105、リュシアンの気持ち
今までの話をまとめると、公爵家の勢力が有利になるんだよな。それに、もし女神様が神託をしてくれたら一発で公爵家の勢力が勝てそうだ。神様なんて強大な存在に逆らいたい人なんていないだろうし。
あれ? ちょっと待って……もしかして俺の存在意義が消えかけてる!?
もし女神様への信仰心が高まってまた教えを守ろうってことになれば、平民の優秀さをわざわざ示さなくてもいいよな? そうなれば俺は公爵家にとって特に必要ないんじゃないか……?
いや! でも、女神様の教えは平民と助け合うことだから酷い扱いは受けないだろうけど……でも、怖いことに気づいちゃったかも。
公爵家の皆様は凄く良い人達だしそんなことないって思いたいけど、でも俺が使える人材だから優しくしてくれてるっていうのもあるわけで……
でも、魔法はかなり使えるからまだ有能だと思ってもらえるか? 全属性だし! あぁ〜でもそれも、もし使徒様がまた現れたらそっちの方が凄いに決まってる!
待って、頭がごちゃごちゃだよ……
「えーと……ということは、公爵家の勢力が勝てるということですか? もう対立もなくなるのでしょうか?」
「いや、そんなことはない。神託があったわけでも使徒様が現れたわけでもないからな。それに、一度欲をかいて手に入るかもと思ったものを手放すのは案外難しい。敵対勢力の貴族達はそう簡単に考えを変えることはないだろう。逆に今まで王家がどちらの支持も表明していなかった時より、危ない状況になるかもしれない」
「そーなんですね……ただ、それだと女神様に逆らうことになりませんか?」
「そうなるが、今までいくら女神様から音沙汰がなかったとはいえ、現状で既に逆らっている者が多くいるのだ。今更考えを覆すのは余程のことがないと厳しいだろう」
そんなものなのか……誰か逆らってる人に天罰でも起きない限りわからないって感じかな?
でも確かにそうかも。実感湧かないよね。
俺も神様なんて言われても実感湧かないし。
それなら、まだこれからも貴族間での対立は続くんだな。まだ俺は役に立てる人材なんだ……良かった。
本当は対立がなくなったほうが良いはずなのに、俺は思わずホッとして表情を緩めた。さっきまでは結構顔が強張っていたみたいだ。
「レオン君にはこれからも、家の勢力の手助けをお願いしたい。これからは表面上は何もなくても、水面下では色々と起こるかもしれない。気をつけてくれ」
「かしこまりました」
リシャール様にそう言ってもらえて心底ホッとした。俺は深く頭を下げてから顔を上げる。すると、難しい顔をしたリシャール様と目があった。どうしたんだろう?
「レオン」
急に隣のリュシアンからそう呼ばれた。そっちを向くと、リュシアンは悲しそうな顔をしている。
……どうしたの?
「どうされたのですか?」
「レオンは、用済みになれば私たちがレオンを捨てると思っているのか?」
……え? 俺はその言葉を言われて思わずフリーズしてしまった。何で俺が考えてたことわかったの?
「そんなことはありませんが……私が必要なくなったら、ここにいる理由は無くなると思いました」
「そんなことはないぞ! レオンは私の大切な友達だ! それだけでここにいる理由になるだろう?」
「リュシアン様……」
「レオンにとって私は、そんな簡単に捨てられるような関係なのか!?」
リュシアンが泣きそうな表情で怒っている。そんなつもりじゃなかったんだ。でも。リュシアンからしたらそう感じるよな……
俺、タウンゼント公爵家の皆様に本当によくしてもらってるのに、失礼なこと考えてた。もし能力だけが目当てなら、一緒に公爵領に行く必要もなかったし、毎日一緒に夕食を食べる必要もないよな。
……家族のように大切にしてもらってたのに。
……リュシアンとも兄弟のように過ごしてきたのに。
俺は馬鹿だ。
「本当にごめん……そんなつもりじゃなかったんだ。リュシアンのことは本当に、本当に大切な友達だと思ってる! ただ、最初に公爵家に招かれた理由は俺の能力だったから…………本当にごめん!」
「次、次にまたさっきみたいなこと言ったら許さないからな!」
「うん。もう絶対に言わない。約束する」
「言わないだけじゃなくて、考えてもダメだからな!」
「わかった。もう考えないよ」
「……それならもういい」
リュシアンはそこまで言って恥ずかしくなったのか、俺とは反対を向いてしまった。耳まで真っ赤だ……
俺は真剣に反省していたのに、思わず顔が緩んでしまう。だって、リュシアンが照れてるの珍しいんだ!
