コレクターは自分の趣味のことならよく喋る
僕のナイフから飛んでいった斬撃がお堀の向こうを歩くオーガに直撃し、その胴体に大きな傷をつけた。そのまま僕はじーっと様子を見る。5分ほどたって、相手が毒で息絶えるのを見届けて、僕はうむ、と頷いた。
サロナと一緒に強くなると誓ったあの日から、今日で既に3週間。まだアルテアさんの準備(?)が整わないので、僕はひたすらレベル上げにいそしんでいる。ラストダンジョンだけあって、経験値が段違いらしく、すいすいレベルも上がった。その結果、やっと認識阻害以外でも相手を倒せるようにはなったんだけど、問題が、1つ。僕はステータスを見ながら、うーん、と首を傾げた。
名前:サロナ(№38)
種族:魔族
レベル:50(MAX!)
ジョブ:スパイ(魔王軍)
攻撃力:85(15+70)
防御力:77(12+65)
すばやさ:97(47+50)
魔力:45
運:1
HP:9
MP:43
(スキル)
認識阻害……相手に幻覚を見せることができる。ステータス表示を改ざんできる。
ボス特性……全状態異常無効。
兎殺し……兎の姿をした魔物に大ダメージを与える。
初手必殺……最初の一撃が必ずクリティカルになる。
曲芸師……高所での機動性が上がる。
地魔法(下級)……「アースウォール」を使用可能。
帰還呪文……魔王城へ戻ることができる。
番狂わせ……相手が自分よりもレベルが高い場合、そのレベル差分だけ攻撃力が上がる。
このレベルの数字の横に出ている(MAX!)って何だろうね。これが出てから一回もレベルが上がっていないことと、何か深い関係があるのを感じる。でも、サロナが自分がどんどん強くなっていくことに対して結構最近ご機嫌なので、この事実を彼女に伝えるべきかどうかを、まだ僕は迷っていた。
猛毒のナイフと呪いのローブ、不幸のブローチの補正のおかげで、各ステータスはだいぶ底上げされている。結局HPは一桁のままだったけど。まあここまでの伸び率を見てたら、うん。しょうがないね。
あとは攻撃力が上がってるのはスキルの効果かなぁ。狩りを続けたら習得してたこのスキル、「番狂わせ」。なんか1対1で格上とばかり戦って倒す、っていうのが取得条件だったと思う。僕はずっと雑魚狩りをしているつもりだったので、これを取得した時は衝撃だった。なんか雑魚敵って言う資格は僕にはなかったみたい。調子乗ってました。すみません。……ちなみにあのオーガのレベルはだいたい70台後半だった。あれ、この前の№39さんって、確かレベル65とかそんなんじゃありませんでしたこと?ざっこ(笑)
自分のレベルからは目を背けて、僕はそれをちょっと喜んじゃった。体もくるくる回って踊っていたので、きっとサロナ的にもやったぜ、という気分だったんだろう。僕たちは自分の問題を棚に上げるという部分も一緒、ってことが発覚した瞬間だった。……まあ、レベルはどうあれ、たぶん基礎性能の違いはあるんだろうけどね。
うーん、でもレベルが上限なら、武器かなぁ。僕は中庭で座って自分の武器を眺めた。うん、今日も赤黒い。あと、だんだんこのぬめぬめ感に慣れてきた自分が怖い。それに嫉妬したのか、オオオォォォ、と自分のローブが鳴く(?)のをよしよし、と撫でる。このローブもあれだよ、常に呪い状態になるっていう欠点もあるけど、ちょっと感情表現が下手なだけなんだ。ツンデレ系ってやつだね。
「あ、なかなかいいものを持っていますね。特にそのナイフ。いいですね」
僕が装備品と親交を深めていると、フードがどこからか現れて僕の方に寄ってくる。あれ、ちょっと今日テンション高くない?でもなかなかいいことを言うじゃないか。
「あ、分かりますか?」
「ええ、それって私が作った物ですから」
自画自賛かよ!フード、お前だったのか。この不具合品の生みの親は。でも許しちゃう。僕は問題なく使えるし。
「この武器、使いやすいです、ありがとうございます」
「懐かしいですね……私の中で、一軍登録しようか最後まで迷った一品です。これ、性能的には私の他の装備と並べてもあんまり遜色ないですよ。だから使ってもらえて嬉しいです」
