94、中心街で買い物
「リュシアン、買い物はどこに行ったら効率的かな?」
「そうだな……調理器具はタウンゼント公爵家がいつも使っている商会があるから、そこに行けばいいだろう。食材は市場に行くのが早いんじゃないか?」
「ありがとう! じゃあまずは商会からでいい?」
「そうだな。そちらはすぐ近くだから先に行くべきだ」
リュシアンは、すぐに御者に行き先を告げてくれた。そして、馬車に揺られること五分ほどでその商会に着く。
俺たちが馬車を降りて建物の中に入っていくと、入り口の近くにいた従業員が対応をしてくれて、店の奥にいた従業員が裏に入っていった。
誰か呼びに行ったのかな?
「リュシアン・タウンゼント様、お越しくださり光栄です。申し訳ございませんが、そちらの方を紹介していただけますでしょうか?」
「ああ、こちらはレオン、我が家の客人だ。今日はレオンの買い物で私は付き添いだ」
凄いな。リュシアンのことは顔を見ればわかるのか。リュシアンは、まだ王都に住み始めてからそれほど経ってないのに。写真もないから絵姿で覚えるのだろうか? それともさりげなく顔合わせなどがあるとか?
「ありがとうございます。レオン様、お初にお目にかかります。シュゼーグル商会のリュカと申します」
「タウンゼント公爵家でお世話になっている、レオンと申します。よろしくお願いします」
そうして挨拶を終えたところで、さっき裏に入った従業員が中年のおじさんを連れてきた。優しそうに見えるけど、厳しさも兼ね備えてるって感じの人だ。
「リュシアン様、当店まで足をお運びくださり光栄です。レオン様、お初にお目にかかります。シュゼーグル商会の商会長、ジスランと申します」
俺の名前いつ聞いたんだろう? さっきの会話聞いてたのかな?
というか、お店に入ってからの一連の流れがスマートでカッコよすぎる。有能な従業員と社長って感じで羨ましいなぁ。
日本ではサラリーマンになってバリバリ仕事をこなしてやるって思ってたのに、就職もできなかったからな……悲しくなるよ。
「タウンゼント公爵家でお世話になっている、レオンと申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。本日はどのような御用でしょうか」
「はい。今度屋台を始めたいと思っておりまして、そのための調理器具が欲しいのですが」
「かしこまりました。調理器具ならばたくさん揃えております。こちらへどうぞ。リュシアン様もご一緒にご覧になりますか? 応接室へご案内もできますが……」
「私も一緒に見るぞ」
「かしこまりました。ではリュシアン様もこちらへ」
そうして案内されたのは、店の奥にある一角だった。凄い! かなりの量の調理器具があるな。これはワクワクしてくる。
「どのような調理器具が欲しいか、お決めになられていますか?」
「はい。鉄板、フライパン、お玉、フライ返し、ボウル数個、まな板、包丁、泡立て器、スプーンが欲しいんですが」
「かしこまりました。ではまず鉄板ですが、大きさが三種類ございます…………」
この後、必要な調理器具を全て吟味しながら選んでいたら、かなりの時間がかかってしまった。三十分以上はかかったかも……でも良いものが買えたな!
