114、王族との昼食会
アルテュル様と市場に行ってから、見かけ上は平穏な毎日が続いている。アルテュル様は以前のように、俺たちに罵詈雑言を言うようなことは無くなった。
それによって俺たちの生活は前より平穏になったけど、合同授業などで見るアルテュル様が、一人でいることが増えたので少し心配だ。前は取り巻きの人がいたのに。
でも俺から話しかけるわけにもいかないし、とりあえず様子見をするしかない。今度リュシアンにでも近況を聞いてもらおうかな。
そんな感じで二週間が経ち、今日は王家から昼食への招待を受けた日になった。
俺とリュシアンは特別食堂への入り口で待ち合わせをし、二人揃って王家の特別食堂に向かった。
コンコン。
「リュシアンとレオンでございます」
「入れ」
「失礼いたします」
ドアを開けて入った先は、公爵家の特別食堂と作りは同じだったが豪華さがまた一段階上だった。流石王族だな。
「座ってくれ。従者は下がらせて私が呼ぶまでこの部屋には入らないように言ってあるから、丁寧な態度は崩してくれていい」
「わかった。じゃあいつものように話すぞ?」
「ああ、そうしてくれ。レオンもな」
「わかったよ」
俺たちはそんな会話をしながら席に着いた。テーブルの上には既にたくさんの料理が置かれている。従者の方が運ばなくて良いように全ての料理をテーブルに並べたからか、凄く豪華な感じだ。
「やっと一緒にお昼を食べられたわね」
「結構早かったと思うけど? リュシアンと早いねって話してたんだ」
「早くないわよ! 私はもっと早くしたかったわ。でもお兄様が準備が必要だというから……」
「王立学校で子供だけとはいえ、王族が沢山の貴族を招いて昼食会をするのだ。準備に時間がかかるのは仕方がないだろう」
「それは分かっていますが……」
「まあまあ、こうして無事に昼食会ができたんだから、とにかく楽しもうよ。ね、リュシアン」
「あ、ああ、せっかくの時間なんだから楽しまないとだよな」
「確かにそれもそうね。ではまずは食事をいただきましょう」
ふぅ〜、危うく第一王子と第一王女の兄弟喧嘩が始まるところだったよ、危なかった。
俺たちはまずは食事を堪能することにして、しばらくはぽつりぽつりと世間話をしながら昼食を楽しんだ。
王族の食事は、勿論めちゃくちゃ美味しかった。
そしてあらかたお昼を食べ終わり、食後に紅茶を飲みながらまったりしていたところでリュシアンが口を開いた。
「そういえばレオン、友達を紹介してくれるって言ってたよな。確か名前はロニーだったか? あの時はまだ緊張してるから無理だって話だったけど、そろそろいいんじゃないか? 訓練場でよくレオンと一緒にいる者だよな?」
そういえばそんな話してたな。確かにロニーも最初の頃よりは慣れて来てるから良い気もするけど、この三人に紹介したら慣れてるとか関係ない気がする。
でもずっと断ることはできないし、ごめんロニー。悪い人たちじゃないのは俺が保証するから頑張ってくれ。
「確かにそろそろ慣れて来ただろうし紹介するよ。ステファンとマルティーヌにもだよね」
「ああ、よろしく頼む」
「勿論私にもお願いしますわ」
「じゃあいつが良いかな? 今日の放課後とか?」
「そうだな。では、今日の放課後に玄関ホールに待ち合わせでいいか?」
放課後の玄関ホールって、生徒は殆どいないから丁度いいかもな。
「うん。それでお願い」
「楽しみが増えましたわ。気合を入れていかないとですわね!」
「マルティーヌ、気合は入れなくていいからね。いつも通りでいいからね」
いつものマルティーヌで充分ロニーの心臓には悪いから、気合を入れたマルティーヌなんて攻撃力が増すだけだから!
