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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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始まりがあれば、終わりがある。……何にでも

 結局、武器の改造やらおやつ会やらで、僕が再び宿に帰ってきたのは、もう夕方をまわった時刻だった。フードに街に送ってもらった僕はそのまま宿に帰還し、待ってくれていたみんなに笑顔で手を振る。


「ただいま帰りましたー!」


「サロナちゃん、お帰りなさい!」


 うむ、今回もなかなか有意義な里帰りだったような気がする。武器も手に入ったし!……あ、そういえば、ナズナに杖を渡してあげよう。サプライズな感じで渡したらきっとびっくりするぞー。ふふふ。



 僕はナズナの前にととと、と走っていって、満面の笑みでお願いしてみる。


「ふふっ。ナズナに渡したいものがあるので、目をつぶって手を出して下さい」


「えっ。……えっ!?」


 何故かナズナは僕の言葉を聞いて一瞬真顔になったあと、やたらと狼狽した。しばらく深呼吸したのちに、おずおずと手を出してくる。……もしや、フランスパンを乗せられると警戒しているのかな。そもそもあの場にナズナはいなかったし、あれはほんとに緊急だったからなんだけど。僕普段はそんな変なことしないよ。……たぶん。


「あの、大丈夫ですか?」


「うん、心の準備ができた。……やっぱり左手だよね?」


「別にどっちでもいいと思いますけど。あ、でも左手がいいならそれがいいかもしれませんね」


 杖を使うのに利き手ってあるの?確かにハリポタでもそういう概念があった気がする。杖腕?だっけ?でも僕はナズナのそこまで把握してないしなぁ。でも、自分で左がそうだと言うならそうなんだろう。



 僕はナズナの左手に杖をぼすっと乗せる。と、思わぬものを乗せられたかのようにナズナの手がガクッと下に下がった。


「重っ!え、何?」


「あ、落とさないでくださいね。せっかく使えるようにしてもらったんですから」


 それを遠巻きにまじまじと見守っていた他のメンバーは、(察し)という表情で僕ら二人を眺めながら、ひそひそと何事かを話していた。


「こういう展開になるって知ってた。でも、何も言えねえ……」


「そりゃねえ……この前全く同じようなことしてた身としてはそうよねぇ」


「俺だって今のみたいな流れならさすがに気付くぞ!……っていうかナズナも、もしかしたらレベルでしか期待してなかったろ、あれ」


「実際に乗せられねえと何か分からないようじゃ、まだまだだな」



 目を開けたナズナは自分の手に乗っている物を何度も何度も見直して、ようやく、といった感じで疑問を呈した。


「……この杖、こんなだった……?」


「ええっと、使えるようにしてもらったら、こうなりました。すごいですよ、2個の呪文が同時に使えて、補正もたくさんかかるって」


「そういえば、お前の大剣はどうしたんだよ」


 ふふふ、ヴィート隊員、よくぞ聞いてくれた。じゃーん。


「どうです?簡単でしたよ」


 何一つ自分ではしてないけど。僕は使えることを証明するように海鳥シーバードをぶんぶん振り回す。これ僕の身長くらいあるのに今はめっちゃ軽いからね。


「うわ、お前のその自慢げな顔、久しぶりに見たわ。……誰に使えるようにしてもらったんだ?」


「えーっとですね……」


 武器コレクターで、怪しいフードを被ってて、魔王軍最強だと自分で言っちゃう存在。うん……どう考えても怪しいー!どう言えっちゅうねん。


「あ、言えないなら今はいい。……あの伝承はどう読み解くのが正解だったんだ?それだけ教えてくれよ」


「……読み解いてませんけど、使えるようになりました。別に解読しなくてもよかったみたいです」


 と僕が事実を告げると、ヴィートはショックを隠せないようで、しばし呆然とする。


「マジかよ……。俺の努力は一体……」


「読み解いたら、いいとこ見せられたのにねえ」


 ユウさんは今日やたらにやにやしてるなあ。きっといいことあったに違いないね。


「……別にそういうのじゃなく、俺はパーティーの戦力を心配してだな……」


 ヴィートがなんかショック受けてる。確かに睡眠時間削ってたもんなぁ……かわいそう。せめてお礼を言っておこう。人として。そう思った瞬間、勝手に僕の両手が合わさるとともに、笑顔になる。


