装備品の大切さって機能だけじゃないと思う
「ありがとうございました!またどうぞー!」
ピロピロ(ごちそうさま)、と言いながら店を出ていくUFO先輩を僕はお辞儀で見送った。もう魔王城に着て一週間くらい経ち、ようやくあの人が何を言ってるか一応分かるようになった、気がする。相変わらずどうやって食べてるかは分かんないけど。気がついたらお皿が空になってるし。ちなみにサロナは3日目には彼と完全なコミュニケーションを成立させていた。くそう。こういうのがやはり年季の差なのかな。今日も精神操作の在り方について、みたいな学術的な講義をしてくれたみたいなんだけど、僕にはそっちはさっぱり。
……皆から置いていかれないためにもっと強くなりたいと、僕がフードにそう言ってから一週間が経過していた。つまりは魔王城に帰ってきてからそれだけ経ったことになる。だんだんとここの生活に慣れてきたけど、ちょっとした問題が発生していた。僕はアルテアさんとお茶をしながら考えこむ。
問題というのは、なんかね、たまに体が重い。別に邪魔されてるわけじゃないんだけど、積極的に協力もしてくれないっていうか。別に普段はいいんだけど、城の中を探索したり、通路突き当りに普通に置いてある宝箱(すごいシュールな光景だった)を開けたりといった行動を続けてると飽きてくるらしく、すぐに足が部屋に戻りたがる。僕が頑張ったらその場にとどまることは可能なんだけど、やりにくい。魔王城内部だとやっぱり元気なのは魔族だからかな、自己主張が最近激しい。でももう少し協力してもらいたいもんである。
ちなみに宝箱の中に入っていたのは
・振ったら何種類かの中級呪文を発動できる杖(MP消費なし。一発撃つごとにチャージ時間要)
・魔力回復薬いくつか
・たくさんのお金(現在所持金10万ゴールド付近)
と、結構使えるものがやっぱりあった。いいね!他もいくつかあったけど、あとはどう見ても装備できない大きな剣とか鎧とか重そうな盾とかだったので、それらが入っていた場合はそっと宝箱を閉めてなかったことにしておいた。
攻撃用アイテムを手に入れてテンションが上がった後、僕はさっそく試し撃ちをすべく獲物を探したんだけど。魔王城の二階部分から外をのぞいたら、身長4mくらいの歩いているオーガっぽいのがいたんで杖で攻撃してみたけど今いち倒しきれなかったね。まさか頭に2メートル級の火球を不意打ち気味にぶつけてもぴんぴんしているとは……。結構相手は怒ってこっちに来ようとしてて、間にお堀があったから助かった。というかぶつけた後に気づいたけど、4mもあったらちょうど相手の顔の高さに僕がいて、めっちゃ怖かった。でも攻撃手段ができたことは大きな一歩だと思う。
「……そういえば最近あんたは昼間は何をしてるの?」
「えーっと、一応レベル上げをしようとしてこの付近の魔物と戦ってるんですけど、どうも火力不足で……」
戦ってるっていうか一方的に喧嘩を売って尻尾を巻いて逃げてきた、が正しいけど。アルテアさんはそれを聞いて、上を見てそっと目を閉じる。なんだか嬉しそう。
「そう……あんなに鍛錬も嫌いだったのに……ちょっと見ないうちに成長したのね……」
……前から思ってたんだけど、すごいハードル低くない……?
