忍たま、健太郎!
課金。
それは、オンラインゲームにおける、禁断の果実。
その味を知ってしまったものは、もう「無課金」には戻れない。
「俺様の野望 23」でも課金アイテムは存在する。
だが、運営はゲーム優先のスタンスを貫いており、
ゲームの進行に影響の出る課金アイテムは存在しない。
髪型、服装といったアバターアイテムや領地に置く置物がラインナップに並ぶ。
俺は、つまらない講義のひまつぶしに課金アイテム一覧を眺めていた。
(この、ゴスロリ和服って、誰が買うんだよ。)
(ちょんまげだ ちょんまげ。200円かぁ)
(!こ、これは!……100円か たった100円か……)
禁断の果実は、今日もリアルを浸食してくる。
「あなた、お髭伸ばされたんですね。似あっておりますよ」
「ありがとう、その」
100円で髭を購入してみた。貫禄が出たような気がする。
今日は、そのちゃんが病院に検診に行くので一緒に行くことにした。
そのちゃんは隠居武将だが、領地内での行動ならPTが組める。
配下PTの構成は、そのちゃんと服部健太郎。
服部は最近登用した『忍者』だ。
和尚から建設方法を教わった「修験寺」を建てたところ忍者が生産(?)された。
その中から、見所がありそうな若者を配下武将として登用したのが健太郎だ。
忍者は、主に諜報活動を担当する。
近隣のフリーエリアを移動する合戦部隊が居たら、規模、武将数、兵種などを、
調査してくる。NPCの部隊である場合、目的予想地までも調べてくる。
さらに、プレイヤ、NPC問わず他者の領地に対しての諜報や、自領で行われる諜報阻止まで出来る。
今後の9*9拡張でのフリーエリア展開を考えると、必須といっていい人材だ。
忍者たちの部隊名はもう決まっている。「あまぐり忍者隊」!
我が領地の名産「甘栗」を世に広めるのだ!ついでに、諜報活動もたのむ。
俺とそのちゃん、そのちゃんの侍女の3人で病院へ向かう。
侍女はモブキャラなので、PTの配下武数には入らない。所属兵士扱い。
服部は忍者らしく、変装して付かず離れず警備しており、
時折すれ違う、やはり変装した配下の忍者と巧妙に連携を取っている。
SPに守られる要人の気分だ。
だが、自分の領地でここまでする必要があるのか?
身重のそのちゃんと一緒なので、いつもよりゆっくり歩く。
俺もそのちゃんも魅力値が高いので、領民から何度も声をかけられた。
みんな、そのちゃんを気遣ってくれているのが伝わってくる。
「お館さま、商店の方で、今度は何を作っておられるのですか??」
領民の一人から尋ねられた。
確か、今やっている開発は「果樹園:栗」と「工芸所」の拡張だけのはずだ。
なんだろう??
「その、ちょっと商店のほう回ってから病院に行くから、先にいっててくれ。
健太郎、行くぞ」
「はい、お待ちしております」「承知」
そのちゃんが手を振りながら見送ってくれる。
俺の領地では、商店は南東側に固まっている。
そのあたりに来ると、派手な施設を建造しているのが見えた。
近づくと、八野と阿部が設計図のようなものを見ながら大工に指図している。
「何を作ってるんだ?」
「お館さま」阿部が俺に向かって一礼する。
「先日いただいた金を使って、歌舞伎町を作っております」
「いや、これスゴイっすよ、酒場とか賭場とかあります」
酒好き博打好きの八野が興奮している。
施設の中にはその施設単体では効果を出さないが、隣接する施設の効果を向上させる「支援系施設」というカテゴリがある。
商店支援系は、酒場>賭場>歌舞伎町 という3段階。
歌舞伎町は周囲の商店系施設の効果を2倍にまで引き上げる。
その代り、定期的に見張らないと領内の治安を低下させる困りものである。
ゲームの年齢制限的なものもあってエロ系の建物は無いが、プレイヤ本人も内部の賭場で銀をかけて遊ぶことが出来たり、飲み屋でノンアルコールビールが飲める。
併設された「劇場」ではゲームや新作映画のプロモーションムービーを視聴可能。
商店で金をもうけた商人を歓楽街に誘いだし、そこで搾り取ろうという施設だ。
「お館さまぁ、酒場にはね、幼女もご用意していますよ ししし」
小指をぴこぴこ動かしながら、阿部がすり寄ってくる。
ダメだこいつ、腐ってやがる。
「八野、相馬と相談して、ここの治安維持計画をたてろ。
実行はおまえと、健太郎に任せる。あと、未成年をここで働かさせるな」
こういうのは、八野の得意分野だから、やつに任せておこう。
阿部に歌舞伎町なんて任せたら、うちの領地がピンク色に染まりそうだ。
病院でそのちゃんと合流し、検診の結果を聞く。
母子ともに良好。
そのちゃんのお願いで、帰りは寺に寄ってから館に帰ることにした。
足利義輝改め、義光和尚のいるお寺。
そのちゃんは本堂に額づき、一生懸命に本堂の仏像に何かお祈りしている。
「お館は、神さんに祈らないのですか?」
どこからか現れた義光和尚が、俺に尋ねる。
イベント時、病院の迅速な対応により一命は取り留めたが、彼の右手は失われた。
和尚はあぐらをかき、左手一本で器用に手酌をしながら酒を飲んでいる。
つまみは、いつも小僧に剥かせた甘栗だが、本当に酒に合うのか不思議でしょうがない。
「あんまり、神頼みするたちじゃ無いからなぁ」
「そうですか、それはいい心がけですな」
和尚にあっさり認められた。
「そういうとき、和尚なら、それっぽい説教するべきなんじゃないのか?」
「ま、神さんに祈って、迷いが吹っ切れた というのなら、それもまたご利益ってことですわ」
信仰を押し付けるのも、馬鹿にするのもそれぞれ ってことか。
「ところで、和尚。神様じゃなくて、仏様だよね?」
お祈りを終えたそのちゃんと、和尚に別れを告げ、館に戻る。
出産予定日は、ゲーム内時間でおよそ4か月後。
この領地に初雪が降るころ、子供が産まれる。
■
「本日の、佐久間ニュースの時間です。
今日午後、政治担当官、阿部修造氏の自宅から、幼女2人があまぐり忍者隊により救出されました。
2人は戦災孤児で身寄りが無いため、奥方様の侍女見習いとしてお館でひきとられることになりました。
阿部氏は「理想の嫁に育てるつもりだった」と発言しており、今後の動静に注目されます。
さて、次のニュース……」
次回「魔弾の射手!」
最強の狙撃手が現れる!
佐野くん2アウト