思わずニヨニヨした顔でリュシアンを眺めた。リュシアンって俺のこと予想以上に好きなんだな。なんかすごく嬉しい。胸がぽかぽかする。
貴族だからとか平民だからとか関係なく、これからはもっとこの関係性を大切にしよう。身分に拘ってるのは俺の方だったのかも。
そんなことを考えながらずっと見つめていると、視線を感じたのかリュシアンが俺の方を見た。
「なっ……何でこっちを見てるんだ! それにその気持ち悪い顔は今すぐやめろ!」
「え? そんな顔してる?」
「してるぞ! だらしない顔だ!」
なんかリュシアンがめちゃくちゃ子供っぽい。年相応って感じだ。いつもは大人っぽくて凄いと思ってたけど、やっぱり子供らしい方が素が出てて良いな。俺は思わず笑ってしまった。
するとリュシアンが今度は怒ったような顔になった。
やばいやばい。流石にこれ以上からかったら本格的に怒られそうだ。俺はそう思って仕方なく前を向いた。
そこで俺の顔はサァッと青ざめた。や、やばい! リシャール様いたんだった!
ずっと放置してたよ。それだけじゃなくて、リュシアンに思わずタメ口で話しちゃったよ!
「リ、リシャール様、申し訳ございません」
「うん? 何で謝るんだ?」
「いや、その、リュシアン様に敬語を使っていなかったですし、リシャール様を放置してしまい……」
「そんなこと気にしなくて良い。リュシアンとはいつもそうして話しているのか?」
「……はい。他の方がいない時は」
「そうか。そこまで二人が仲良くなってくれて嬉しいよ。これからもよろしく頼む」
えっと……お咎めなし……?
「良いのですか……?」
「ああ、他の者が周りにいない時ならば問題はない」
そうなのか……良かったぁ。でもこれからはもっと気をつけないと。もうタメ口で話す方が慣れてきちゃって、思わずタメ口が出ちゃいそうになるんだよな。本当に気をつけよう。
「リュシアン、レオンと仲良くなれて良かったな」
「はい!」
「これからも仲良くしなさい」
「お祖父様、かしこまりました!」
リュシアンが満面の笑みでそう答えた。リュシアン子供モード入ってるな。いや、違うか。いつもが大人っぽいモードなのかな? 外行きモード?
何にしても、リュシアンと仲良くなれて良かった。これからもずっと友達でいれたら嬉しいな。
俺はリュシアンとずっと友達でいられるとわかり凄く安心して、幸せな気持ちでニコニコと笑っていたが、そうなると今度は貴族の対立が怖くなってきた。
今までは、遠いところで起きる出来事みたいに感じてたけど、実際に俺の身に降りかかるかもしれないことなんだよな……そう考えると怖い。
しかも今までより内戦が起こる危険性は高くなるみたいだし……そもそも、内戦ってどうやって起こるんだろう?
貴族も兵力を持っていて武力で王位を目指すとか? もしそうなったら確実に平民も巻き込まれるよね! ヤバい、もっと真剣に考えないとダメかも。
ちょうど良い機会だし、リシャール様にちゃんと聞いておこう。
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