鉄板は、クレープが二枚焼ける大きさにした。慣れてきたら二枚同時に焼いてもいいし、片方は焼いた皮を温めるために使ってもいいだろう。泡立て器も形状は違うけど、それっぽいものは買えた。その他の物も、使いやすくて丈夫そうなものを選んだ。めちゃくちゃ良い買い物が出来たな。
「本日はありがとうございました。またお越しくださいませ」
「はい。また調理器具が必要になった場合は、ご相談させていただきます」
「お待ちしております」
俺は支払いを済ませ、リュシアンと共に馬車に戻って来た。ふぁ〜、ちょっと疲れたよ。馬車の中は買った調理道具でいっぱいだ。
「リュシアン、時間かかっちゃってごめんね」
「私も楽しかったから大丈夫だぞ」
「そっか、それなら良かった」
俺はホッとして思わず笑みが溢れた。途中から、待たせてリュシアンに申し訳ないと思ってたんだ。
あれ? そういえばこれらの調理道具って、屋台に置きっぱなしにはできないから毎回持っていかないといけないんだよな? そうすると荷車がないと無理じゃん! これに食材も追加で持っていかないといけないし。
ロニーの家に荷車で調理器具を運んでおいて、ロニーには学校が終わったら一度家に帰って、荷車を持って屋台に向かってもらおう。その途中にある市場で食材も買えば完璧だな。
それには荷車を買わないと。
「リュシアン、荷車ってどこで買えるのかな?」
「何で急に荷車なんだ?」
「この調理器具を、毎回屋台まで運ばないといけないから」
「そういえばそうだな……荷車なら屋敷に余っているものがあるはずだ。それを使えばいいだろう」
「え!? いいのかな?」
「ああ、そこまで高いものでもないしいいだろう」
「ありがとう!」
良かった! 少しでも節約できるのは嬉しい。予想以上にお金かかってるもんな。
「次は市場に行くので良いんだよな?」
「うん!」
それから少しの間馬車に揺られて、市場に着いた。市場って言っても中心街にある市場だから、高価なものが売られていたり、綺麗なお店が多い。
それに、普通の市場は馬車が入っていけないところが多いけど、ここは馬車が入れるほどの広さがある。俺は今、馬車の窓を開けてお店を吟味しているところだ。
「あっ、ここで馬車を止めてもらえますか?」
俺は御者に向けてそう言った。小麦粉が売ってるお店と調味料が売ってそうなお店があったのだ。
市場には、リュシアンは安全のために降りられないから俺だけだ。今日は学校からそのまま来て、ジャックさんがいないからな。前に護衛なしで行きと帰りは大丈夫なのかと聞いたら、御者はとても強く護衛になるから大丈夫なのだそうだ。
「じゃあ行ってくるね」
「ああ、気をつけろよ」
馬車から降りてまずは小麦粉のお店を見てみる。うーん、小麦粉ってやっぱり一種類しかないんだよな。日本には薄力粉とか強力粉とかあったはずだけど……
まあ、もしここで何種類かあったとしても、俺には違いがわからないから変わらないんだけどね。
「すみません、小麦粉一袋ください」
「はーい。銅貨一枚です」
「これで」
「ありがとうございまーす」
次は調味料のお店だな。おおっ! 油と塩とお酢に蜂蜜まである! 当たりの店だ。
「すみません。油とお酢と蜂蜜を一瓶ずつと塩と砂糖を一袋ずつください」
「ちょっと待ってください」
「わかりました」
「えーと、油とお酢と蜂蜜を一瓶ずつと、砂糖と塩を一袋ずつ……銅貨九枚です」
「はい。銀貨一枚でも良いですか?」
「大丈夫ですよ」
「じゃあこれでお願いします」
「はい。じゃあ、お釣りで銅貨一枚です。ありがとうございます」
うわっ……めちゃくちゃ重い……
俺は何とか全てを持ち上げて馬車に戻った。
「ふぅ〜、重かった……」
「欲張って買ってくるからだ」
「だって……一緒に売ってたからついでだと思ってさ」
リュシアンが呆れた顔をしてる。俺そんなに残念な子じゃないからね! ちょっとしたミスだから!
「次行こう! 御者さん進んでくださーい!」
「かしこまりました」
この後、卵、バター、豚肉、野菜を買った。野菜はレタスを買いたかったんだけどまだ収穫時期じゃないみたいで、キャベツにした。その時その時の旬のものを買えば良いだろう。
「これで全て買えたのか?」
「とりあえずこれで大丈夫だと思う!」
「そうか、じゃあ屋敷に帰るぞ」
「うん! 付き合ってくれてありがとね」
ちょっと疲れたけど、帰ったら試作しないと。夕食まで後二時間くらいしかないから急がないとだな!
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