(閑話)ナイトメア・ビフォー・クリスマス!
『異教の奇祭「くりすます」
この怪しげな催しを行うため、日本に異教司祭ふろいすがやってきた!
地方豪族たちよ、力を合わせ、この奇祭を阻止するのだ!
戦国の興廃、この一戦に在り。各員 一層奮励努力せよ!!』
臨時公式イベントの内容に運営の私怨を感じた。
今回のイベントは、大規模な合戦を行うらしい。
敵は、異教司祭ふろいすが率いるブラックサンタ兵。
リアルとゲーム内の時間経過速度には差があるので、リアルは夏でも
ゲーム内ではそろそろクリスマスがやってくる。
まったくしょうが無いなぁ。しょうがないから、参加してやるよ。
そして、クリスマスを阻止してやる!
ふろいす撃破に向けて、運営からNPC大名チームが結成されていた。
このゲームの隠語に「虎武将」「虎大名」というものがある。
能力値合計が400を超えるような、強力な武将の事だ。
彼らはまず間違いなくNHKの大河ドラマで冠番組の経験がある。
「大河武将」>「タイガー武将」>「虎武将」というわけだ。
NPC大名チームには、時間も場所も超えた各地の猛虎達が顔を並べる。
東北代表 伊達政宗
関東代表 北条氏康
中部・甲信越代表 武田信玄
近畿代表 織田信長(配下に木下藤吉郎)
中国代表 毛利元就
九州代表 島津義久
特別出演 長尾(上杉)謙信 徳川(松平)家康
この動員メンツを見ただけでも、運営の本気がひしひしと伝わってくる。
彼らとともに、クリスマスの使徒と戦い、クリスマスを中止させる。
ユーザー達の士気はいつも以上に高い。
集合場所に行くと、佐野と波野がいた。
ほえもんさんは、家族持ちだからか、ログインしていない。
「虎の子の騎馬隊を投入するぜ」佐野が意気込む。
「こっちは、精鋭の鉄砲隊で突入する。露払いは任せるわ」波野も燃えている。
「精鋭を投入だ!倒せふろいす! えい、えい おー!」
合戦の場所は超関ヶ原。
史実の関ヶ原の面積を大幅に広げた、架空の広大な荒野が目の前に広がる。
一応「冬」の季節設定なのだが、陣地からは熱気が立ち上る。
その広大な土地で、東から戦国連合軍、西からふろいす軍が激突する。
【イベント合戦 只今より開催いたします。
プレイヤの皆様の活躍で、クリスマスを中止させてください!】
「うぉぉぉぉ!!!」「とったれや~!」
割れんばかりの熱気で突撃していく東軍。
西軍のブラックサンタ兵は、それを待ちうける。
黒づくめのサンタ服。本来なら「赤」の部分が黒く染められている。
先頭部隊が激突を始めた時、戦場に爆発音が響く。
【ブラックサンタ兵が爆弾を投げてきた!慎重に応戦せよ!】
頭部の形状が、やけに四角かったのでうすうす気がついてはいたが、
サンタじゃなくて、黒ボンか!
だが、爆発ダメージが低いこともあり、怯まず爆風の中へと突っ込む戦国連合。
「日本を、やつらの手に渡してたまるかぁ!」
「くりすます、断固阻止!」
爆弾があるとはいえ、黒ボンの動きは遅い。
黒ボンは、着火する前に爆弾を撃ち抜かれて誘爆したり、
投げた爆弾を投げ返されたりして、徐々に数が減っていく。
■
俺たち3人は、南周りで本陣を目指していた。
途中で出会った黒ボンをなんとか蹴散らすが、配下武将や兵士にもかなり損害が出ている。
しかし、一度慣れてしまえば、所詮は自爆男。
「よっし、こっち側は片付けた」
「これなら行けるかも」
波野、そのセリフ、フラグONだぞ。
【邪教司祭ふろいすが、真・ブラックサンタ兵を繰り出した!】
システムメッセージが流れるのと同時に地面が割れ、地割れから5mはある黒ボンが現れた。
「ククク、貴様らをクリスマスケーキに立てて、ろうそくにシテヤル!
今週の、ビックリドッキリ爆弾!」
巨大黒ボンのベルトのバックルがぱかりと開き、中から20センチくらいのちび爆弾サンタ兵がたくさん出てきた。
「ホイサ、ホイサ、ホイサ……」
大量のちび爆弾サンタ兵は、各自、手に小型の爆弾を持ち、行進している。
たちまち、真・ブラックサンタ兵の足元が、大量のちび爆弾サンタで埋まる。
「数がやべぇぞ」「どうしよう……」
「わが命にしたがえ!」スキル『勧誘』使用。
数百体のうち、数体だけだが、ちび爆弾サンタ兵が俺の配下になる、
与える命令は、「爆弾を爆発させろ」。
ところどころで、爆発が起こり、それが誘爆していき、
大半のちび爆弾サンタ兵は消滅した。
真・ブラックサンタ兵にもダメージは与えたはず!