フードを被った怪しい姿のまま、赤黒いナイフを可愛いもののようによしよしと撫でているのは不気味だった。あ、でも普通に触ってるってことは、こいつもたぶん毒は無効なんだろうね。
「これが一軍に入らなかったのは理由があるんですか?失敗作、だから?」
「失敗作と言うよりは、ちょっと特化し過ぎ、というのが正しいですかね。私ただでさえ武器が多いので、使いきれないんです。その子にも正式な名前をあげたかったんですけど……ちなみに私はブラッドハウンド、と呼んでいました」
……犬ですか?と聞くと、そっちじゃない方です、と返事があったけどそっちは僕にはよくわからなかった。
「ちなみにあなたの武器ってどんなのなんですか?」
正式採用されたのってどんなのだろう?そうすると、フードはちょっと上機嫌になってどこからか武器を取り出す。あ、こいつコレクターだ。小さく「じゃーん」と声が聞こえた気がする。あれ、ちょっと可愛い。普段の怪しげな雰囲気はどこへ。ちょっと自慢げな気配とともに出てきたのは彼女の身長くらいの長さの細い杖だった。装飾品や飾りが何もなく、白い木を削りだしたと思われる形のまま。ただ、その説明内容はあんまり可愛らしくはなかった。
「この杖は、神の光という名前で、所持者を中心とした半径一キロを範囲とし、その内側にいる邪なものを体の芯まで神聖な光で灼き尽くします。半端者なら骨も残らないですね」
「神聖というには効果が凶悪すぎる」
「ちなみにこの場合の邪なものとは『私に敵対している』ということを指します。私はたいていこれを戦闘開始直後に発動させますが、それで9割以上、決着がつきます」
ここにもいたか。開幕タイダルウェイブ派が。その邪判定、個人的にも程がないかな。お前は神か。
「なんで魔王軍なのに神聖な光なんですか?」
「私、なぜか聖属性も持っているので……。だから周りから浮いてしまって、困っています。……さて、続いては変わり種なこの絵筆、水彩画家。この武器なんと、魔王軍上級魔族全50種類の固有技能を再現できます。残念なのは再現率が7割程度なところ、でしょうか。でも使うとたいていびっくりされますよ」
お前こんなに流暢に喋れたのか。あと、さっきから出す武器がラスボス的な雰囲気なんだけど、何なの?
「もう全部あなた一人でいいんじゃないですかね」
「今はまだ私実体がありませんし……。でもこれ、使うのに結構疲れる上に、別に50種類もあっても、という。費用対効果に欠ける武器ですが、私はこういう多機能なものには惹かれるので持っています。……正直早くお披露目したいんですけど、私が本格的に出るという状況は魔王軍壊滅を意味しますから、なかなか複雑です。私たちが倒されるために作られた存在だからといって素直に負けるつもりはありませんし。続いてはやっぱりこれですかね。私の愛剣、支配者の――」
「ちょっと待って」
「はいなんでしょう」
「……作られた存在?」
「ええ、私、それは理解しています。そういう役割だっていうのも。でもだからといって、素直に、うわーやられた、というのはどうも性に合わなくて」
フードは取り出そうとしていた剣を残念そうにしまい、話を続ける。
「けど、今は私、できること少ないですし、仕事もないんですよ。本体も出せないですし。せいぜい魔王軍の規律を正す、とかそれくらいですね。……例えば、反乱分子を粛清するとか」
だったらあの魔王軍の品位を下げる機械、通称№39をなんとかせんかい。言わないけど。
「だったら!№39を何とかしてもらえませんか!?今規律すごく乱れてると思います!」
言うんかい。
「え、そうですか……?どこが、ですか?」
「え、だって。下級魔族を殺したり、おもちゃにしたり、してるじゃないですか……そんなの駄目だと思います!」
フードはちょっと「?」と首をかしげて、ゆっくりと言った。
「彼はいいんですよ。だって魔族ってそういうものですから。だからあなたの方がそういうことを言うのが……むしろ私には不思議です。……どうしたんですか?」
……え、これ、まずいの?すごく真っ当な意見だと思うんだけど。
フードさんは武器に名前をつけるのが趣味




