前日談(当日)
今日は土曜日。明日は休み。今日さえ乗り切れば、という感じで朝早く起き、出勤する。しかし、今日はいつもと違う日だった。
静か。最近ざわざわと聞こえてた周りの声は全くせず。普段通りの、電車の中で、僕は久しぶりに音楽プレイヤーの音をまともに聞いた気がした。そして、駅からいつものように歩き、職場の建物に入る前。
「――――」
……ん? 何か、呼ばれた気がした。振り向いてみるも、何もいない。
ゲーム内でもその呼び声らしきものは続く。ざわざわも嫌だけど、こういうのも同じくらいやなんだけど。その声は一定の響きを繰り返していて、同じ内容を何度も呟いているようだった。
ただ、ゲーム内では僕も能力の制御はある程度できるので、どこから聞こえてるのかを探ろうと、耳を澄ませた。東、西、南、北。どこからでも来たまえ。
「――――」
……? あれ、どの方向からでもない。気のせい? サロナ先輩、聞こえません? あれってどこから聞こえるんですかね。と問いかけてみるも、返事はなく。ただ、戸惑っている感情だけが何となく伝わって来た。……つまり、この子にもどこから聞こえてくるかわからない、ということだろう。
「……サロナちゃんって、明日まずはヴィートさんと会うの?」
「はい、たぶん15時くらいには終わるので、夕方からはよろしくお願いします。それぞれに、ちょっと相談したいことがあって」
「うん、わかった。……後回しにされたと考えるべきか制限時間を設けずじっくり相談する相手に選んでくれたと考えるべきか、どっちだろう」
なんか後半やたら小さい声で呟いてたので聞こえなかった。まあ、たぶん独り言だろう。悩ましげな顔をしているナズナを横目に見ながら、気にしないことにする。僕らは二人で並んで座りながら、会話を続けた。
「そういえば、今日ってどこからかずっと声がするんですよ。ずっと誰かがついてきてて、その人に呼びかけられてるみたいな。こういう事ってよくあるんですかね?」
「うーん、ついていくなら普通は自分の場所がバレないようにするのが基本だから。追跡中に呼びかける、っていうのは違和感があるかなぁ」
普通とか基本って一体何だろう、と一瞬疑問がわいたけど、それも気にしないことにする。ふむふむ、ということは通常そういうことはあんまりないらしい。
「なるほど……」
「……それって、明日の相談事に何か関係あるの?」
「あるような、ないような……」
ひょっとしたら別口かもしれないし。それはそれで嫌だけど。2つの別個の変なことが同時に起こってることになってしまう。
「その辺も、ゆっくり聞かせてね。……あ、もうすぐ行かなきゃいけない時間じゃない?」
おお、そういえば。立ち上がった僕に、ナズナは笑いながら手を振って、言った。
「それじゃあ、また明日ね!」
「……はい、また明日」
結局、声はその日一日中聞こえ続けて、家に帰るまで止むことがなかった。さすがにあんまりである。何となく、1行くらいの内容だと思うんだけど。響き的に。そしてそれが2種類。それを交互にひたすら繰り返してる。そんな感じ。
「せめて、なんて言ってるか分かれば、手がかりになりそうなもんだけど……」
そう呟くと、自分の中で、疑問を感じる感触があった。……あれ、今の感じって、……ひょっとして。
「……なんて言ってるかわかる?」
そう尋ねてみると、何となく、うん、と思っているような感じがあった。この直接対話があんまりできないの、不便やわぁ……。僕はとりあえず、部屋の真ん中にある机に、紙とペンを持ってくる。今日もやたら薄暗い部屋の中、それを使って、会話。以前、2人で占いの館で作戦会議をしたときを思い出すね。
「どこから聞こえるか、分かる?」
『わからない。でも、空の向こうかどこか、遠いところ』
遠くから聞こえるのに僕にしか聞こえないとは、これ如何に。……あ、そうそう、それよりも本題だ。
「なんて言ってる?」
その返事が書かれるまで、うーん、と考えてるような時間が少しあり。僕は顔を上げて、何となく、壁にかかっている時計を見た。……23:55。……もう5分で今日が、終わる。窓の向こうには、真っ暗な闇が広がっていて。何も物音が聞こえない部屋の中は久しぶりだな、と何となく僕は思い。……そして、手が動き出す。
『あなたの居場所は、そこじゃない。……たぶん、そう言ってると思う。女の人の声』
居場所? ……え、何が? やっぱり意味が分かんない。僕は首を傾げる。……もう1つを聞けば、意味が通じるのだろうか。もう片方はなんて?
『あと1つはね。今日、迎えに行くね、って』
……今日?僕はもう一度、壁の時計を見る。あと3分。もう、今日なんて――。そう思った瞬間、
――ガタン、と玄関先で、何かの音がした。
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……たぶん、貼れてると、そう信じています。