「一生懸命解こうとしてくれたの、見てました。それだけで、とっても嬉しかったです!」


「あ、ああ……」


「この子って罪作りよね……今更だけど。かわいいけど」


 最後にしみじみと呟いたユウさんの表情が、なんだかやけに悟ったようだったのが気になった。





「……次にどこに行ったらいいか、分からない?」


「ああ。どうも、迷うんだよな。雪山とか火山とか砂漠とか、候補はあるんだけど。どこも決め手に欠けるっていうか」


「……なるほど……あ、そういえば、予言者っていませんでした?魔法都市に。迷った時に聞きに来いって言ってたような。あれ、言ってませんでしたっけ?」



 そして、あてもないのでとりあえず翌日に魔法都市に行こう、ということで意見はまとまり、僕らはいつも通り喋った後に早めに床につく。ヴィートとギャレスは二人で飲みに行くらしいけど。うむ、仲良くなっているようで大変よろしい。




 そして、僕は暗くなった天井を見上げ、隣の寝息を聞きながら、今日の魔王城からの帰り際の違和感についてもう一度考える。


 ……フードが武器を量産するらしい。それによって戦況が一方的でなくなる。うん、それはいい。それで、戦いが長くなる。これが気になる。……長くなることのどこが引っ掛かるんだろう。……長くなると、どうなる?僕が死ぬ可能性が増える?いや、逆に狩る対象が多い方が死なないだろう。どんどん上級魔族が減ったら、残りはどこだ、ってなるし。……長く、なると?



 もう少し先のことを考えてみよう。ここはゲームだから。いつか終わりが来る。それはそうだ。……もし、長くなって、ゲーム内でプレイヤーが死ぬ機会が増えたら?昏睡になる確率はそんなにないみたいだけど、長くなればそれだけ寝込むプレイヤーを生む。……そんな、このゲームって、どうなるんだろう。うん、今ももうレッドゾーンの向こう側なのは確か。それも、ギリギリなんてもんじゃない。ぶっちぎりでアウトだけど。人が起きてこなくなるゲーム。廃版不可避。



 でも。被害者が増えたら、増えるだけ、きっとこのゲームは。全部、なかったことになっちゃうんじゃないだろうか。全部、消されて。……この、世界も。僕は何度も寝返りを打ちながら、この世界で知り合った人。魔王軍の一部分やアルテアさんのこと、そしてサロナのことを、思う。……それは嫌だった。なかったことにされたく、ない。……もう遅いかもしれないけど、少しでも。全部がなかったことにされる可能性を減らしたい。



 ……つまり、今すぐ、クリアに向けて進まないといけない。そうすればログアウトできて、少なくともこれ以上寝たままの人が増えることはない。既に昏睡の人は……もう、どうしたらいいかわかんないけど。今の自分にできることをまず考えよう。



 ……でも今、プレイヤーは、あまりクリアに前向きじゃない。それを……どうにかできるか?でも、クリアしようとさせるってことは、危険にさらすという意味でもある。……どうすればいい?今の僕に、アルテアさんくらいの力があったら。一人一人自分で上級魔族を狩る、という選択肢もあるいはあったかも。でも、今だと……。そして、クリアには、きっと上級魔族が全部いなくならないと、到達できない。……つまり、僕も含めて。



 何度も寝返りを打つうちに、飲みに行ったという二人が帰ってくる。その二人も寝ついた気配があって。時間が経って、窓の外が明るくなり、次の朝が来る。……その間ずっと考えたけど、結局結論は出なかった。

すみません!明日も帰れないので、お休みします!


あと、ごめんなさい。最後のあたり、2日に1回とかになっちゃうかも……。今もそうかもしれないんですけど、改訂途中のものを載せちゃいそうなので。これ生焼けだよ、みたいな。すみませんが見直す時間をもらえたらm(__)mもうしばらくで、終わります。


次無理そう、っていうのはその前の話投稿時にたぶん分かるので、1日1回更新できない時はこれまで通り、後書きに書きます。

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