 温とすくねのどちらかが先導役であり、あと半年が経てばこの世界から消えてしまう可能性は高い。当然、できることなら例の本の謎を解き、彼女たちにはいつまでもこの世界に留まってもらいたいと考えている。


 だからトラはまず、『先導者』という言葉の成す意味について調べた。

 一番手っ取り早いのは、温とすくねに「きみが先導者なのか」と訊いてみることだ。多少のリスクはあったが、トラはこれを敢行した。

 ところが返ってきたのは、ともにずれた答えだけだったのだ。すくねには「あんた、変な宗教でも始めたの?」と心配されたし、温には延々と中国の古いロボットについての講義を受けることとなった。それは先導者じゃなくて、先行者だろ。


 トラはやむなく、オリーブからもらった本を繰り返し読んでみた。読んでいるうちに内容に変化が生じるかもしれない。だが本の中身は初めに読んだ時から一文字も変わらず、こちらの取り組みも空振りする結果に終わってしまった。

 では、日本の中でかつて同じような事例がなかったか。鹿の子の本、先導者、移動図書館のオリーブ、等々のキーワードでネット検索をしてみたけれど、トラの欲している情報は一つも見つからなかった。図書室の文献にも、ヒントはまったく見当たらない。


 そして季節は十月半ば。空は高く広く、甘い香りが空気中に漂っている。鰯雲(いわしぐも)が西に向かって集団行進をする真下で、トラは伸銅品(しんどうひん)工場の門の前に温と並んで立っていた。


 温は温で自分のやり方で『おにいちゃん』の行方を調べてみたようだったが、こちらも手がかりはなし。そこで、前回はすくねが事故に遭いかけたこともあって中まで入ることのできなかった工場を見学してみようという話になったのである。


 温が横目でトラに笑いかける。

 トラはこのちょっと変わった先輩を、大切な友達として捉えるようになっていた。

 それはすくねも、義夫(よしお)もそうだ。山咲(やまざき)中学の給食は選択制方式なので、希望者は給食を注文することもできるが、購買で弁当やパンやサンドイッチを買って食べてもいい。夏休みが明けて以来、トラたち四人は購買で昼食を購入し、学校の中庭にあるベンチで一緒に食べるようになった。ゼラニウムの葉が秋風に揺れ、百葉箱の壁面に小さな天道虫がとまる。クラスメイトたちは、またあの四人、みたいな感じで窓の向こうからトラたちを指差してくる。だけどトラはこの時間を過ごせていることを、なによりも大切に感じていた。


 いつまでもショックに沈んでいてはいけないのだ。

 トラはトラなりに最善を尽くし、せっかく仲良くなれた四人の時間を心から楽しむ。温がアンケート用紙を取り出し、すくねがトラにあびせ蹴りをくらわし、義夫は義夫で芝生に横たわり半分寝ている。生まれも育ちも年齢も違う四人が気兼ねなく時間を同一にできている様は、トラからすれば東洋や西洋の宝物をぎっしりと詰めこんだ秘密の箱みたいにも感じられたのである。


「トラくん」


 温のまるい声で、はっと現実に戻る。目の前には駐車位置を指し示す白線と、『分析』という看板の立てられた平屋の建物。トラの斜め上に、とろんとした温の瞳があった。


「今日は、気づいたことがあったらなんでも教えてね」

 どうやら温は、以前にトラが鉱山関係の言葉を発したことに期待をしているらしい。

「でも、ほんとに僕、鉱山のことなんてなにも知らないんですよ」

「それでもいいわ。ほんと言うと、私、トラくんと工場見学をしたかっただけなの」


 嘘かまことかわからないが、ドキリとさせるような言葉をこの先輩はよく吐く。


 ワンピースの緩い布地の上からもわかる、豊かな胸。くびれたウエストライン。トラが呆けたように温を見ていると、事務所棟から社長以下、重役と思われる面々が現れた。


挿絵(By みてみん)

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