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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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「二人」

毎日いけるよ、って言っておきながら。昨日は書こうと頑張ったんですが、すみません、全然進みませんでした。でも、もう詰まる所はないので、今週中にはおしまいです。

「このまま勇者に退治されたら、世界ごとアルテアさんもお陀仏ですよ!」


 はっ!そうだった!という風な感じで急に体が軽くなり、僕はベッドから起き上がる。……さて、行こうか。戦いに。



 そして一歩を踏み出した僕は右足に左足をひっかけて転び、床で顔面を強打した。戦いに行ったらどっちみちお陀仏じゃねーか、ということに気づいたらしい。さすがに進化してる。


「さっき大きな音がしましたが、どうかしました?」


 重い体を引きずりながら部屋の外に出たら、向こうから歩いてきた予言者が不思議そうな顔をして、僕の方を見やってきた。これじゃ戦うどころじゃない。


「あの、隠れる手段とか、持ってないですか?」


「一応ありますけど。……予言なんてしていると、たまに襲撃してくる人もいるので。そんな時、隠れるための部屋があります。適当な事を言って勇者を追い払うことは可能ですけど、そんなに持ちませんよ」


 僕にはきっと、サロナと話す時間が必要だった。とりあえずメモ用紙を何枚も貰い、そのまま中にこもる。部屋の中は、ベッドと椅子のみ。まるで、最初にいた、始まりの街の宿屋の部屋みたいで、僕はなんだか懐かしくなる。まず、声に出して宣言した。


「とりあえず、しばらくここから出ないので。だからアルテアさんともその間は戦いません。ちゃんと話しましょう」


 その直後、体が軽くなる。ただ、少しでも怪しい動きをすれば、即同じことになりそうだった。……とりあえず、戦いたくないというのは理解した。うん。そのまま僕はベッドの上で壁にもたれかかり、体育座りをしながら自問自答する。






 でも、どう?どっちにしろアルテアさんが街に来たらヤバいよ。世界の危機ですよ。だからそれは止めないといけないと思う。


「どうでしょう?」


 さらさらと、手元の紙に文章が書かれていく。僕に読める文字で。


 ぐちゃぐちゃだったけど、まとめると。……他の皆も好きだし、この世界が無くなっちゃうのは嫌だから、そのために戦わなくちゃいけないというなら、別にそれは分かるし、いい。でも、アルテア様と戦うのは嫌。


「戦いたくない理由は?」


 好きな人に嫌われたくないし。


「なんでアルテアさんが好きなんですか?」


 と、紙に向かうと、「優しい」「かっこいい」「優しい」「強い」「優しい」とどんどん単語が追加されていく。……どんだけ優しいんだよ。でもそれは間違ってない。この状態で、この子を僕のわがままに付き合わせるのも……。


 このまま、バレない程度に、上級魔族を狩って。それで、アルテアさんが街を襲撃しないことを祈る……?それは、きっと、薄い期待だ。……僕もどうしたらいいかわからなくなって上を黙って見上げ、ごとん、と自分の後頭部が壁に当たるのを感じる。そもそも、なんで僕ってこの世界が消えるのが嫌なんだっけ……?自分の考えてることがどこから来るのか、最近、ぐちゃぐちゃでよくわからない。



 そうして堂々巡りの会話を何度もし、時間が経過していく。僕は、彼女に対して決定的な言葉を持ち合わせてはいなかった。どういう時間をサロナとアルテアさんが過ごしてきたかも知らないし。だんだんと、彼女の感情に流されそうになる。……それが、問題の解決にはならないと知っていながら。



 ……そして、次々と僕の中に感情が流れ込んできて。だんだん、それが自分の考えかサロナの考えかわからなくなる。



 ……誰も自分に気を留めない、そんな中で、私を拾い上げてくれた存在。幹部として登用されたあの日も、手を取って喜んでくれた。私はこの方の後ろをずっと着いていくんだって。そう思っていた。……そして、あの方もそれを望んでくれるはず。



 それを感じて、僕はそっと目を閉じる。……きっと、僕たちは、よく似ていた。最初に所属していた集団に、居場所のなかった二人。そして、そんな中で、現れてくれた味方に、親和して。そしてきっと、自分に似ているからこそわかる、引っかかりを覚える部分。


 僕は彼女に言う言葉を持たない。ただ、そう?って思う部分がある。それを確認するためには……。たぶん、まだ、大丈夫。行動に移す前だし。いけるって。やばいかな。しばらく僕は迷った末に決断する。




「すみません、ちょっと出てきます。すぐには戻らないかもしれません」


「どこに?」


「……今の私にとって一番安全じゃない場所に」






 僕は場所を変え、待ち人の部屋の前で体育座りをしてずっと待つ。夜遅くまで、暗い魔王城の中で何も喋らずにじっと待っていると、日付が変わるかどうかの時間になり、アルテアさんが疲れた顔で戻ってきた。



