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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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スパイ、無事にご主人と合流する

 フードが帰った後に給仕長から、今後はお前の気の向いたときに手伝ってくれたらそれでよろしい、と言われてしまったので、いきなり僕は暇になってしまった。僕の接客がまずかったための戦力外通告ではない、はず。ない、といいな……うん。ないない。きっと、働くより今は強くなれというフードからの応援だね。……だね!



 とりあえず安全が保障されたであろう食堂の外に向かって、僕は一歩を踏み出した。通路の左右を何度も見回して様子をうかがう。どちらに行ったらいいんだろう。食堂の入り口に立ってきょろきょろしている僕に、通りがかったアレットさんが呆れたように尋ねてきた。


「……何やってるの?」


 この人も何やってるんだろう、と僕は思った。この辺通り過ぎじゃない?





「いや、私の職場、そこだから。あなたこそ食堂の外で何やってるの?……え、まさか、やらかしてクビに……」


 おいやめろ。第三者から言われるとなんだかほんとにそういう気がしちゃうだろ。泣くぞ。


「室内でもフードを外さない偉い人が私を強くするためにと、給仕長に私の休暇を言い含めたみたいなんです」


「フード?……そんな格好してる方、誰かいたっけ?私知らないや……。まあいいか。もう外は怖くないの?なら自分の部屋に行ってみたらいいじゃない、行き方教えてあげるから。アルテア様に、帰りましたって言ってあげなよ」


 そうだね、送ってくださいってお願いしないといけないし。早速、出発!





 部屋は食堂から歩いて20分ほど、奥に行ったところにあった。無事に迷わず着けたっていうか、近くまで来たら勝手に足がそちらに向かった。立ち止まった扉の前で僕はあたりを確認する。階段上がって端から3番目。うん、ここだ。隣のアルテアさんの部屋とおぼしき扉をノックしてみたけど、留守みたいで返事はなかった。



 どうしようか。今まだ16時過ぎだから、自分の部屋で休んでて、帰ってきたら来てみたらいいんじゃないかな。そう思って自分の部屋に引き返そうとしたけど、なぜか足がその場から動かなかった。……え、まさかこのままここで待つの……?マジで?



 そのまま僕はアルテアさんの部屋の扉の前で、体育座りをしながら主の帰りを待つことになった。ここでもしハサミの人とかに襲われて僕が死んだら、この場所に忠犬サロナの銅像が立つことだろう。というかエプロン姿の女の子が部屋の前に座ってたってそれだけで噂になっちゃいそうだけど、サロナ的にはそこはいいのか。……城内全般的に危ないと思うんだけどなあ……僕は周りに目を配り、座ったまま壁に背を預けた。


 ……しばらくかかりそうだし、強くなるためにはどうするかを考えよう。僕はとりあえず自分のステータスを見直す。


名前:サロナ(№38)

種族:魔族

レベル:18

ジョブ:スパイ(魔王軍)

攻撃力:15(5+10)

防御力:17(3+14)

すばやさ:17

魔力:12

運:5

HP:5

MP:13


 クラゲとウツボのおかげでレベルがちょっと上がってるけど、うむ、ひ弱だ。他のプレイヤーはどれも2桁後半の数値だった気がするから、だいぶ差を開けられてしまった。ここからレベルが上がってもあんまり意味がない気がするんだよねー。


 やっぱり強化するならスキルかな?あとはアイテムとか。ここってラストダンジョンだからいいものが落ちてそう。なぜか魔王は自分の城にプレイヤーの最強装備を親切に置いてくれているものだし。きっと魔王も自分の集めたコレクションを自慢したいんだと思う。ほら、見て見て!みたいな。違うかなぁ。違うな。……最近なんか発想が変な気がする。僕、このままで大学に帰ったら授業とか、大丈夫なのかな……。





 結局それから、アルテアさんが帰って来たのは22時を回った頃だった。階段を上がってきてこちらを二度見し、駆け寄ってくる。僕の足も勝手に立ち上がり、そちらへ走るも長時間座っていたせいで途中で転び、顔面を強打することになった。……あ、この感覚、久しぶり。なんか懐かしい。立ち上がって何事もなかった風にもう一度駆け寄る僕に、呆れと驚きが混じった顔でアルテアさんは尋ねる。


「どうしてあんたがここにいるの?……まあ、いいわ。とりあえず中に入って、話しましょ」


 入れてもらった部屋の中は、綺麗に整頓されていて無駄なものが一切なかった。真ん中にあるテーブルにかけ、二人で向かい合う。……と、僕の体が勝手に動いて、紅茶を入れ始めた。なんか、この行動すごく体に馴染んでる気がする。しばらくたって、入った紅茶を飲みながらアルテアさんが話し始めた。