でもそういえばサロナってゲーム始まった時レベル1だったよね。あれって僕のせいとかじゃなくて、サボってたんだろうか。そうこうしていると目をぱちりと開けて、アルテアさんは顎に手をあてながらちょっと首をかしげる。
「そういえば、火力不足って、そもそもどうやって攻撃してるのかしら。あんた、直接攻撃する手段なんて持ってた?」
「それは……」
魔王城に落ちてた宝箱から無断でもらった武器で攻撃してます。と言ったらまずい気がした。どうしよう。考えろ、今の僕ができるそれ以外の攻撃方法って何だ。
「何、どうしたの?」
「……二階から近くの魔物に石を投げたりしてます」
とりあえず僕が答えたら、アルテアさんは再び目をつぶって天井を見上げた。今度は絶対感動してじゃないと思う。ごめん、いいアイデアが浮かばなかった。
「……早合点した自分が浅はかだったわ……。そうね、でもちゃんとした武器を用意してあげなかった私にも非があるかもしれないわね……」
と、アルテアさんは「ここに行って自分に合った装備を選んでもらいなさい」と、武器庫の場所を教えてくれた。私からの紹介だと言ってくれて構わないから、と。非常にありがたい申し出だったけど、アルテアさんが最後にぽつりと呟いた一言が気になった。
「あんたなら変人同士で気が合うかもね」
「あのー……」
武器庫に着き、ひょこっと入口から頭を出して様子を伺う。部屋の中は整然と物が棚に並べられていて、端に机と椅子が1つ。そこに座っていた人が、こちらに歩いてきて用件を尋ねる。眼鏡に白衣の青白い顔をしたお兄さんである。武器庫よりどっちかと言うと研究室にいそう。その人に僕はお願いする。
「装備があまりないので、何かいいものがあれば頂きたいんです。アルテアさんから紹介されてきました」
今の装備って、始まりの街で買ったダガーと貰い物のひらひらエプロンしかないからね。さすがに変える必要がある。
「ちょっと待ってくださいね、ステータスを見て、どういうのがいいかチェックしますか……ら……」
お兄さんは、眼鏡を何度も外したりかけたりして、信じがたいものを見る目でこちらを見てきた。なんだ失礼な。ステータス値依存の武器はあなたが持っても意味がないと思うんです、と正直に言われて、僕は素直に椅子にちょこんと座って待った。
……そして、しばらくして彼が出してきてくれたのは、1mくらいの棒の先に球が埋め込まれた杖だった。これをかざすと中級呪文を打てて、一発撃つとしばらくチャージ要。本人のステータス関係なく一定の威力があるらしい。……あれ、この武器知ってる気がする。
「あの、これ持ってます」
「他ですか……あなたそもそも攻撃の反動に耐えられないと思うんですよね」
と眼鏡をくいっとしながら話すお兄さんの言葉には、説得力があった。僕もそう思う。この場に白衣が超似合ってないけど。でも格好のことを言うと今の僕のエプロン姿もどっこいなので、あまり言わないことにしよう。
「あなた遠距離攻撃じゃないとステータス的に駄目ですよね。でもね、他の武器はだいたい攻撃力か魔力が必要なんですよ。何か補助できるようなスキルはありませんか?」
「えーっと。スキルは、認識阻害と、ボス特性と、兎……」
「ボス特性ということは、状態異常無効、ですか。素晴らしい!」
きらりと眼鏡が光った気がした。彼は嬉しそうにいずこかへと走り去った後、大きな箱を抱えて帰って来た。この人今戻ってくるときスキップしてなかった?箱持ちながら器用な奴だ。お兄さんは嬉しそうに、なぜかトングを使って箱の中からナイフを取り出した。
「こちらのナイフ。これはですね、斬撃を飛ばすことができるんですけど、非常に強力な毒魔法で練り上げた金属を使用していて、なんとその攻撃に毒属性を付与できます」
出してきたのは柄も刃も、一色の赤黒い色に染まったナイフだった。やたら刃が厚いし、ちょっと先が枝分かれしたりしてるし。外見からしてとっても禍々しい。毒魔法で練り上げたら飛んでいく斬撃も毒属性になるのか。……え、そういうもの?
「あの……反動は?」
「当然持っている本人も猛毒に侵されます」
作ってるときに気づけ、そんな不具合。
「でもナイフなので振った時の反動はあまりありませんし、使いやすいかと」
まずこれ使った人いるの?こわごわとそれを指先で挟んで持ち上げてみる。なんかちょっとぬめってる気がして、体がこんなの嫌だと叫んでいるのが分かった。コトリ、とそれを机の上に置いて、僕はとりあえず保留、と告げた。眼鏡の人はそう言われたにもかかわらず、嬉しそうな顔をして次の品物を案内する。
「続きましてはこちら、あの、50人以上を殺害し、その人体で家具や装飾品を作ることで有名だった魔術師が愛用していた一品で、手触りが人の肌の質感を保っているローブです、なんと魔法防御が……」
震えながら僕の両手が自動的に×の形を作り、相手にNGの意思を伝える。なんていうか僕もできたら遠慮したかった。……何だここは。人外魔境か。