「そうだ。三人共教室で少し時間を潰してから玄関ホールに来てくれる?」
「何でだ?」
「ロニーは普通の平民なんだ。貴族との待ち合わせで平民が遅れていくとかロニーの心臓がもたないよ」
先に三人が待ち構えてるのは、流石にロニーが可哀想だよな。少しでも攻撃力を弱めておかないと、ロニーの心臓がやばい。
ただそのことを理解できないのか、ステファンが首を傾げて不思議そうにしている。
「私たちが許しているのならいいと思うが?」
「ダメなんだよ。平民にとっては貴族より先に待っていたという事実と、貴族よりも遅れたが許されたって事実は全く違うから! だから絶対にゆっくり来てね。教室で十分くらい時間を潰してから玄関ホールに向かって、お願い!」
「まあ、レオンがそこまで言うならいいが……」
「ありがとう!」
これで少しはロニーへの心労が減るだろう。こういう認識の違いを感じると、この三人は王族と貴族なんだなって改めて思うよな。まあ逆に言えば、それ以外のところでは王族と貴族ということを忘れかけてるってことなんだけど……。でもしょうがないよね! 普通に話してると忘れるんだよ!
「何かお近づきの印に贈り物をした方が良いかしら?」
マルティーヌがまた不穏なことを言い始めた。贈り物なんていらないから!
「マルティーヌ、贈り物はいらないからね。笑顔で挨拶するだけで充分だから!」
「そうかしら?」
「そうだよ! 絶対だからね!」
「まあ、わかったわ」
そうして俺が何とかロニーへの負担を減らそうと奮闘していると、リュシアンがふと何かを思い出したような声を上げた。
「そういえば今日魔法具の授業があったんだが、その授業の終わりにロンゴ先生に言われたぞ。今日の研究会は必ず全員参加だそうだ」
「そういえばリュシアンと話していたな。授業の話をしていたのかと思ったが、研究会の話だったのか」
「その伝言ならば、私たちにも直接伝えてくださればよかったのに」
「ロンゴ先生が、王族に話しかけると目立つからと言っていたぞ」
「確かにそうですけど……」
マルティーヌは納得がいかないのか、少し頬を膨らまして不機嫌そうだ。でも俺はロンゴ先生の気持ちがめちゃくちゃわかる。
王族と話してると目立つんですよね。そして何の話をしているのかと聞き耳を立てられるんですよね。教室で話しかけたら注目の的ですよね。ロンゴ先生、めちゃくちゃわかります!
ロンゴ先生とこの話で語り合いたくなったが、とりあえずこの話は置いておこう。まずは、必ず全員参加ってとこだよな。何かあったのだろうか? 今まではこんなこと一度もなかったよな……
「何かあったのかな? ロンゴ先生は理由を言ってたの?」
「言ってなかったぞ。理由を聞いても教えてもらえなかったんだ。ただ、ロンゴ先生は深刻そうな顔と言うよりも楽しそうな顔をしていたな」
じゃあ何か良いことがあったってことか? ロンゴ先生の良いことっていえば、新しい魔法具を思いついたとか?
確かにそれなら全員を集めてもおかしくないかも。
「新しい魔法具でも思いついたのかな?」
「その可能性もあるかもしれないな」
「もしそうだったら、ロンゴ先生に先を越されてしまったわね。まだピュリフィケイションの魔法具は全然進展していないのに……」
「ピュリフィケイションの魔法具はやっぱり難しいよね」
どうしても魔力効率が悪すぎるんだよな。何とかして良いイメージがないかずっと考えてるんだけど思いつかないし……。何か他の方法も考えないとだよな。
「私とリュシアンも、まだまだ新しい魔法具は思いついていない」
「私は自分で作ろうとしてみて、初めてレオンの凄さがわかったぞ。あんなに沢山の魔法具を思いつくなんて、天才だな」
「ああ、私もそう思う」
「私も改めてレオンは凄いと認識を深めてるわ」
そ、そんな、急に褒められると照れるんだけど!
しかも俺の実力っていうよりも、日本の発明家達の実力だし。マルティーヌはそのこと知ってるよね?
そう思ってマルティーヌを見てみると、悪戯が成功したような顔をしていた。うぅ〜、やられた。
ここで俺が前世の記憶を持っていることを話しても良いんだけど、それでもこの話をするのはどうしても怖くて先送りにしてしまう。この話をして気味悪がられたら、流石に立ち直れない。
結局俺は、素直にお礼を言うしかなかった。
「……ありがと」
そうして生暖かい空気のまま昼食会は終わりとなり、俺は教室に帰った。ロニーに放課後のことを話さないと。
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