「今日は早く帰って来れてよかったわ。……さて。まず、あんたはなんでここにいるのかしら?あとその格好は?」


 これで早いんだ……。とりあえず僕は、呪文で帰ってきたこと、ここの食堂で働いていたことを報告した。……あ、食堂と言えば、海辺の街で買ったクッキー、渡そう。今ちょうどお茶飲んでるし。アルテアさんに会えて嬉しいのか、台詞は口が勝手に喋ってくれる。サロナは直接話すの久しぶりだろうし、見守ってあげよう。


「アルテア様、実はクッキー買ってきたんです。どうぞ!巷で大人気らしいんです!」


「あら、ありがとう。……様じゃなくて、さん、ね。どうしたの、これ?」


「街でウェイトレスとして働いた給料で、買いました!」


 満面の笑顔で答える僕に対し、アルテアさんは一瞬、ん?という顔をした。


「ウェイトレスとして……?え、何、どういうこと?給料をもらって、街でウェイトレスとして働いてた……?」


「はい!お客さんにお水や料理を運びました!」


 アカン。それ言ったら遊んでたのかって怒られるよ!しかしアルテアさんは一瞬考え、迷い、クッキーの方に何度か目をやって、何かを諦めたような顔をした後に、


「……まあ、ウサギ狩りしかしてなかったあの頃よりはマシかしらね……」


 と呟いて。その一言は僕の精神に、非常に大きなダメージを与えた。






 クッキーを計5袋渡した時にも何か言いたそうなアルテアさんだったけど、そのうち1袋を開けて「せっかくだから一緒に食べましょ」と言い、話を続けた。残りの4袋は大事に戸棚にしまわれる。


「それで、その後は勇者の状況はどう?さすがにウェイトレスしかしてなかったなんてことは……ないわよね……?例えば、先日、リュリュとギーが海辺の街で倒されたって言うけど、何か聞いてないかしら?」


 自分で話さなくなった今ならよくわかる。アルテアさんに、めっちゃ我慢してもらってる。それに対して僕は指を顎に当て、うーん、と考えた後に笑って言った。


「私もその場にいて見てたんですけど、勇者沢山いましたよ!いろんな職業の人もいました」


 たぶんここで伝えるべきは討伐隊の数(30名)とそこに上級職が複数含まれてた、ってこと、あとは平均レベルくらい?25、6ってところだったように思う。サロナ先輩、ざっくりし過ぎです。


「へえ、あんたもいたの……?まあ、表立って味方する訳にもいかなかったでしょうしね」


 見てたって言うか、クラゲの名前がどっちかわからないけど、撃墜しちゃいました。サロナ的にはあれは良かったのか。基本的にこの子、アルテアさん以外にあんまり興味ないよね。あ、そういえば、送ってもらえないかな。できればすぐにでも。ちょっといい?僕は口を開いてお願いしてみる。



「あの、街に戻って任務の続きを行いたいと思うんですけれど、自力では帰れそうになくて。アルテアさんが今お忙しいのは重々承知なんですが、できれば街に送っていただけないでしょうか……?お手数をおかけして大変申し訳ありません」


「急にどうしたの!?あんたちょっと変よ!?いえ、内容はすごく真っ当なんだけど。疲れてるんじゃないかしら。しばらく休んでいったらどう……?」


 しまった。丁寧にお願いしようと思ったら、ちょっとらしくなさ過ぎた。OK、方向修正は任せろ。


「すみません、間違えました。できたら早く帰りたいんです、ウェイトレスの仕事もありますし」


「あんた、自分の仕事何なのか分かってる……?ああなるほど、任務の続きってそういうこと。てっきり頭でも打ってまともになっちゃったのかと思ってびっくりしたけど、よくわかったわ、あんたはいつも通りね」


 なんだろう、なんだか釈然としないこの気持ち。でもいいか、違和感はなくなったみたいだし。


「まあいいわ、ちゃんと見てきたみたいだし、後でもう少し海辺の街の話は聞かせてもらうとして。……悪いんだけど、人間の街に転移するのって、すごく力使うのよ。私もあんたを早く戻さないといけないのは分かるんだけど……少し待ってもらえる?落ち着いた後なら送っていってあげられるから」


 どうやらもう少しだけ、みんなと合流するのには時間がかかりそう、だった。

今仲間サイドの話をちょっと書いてるんですけど、なんだか暗い感じになっちゃいそうな……


なぜラストダンジョンにいる側の方が空気がふわふわしてるのか

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