 僕も何でも一人で決めていて。だからこんなことになってるわけだけど。……サロナもきっとそうだ。そういうのもありな時はあると思う。そう、立ち上がりながら僕は考える。



 ……ただ、「あの方がそれを望んでいるはず」っていう部分は、どうだろう。何となく、違う気がした。


 僕は何もせずに、走ってアルテアさんの元へ向かう自分を見守る。……これで望んでたら、ちょっともう駄目かも。その場合は僕がデマを魔王軍に流布して侵攻を遅らせるくらいしかできることがないけど。




「!……あんたいっつも突然人の部屋の前にいるわね。……どうしたの?」


「あの、私がもし敵になったらどうしますか!?」


「…………はぁ?」


「戦わなくちゃいけないけど、戦いたくないんです!」


「………………なに、いきなり、宣戦布告?ずいぶん正々堂々だけど。その代わりに考えなしね。あとね、戦いたくないって……そもそもあんた、私と戦ったら絶対負けるじゃない。……そういう意味の話かしら?」


「そうじゃなくて、嫌なんです」


「え、何よ。もう少しわかりやすく……」


「世界が無くなっちゃうんです。それで、勇者を大事にしないといけないんです」


「全然分かりやすくなってないじゃない……」


 パス。代わろう。これで説得できたら、この話はこれで終わる。そして、僕はできるだけ丁寧に、アルテアさんに話をした。何度も、何度も。アルテアさんは真面目な顔をして頷いてくれたけど、首を傾げて困ったような顔をした。


「この世界の作成者、ねえ……私も違和感を覚えたことは何度もあるし、辻褄は合わなくはないけど。ごめんなさい、急すぎて信じられないわ。そして、信じられないことを理由にして、私は魔王軍を裏切るつもりはない。……今の状況を変えたいって言うなら、あんたが実力で止めてみたらどう?」


 それに対して、再び僕の口が勝手に喋る。


「無理です!私は、アルテア様に迷惑をかけないようになりたい、って思って強くなりたかったんです。ずっと後ろをついていきたいんです。だから」


「……その、私に敵対したくないって気持ち自体は、好意から来てるみたいだから悪い気はしないけど」


「ですよね!」






「でも……後ろをついてくるだけの存在って、どうなのかしら」


「え……」


「だって楽じゃない。後ろを着いていくだけならね。何も考えなくていいし。でも、私はあんたがそれでいいって思うなら……ちょっと残念ね。この前、世界が広くなった、って言ってた時は、成長を感じたんだけど」


 それはきっとある意味、残酷な言葉だった。これまで信じていた目標が否定される、という意味では。迷うような顔をして、アルテアさんは続ける。


「私を行動の理由にされるのは、好きじゃないわ。……まあでも、こんな話をできるようになった、っていうだけでもあんたは前とは変わったかもね。……ねえ、あんたがしたいことって、なに?」


「私がしたいこと……」


「だってこれまでずっと無気力だったじゃない。でも、最近は楽しそうに見えたけど。それはどうして?強くなったから、だけだったのかしら?」


「……私は、…………」


「まあ、ゆっくり考えなさい。難しく考え過ぎよ。……こんな台詞をあんたに言う日が来ると思わなかった。驚愕してるわ。……それでももし私の前に敵として立つっていうなら、……その時は全力で相手してあげる」


「嫌いになったりしませんか?」


「ないわね。理由は分かったけど、相容れない。なら……力の強い方のわがままが通るのが、魔王軍じゃなかったの?だから、当然。……これくらいわかりやすい方がいいでしょう?まぁ、負けないけど」


 ふふ、と笑うアルテアさんは、やっぱり大人だった。最後の結論はやっぱり力こそ正義の魔王軍っぽいけど。そして、サロナは気づいてないかもしれないけど、これはぶつかること前提の会話だ。呆然としているサロナから会話を引き取って、アルテアさんと続きを話す。


「やっぱり差がありますか?」


「私の知ってる差のままだったら、1秒持たないわね」


「……追いついてみせます。どんな手を使っても」


「そう、前向きでいいことだわ。今のあんたの方が私は好きよ。分かりやすくて」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の右手が自分の脇腹に何度もドスドスと突き刺さった。それと共に足がじたばたと何度も足踏みをする。でも、気持ちは痛いほどわかる。……なんか、ごめん。


「あんた何やってるのよ……私は今からでもいいけど?」


「まだ!敵対してません!」


「まだ、って都合良すぎでしょ……正々堂々なのか往生際が悪いのか、どっちかにしなさいよ……」


 まだ動こうとしないサロナに代わって、僕は処刑される前においとますることとする。


「ありがとうございました。もう夜なので、寝ますね。おやすみなさい」


「…………ええ、そうね。おやすみなさい」


 扉を開いて自分の部屋に入っていくアルテアさん。その戸が閉まる直前に、小さな呟きが聞こえた気がしたけど、それはとても短く、小さかったので、僕には中身を聞き取ることができなかった。

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