だが、もうもうと立ち上る煙が風で流された後、無傷の真・ブラックサンタ兵が仁王立ちしていた。
「ヤルナ、主の御言葉を信じない野蛮人ども。だが、コレを見よ!」
真・ブラックサンタ兵は、頭のちょんまげ(?)の先についていた球体を外し、導火線に火をつけた。
「おいおい、あの頭は爆弾か!?」
「フフフ。罪深き、迷える子羊よ、心ゆくまで懺悔をシロ」
真・ブラックサンタ兵は、導火線に火が付いたまま、佐野を指さす。
「え、俺か!?」
「そうデス。母親から貰ったバレンタインのチョコレートを
『彼女から』と偽って、友人に自慢したデショウ?」
「お袋じゃなくて、妹からもらったんだよ!」
「あれは、そうだったのか、佐野」「うわぁ……」
少し引く俺と波野。
「そして、アナタ」次は、俺を指さす。
「波野さんの名前で、ヤフー検索シタデショウ?」
「してねぇよ!自分の名前でエゴサーチしただけだ!」反射的に答えてしまった。
「何がひっかかりまシタ?」
「うぅ、武田家板で盛大に呪われていた……」
まるで、祭りの如くに呪われていた。
「あ~そうだろうな」「しょうがないよ」
佐野と波野のフォローが少し苦い。
「最後にアナタ」真・ブラックサンタ兵は波野を指さす。
「実は、ネカマでショウ?」
「それはない」波野は、ぱたぱたと手を振る。
「そうだったのか」「引くわ~~」
「違うったら! じゃあ今度オフ会でもする!?」
「でも、代理とか出されたらなぁ」「そうそう」
「フフフ、盛り上がっているところスミマセンが、そろそろ時間切れデス」
真・ブラックサンタ兵は自分の頭を指さす。
導火線は、既にほとんどが燃え尽き、残り1cmになっていた。
「「「しまったぁ!」」」
ピチューーーン!
何処からか飛来した銃弾が、短くなった導火線を弾き飛ばす。
そして2発目が真・ブラックサンタ兵の胴体を打ち抜く。
「バツ!」
真・ブラックサンタ兵は、手でバツ印を作ったまま、
光の粒になって消えて行った。
「危ないところだったわね」
火縄銃を両手に持ち、鷹目が助けに来てくれた。
「私がいれば、もう何も怖くない」
あぁ、アイツ、登場5秒で死亡フラグ建てた。
「司祭さまのカタキだ~」「やってまえ~」
生き残りのちび爆弾サンタ兵が、俺たちの脇を通り抜けて鷹目に向かっていく。
「え?ちょっと待って、再装填まだ『ドガーン』」
俺たちは、他に誰も居なくなった戦場を突き進んだ。
■
途中、何度かの襲撃で、配下武将も兵士たちも既にいない。
自分たち3人はぼろぼろになりながら、ようやくふろいすのいる本陣に辿り着いた。
本陣では、上杉配下の武将たちと何人かのプレイヤーが、
ふろいすと激戦を繰り広げていた。
愛の前立の武将が、ふろいすに斬りかかる。
「愛、それはラヴ。本物のアガペーを見せてあげまショウ!」
ふろいすが、スキル『勧誘』発動。
「これは愛宕権現の愛!そんなまやかしは効かぬ」
「ホホウ、火の用心の愛宕権現?
ヤリマスネ。これならどうですか、十字カッター!」
ふろいすが四方八方に十字架を投げ、周囲の東軍を切り裂いていく。
「ぐぅ、無念」愛の人が倒れる。
「突っ込むぞ!」「うん!」
俺は乱戦を避けて、ふろいすの背後へ。
背後にあるのは、イエス・キリストの受難を題材にした1枚のタペストリー。
プレイヤー達が気を引いている間に、タペストリーに近寄って、持ち上げる。
そして、スキル『脅迫』使用。
このスキルは魅力値対決。クルタナ補正で110を超える俺には対抗できまい!
「おい、ふろいす。このタペストリーを二枚に破り捨てるぞ!」
ふろいすが振り返る。
「OH!残念ですネ。私の魅力値は、民草が喜んでひれ伏す150です。
アナタのような貧弱な魅力では通用しまセーンンンッ」
ふろいすが懐から短銃を取り出す。
「え?いや、このイエス様の絵は?」
「いえす様は、すべての罪を背負われて、十字架に登られマシタ。
今さら、風穴の一つや二つ、どんとこいデース」
銃声が響き、俺は宗教画ごと打ち抜かれ、自動撤退になった。
だが、時間稼ぎはできた。ふろいすの背後から、佐野が斬りつける。
薄れゆく景色の中で、本隊の旗が駆けつけてくるのが横目に見える。
頑張れ! 負けるな、同志たちよ。
■
俺は転送された領地で「何か」に祈りながらシステムメッセージが流れるのを待つ。
【クリスマス中止のお知らせ】
【ふろいすは撃破されました。今年のクリスマスはありません】
やった!我が同志たちが、積年の悲願を達成した!
次回からは、新章です。
真面目な、公式イベント。
「鬼が島 ~ぷーさんとグリズリー~」




