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信濃国攻防戦 4

■ ■

疲れ切った身体に鞭うち、退却していく真田部隊の目に、赤母衣の騎馬が現れた。

山県の旗を背負っている。

「真田信綱どの!いずこにおられるかっ!」

騎馬は兵をかき分けながら、大声で彼らの指揮官を探す。


程なくして、赤母衣衆の前に傷ついた真田信綱が現れた。

弟を失った悲痛さが表情の上にも出ている。


「何故、独断で戦端を開いたか!」

その言葉に、信綱が顔色を変えて反論する。

「それは、山県公からの命令であろう!

一兵でも多く佐久間の軍勢を削り、真田の武勲を示せ との指示書を頂いておる」

真田信綱は、小姓に命じ、山県昌景の花押付の文書を持ってこさせる。


「見せよ」

赤母衣衆は横柄に手を指し延ばす。

真田信綱は、手の上に文書を載せる。

「うぅむ」

その手紙を眺めながら赤母衣衆はひげをこする。

「ここで悩んでもしょうが無い。山県公に確認してこよう。この文書、借りていくぞ!」

言い残すが早いか、赤母衣衆は馬に一鞭あてて山県本隊に向けて駆け去っていく。

敗者である真田部隊は、その後ろ姿を悄然と見送る。


駆け去っていく騎馬は、真田部隊が見えなくなったところで、道を大きくそれていき、森の中に入る。

そして、懐から受け取った文書を取り出し、火を点けて焼き捨てた。

「さて、ここから先は、高みの見物だな」

そう言った男の顔には、白い仮面が、火を照り返して赤く染まっていた。



■ ■

赤く彩られた甲冑纏った武者たちで、山県部隊の本陣は固められている。

隣国にも聞こえた強壮の赤備えの武者たちを、小柄な山県三郎昌景が指揮している。


武田四天王の筆頭と言われる彼の保持スキルは、NPC専用のレアスキルが多い。

配下部隊の能力を上げる『赤備え』に加え、

戦場限定で数値以上の力を発揮できる『虎』、

自分が先頭に立つことで、配下の士気を上げる『陣頭指揮』、

騎馬部隊の突撃強化の『猪突』など、直属部隊の戦闘力は頭数以上の力を発揮する。

おまけに、史実通りに小柄な役者が演じていることもあって、

彼(の部隊)を甘く見て大兵で挑んだものの、返り討ちにあったプレイヤは数知れず。


栗毛の愛馬に跨った彼は、戦場に敷設された、簡素な馬防柵を見ると、鼻で笑った。

「馬鹿にされたものだな。一揉みに押しつぶしてくれてやる」

額に癇筋を浮かびあがらせながら吐き捨てる。

周囲を固める武将たちは、突撃の命令に備えて身構えた。

性格的に『猛将』である山県は先頭にたって敵陣に突っ込むことがある。

必然、周囲を固める彼らは、露払いに駆け回ることが求められる。


山県が大きく深呼吸して馬の手綱を握りしめた途端、爽やかな声が響いた。

「お待ちください、山県公」

突撃の呼吸を外され、山県昌景は声の聞こえた方を睨みつける。

そこには、まだ初陣を済ませたばかりの、まだ幼い若武者が立っていた。

鎧に「着られている」ような立ち姿ではあるが、近習たちは山県が彼の機転を気に入り、

目をかけていることを知っているので、笑いをこらえながら、若者に視線を移す。


「公が北に放った密偵がことごとく戻らぬと伺いました。

万一に備え、伏兵を配しておいた方が良いかと」

人質として戦陣に連れてこられた真田源二郎信繁(真田幸村)の言葉に、山県は考え込む。

嫡男の源三郎

この若者の立ち居振る舞いを

「海津城の魔女か……。確かに、奴は侮れぬ」

人間離れした精密射撃と、充実した鉄砲隊により、武田軍は何度も煮え湯を飲まされている。

「私に300ほど指揮させていただけないでしょうか?

伏兵となり、背後の敵を攪乱して時間を稼ぎます」

「ふむ。許そう」

心中で一片の疑念を抱えていた山県は即座に許可し、部隊を分割する。



本隊と別れた真田源二郎は、本隊から別れ、山県から貸し与えられた副将たちに、

伏せる場所の指示を行う。

地図上に指差された点は、甲府へ向かう街道から少し離れた、まばらに木々のある丘。

軍略に優れた武将が見れば、その場所は、甲府への退却に備えた地点であることが解る。

「俺は北を見てから合流する。先に向かっていてくれ」

「名もなきNPC」である副将は、その言葉に疑念を抱くことなく、指示された場へと移動を始めた。


彼は馬を走らせ、見方から十分距離を取ると、遠目にも目立つ赤い鎧を脱ぎ捨て、藪の中に放り込んだ。

「親父には悪いけど、一宿一飯の恩義は返しとかないとな」

真田源二郎幸村は、楽しげに笑うと、父親が待つ砦に向かって馬を走らせた。




眼下に布陣しつつある、山県隊の総数は1万を超える。

対する俺たちの手元兵力は1万4千ほど。

それに加え、佐野配下の2万が戦場に向かって進軍中。

合わせて山県部隊の倍近い兵力になる。

簡素ではあるが馬防設備を張り巡らせ、伏兵要員として六郎に500ほど与えて山裾に潜ませている。

脳みそを振り絞り、負ける要素はなるべく排除してきた。


本陣では、ぽえると三毛村さんが、策や罠について話し合っている。

「ここと、ここに罠を張りますね」

「守りを優先するなら、こっちの方が良さそうだぞぉ」

額を突き合わせるように、近隣の地図を挟んで熱心に話し合っている。

傍目に見ると、おさげの女の子が猫と遊んでいるように見えて微笑ましい。


だが、彼らはわが軍の主軸を担い、その決断で戦場が動く。

戦場で、知力に特化された武将の立ち位置は「軍師」である。

『孫子』『墨子』といった戦法スキルを使い分け、要所に罠を仕掛けたり、部隊の戦闘力を変化させる陣形を組ませる。

ひとつひとつの効果は、決定的なものでは無い。

しかし、些細であっても、それらを連携・連鎖させることで、敵に与える効果は倍増していく。


「煙罠」を使用して、敵部隊の陣形を崩すと、敵部隊の防御力が下がる。

同時に、味方に攻撃特化の鋒矢陣を組ませると、敵に与えるダメージが1.5倍になる。


他にも、行動をキャンセルさせる『惑乱』、士気を下げる『罵倒』、

少数の兵士を多数に見せかける『偽兵』、敵の罠や行動を見破る『神算』等、知略系武将は多彩なスキルを持っている。

様々な事ができるがゆえに、効果的に使わなければ本領が発揮できない。

それが知力極武将のプレイスタイルであり、脳筋には向かない。


ちなみに、俺が選択した魅力極は、戦争までの布石作りが主眼となる。

敵武将の調略や、戦場周辺にある村落の掌握、土地勘を持った野盗山賊の取り込みなど、

準備段階では活躍できるが、いざ現場になってみると、『鼓舞』くらいしか出番が無い。

ぽえるたちに罠設置を指示された兵士たちがあちこちに散会していく中、

彼方の山県部隊からほら貝と大太鼓の音が聞こえてきた。


眼下に広がる赤い軍団が、ゆっくりと動き始める。

「手をうてるところは手をうちました。

あとは、佐野さんが来るまで支えられれば……」

ぽえるが、胸の前で祈るように手を組む。


俺も同じ思いを抱きながら、晴天の空を見上げた。

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