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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第5章 高校1年の夏休み(前半)

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探索者と魔物、厄介なのは(前)

 真夏の日差しから逃れた祥吾とクリュスが階段を降りた先は正面玄関(エントランス)だった。中には多数の探索者がパーティ単位であちこちに散っている。出入口に続く階段からは活動する者たちが続々と降りてきており、行き先を決めた者たちはいくつかの通路へと足を踏み入れて姿を消していった。


 これだけならば盛況なダンジョンということになるが、当の探索者たちを見て回ると何となく怪しげに見える。ガラの悪さが一層その印象を強くしていた。


 階段の脇に立って室内を眺めていた祥吾が口を開く。


「どうにも不穏に感じるんだよなぁ」


「だからと言って引き返すわけにはいかないわよ」


「わかっているんだが、どうにもな。他の探索者の気配を感じたら逃げるくらいがちょうど良いのかもしれん」


「助け合い、とまではいかなくても、せめて無関心でいてほしいわね」


「まったくだ。愚痴っていても仕方ない。行くか」


 ため息をついた祥吾が隣に顔を向けて促した。クリュスがうなずくとタブレットを取り出して指示を出す。進路を聞いた祥吾は歩き始めた。


 人の多い正面玄関(エントランス)を通るとき、祥吾は空いている場所を縫うようにして通る。別に何でもない行為だ。気になることがあるとすれば、たまに自分たちをじっと見る者がいることだった。見ない顔なので気になっただけならば良いが、それ以外だとしたら厄介である。


 何とも居心地の悪い室内であったが、そこを抜け出して通路に入ると祥吾は肩の力を抜いた。軽く肩をほぐして改めて正面を見る。


 タブレットにダウンロードされた地図情報は最新のもので、数多くの探索者が利用している信頼できるものだ。特に地下4層までの地図は世田谷ダンジョンに入る探索者全員が使用するので、誤りがあれば多数の利用者から指摘されてすぐに修正される。そのため、疑う必要はなかった。


 そんな高精度の地図情報を使っているのでクリュスの指示にも迷いはない。2人は地下2層に続く階段を目指して歩いていった。


 しかし、途中で周囲を警戒しながら先頭を歩く祥吾が訝る。


「他の探索者を見かけないな」


「それがどうかしたの?」


「今たどっているのは最短経路なんだろう? だったら、地下2層へ向かう連中が俺たちの前後にもっと歩いていても良いんじゃないのか?」


「言われて見れば確かにそうね。地下1層でこんなこと初めてだわ」


「最短経路に致命的な罠があるなんて情報はないのか?」


「そんなものがあったら真っ先に教えているわ。地下1層には何もないわよ。地図上には」


「受付嬢も教えてくれなかったということは、本当に何もないのか。だったらどうして」


 深く考え込もうとしていた祥吾だったが、その思考は中断させられた。魔物がやって来たのだ。小鬼(ゴブリン)が6匹だ。同じ地下1層でも他のダンジョンより数が多い。


 正面から突っ込んでくる6匹に対して、祥吾は槍斧(ハルバード)を横に倒して斧の刃を前側に向け、その場で構えた。ねじり上げるように上半身をひねった後、相手の武器が届きそうな位置まで近づかれたときに全力で振り抜く。


「ギャ!?」


「ギッ!」


 3方向から襲いかかろうとした小鬼(ゴブリン)のうち、最初に祥吾の正面から突っ込んで来た個体が槍斧(ハルバード)にぶつかって吹き飛んだ。そして、祥吾を右前方から襲おうとしていた個体にぶつかって絡まる。右前方の個体の後方を走っていた小鬼(ゴブリン)は止まりきれずに絡まった2匹とぶつかってこけた。一方、祥吾の左前方から突っ込んで来た個体の攻撃は、槍斧(ハルバード)を振り回した遠心力を利用して体を右後方にずらすことで躱す。


 小鬼(ゴブリン)側は尚も3匹が祥吾へと近づこうとしていることを理解していた祥吾は自身の体を中心に独楽を回すように回転し、振り抜いた槍斧(ハルバード)を再び横薙ぎに払った。すると、左前方から近づいて来た個体はまたもや吹き飛び、別の個体とぶつかって倒れる。


 こうなるともう囲んで祥吾を攻撃することもできない小鬼(ゴブリン)は1匹ずつ倒されていくしかなかった。何も考えずに突っ込んでいく個体が順次槍斧(ハルバード)で斬り倒され、刺し貫かれて死んでいく。


 終わってみると祥吾は短時間で小鬼(ゴブリン)6匹を短時間で倒した。大きく息を吐き出してからクリュスへと振り向く。


「終わった。1人でも何とかなるもんだな」


「剣だと3匹くらいは私の所に来たのにね」


「振り回したときの威力は大きいな。重い武器なだけのことはある。その分だけ疲れるが」


「私としては楽ができそうだから、ずっとこのままでいてほしいくらいね」


「んー、でも、狭山ダンジョンみたいなアスレチックタイプの所は軽い武器の方が良いな」


「ダンジョンに応じてってことね」


「そうだな。もっと使いこなせるようになったら、また意見が変わるのかもしれないが」


 微妙な表情の祥吾が武器の所感を述べた。個人的にはやはり剣の方が扱いやすいと思えるのだ。


 戦いが終わって魔石を拾った祥吾とクリュスは先に進む。相変わらず最短経路だが、他の探索者の姿は見えない。


 魔物との戦いの後、しばらく歩いてから祥吾が口を開く。


正面玄関(エントランス)にあれだけの人がいて、地下1層の最短経路にまったく人がいないというのはやっぱりおかしいな」


「どうしたいのよ、祥吾」


「最短経路から少しずれた通路を行かないか?」


「わかったわ。それじゃ、次の分岐路を左に曲がってちょうだい」


 どうにも落ち着かなかった祥吾はクリュスに頼んで経路を変えてもらうことにした。特に根拠があるわけではないが、嫌な感じがなくなってくれないのだ。


 これで今よりも安心できると考えた祥吾は気を引き締め直して前進を再開する。ところが、指定された分岐路に近づくにつれて嫌な感じが強くなった。クリュスが指定した左の分岐路から特にそれを感じる。


 一旦立ち止まった祥吾は前方に意識を集中させた。やはり左の分岐路に何かいる。


「クリュス、前を向いたまま下がれ」


「祥吾? いえ、わかったわ」


 疑問を発しかけたクリュスはその言葉を飲み込んで祥吾の指示に従った。前方の分岐路を見ながらゆっくりと下がってゆく。


 続いて祥吾が下がり始めたとき、警戒していた左の分岐路から人が現われた。一般的にはまず声かけから始まるものだ。しかし、このときの祥吾にそんな余裕はなかった。相手の持っていた弩弓(クロスボウ)で撃たれたからである。


「ちっ!」


 言葉を発する暇もなく、祥吾は全力でその場に伏せた。その瞬間頭上を何かが通り過ぎてゆく。そうして考える暇もなく立ち上がって突っ込んだ。


 弩弓(クロスボウ)を撃ってきた男が下がると共に3人の男たちが左の分岐路から飛び出してくる。槍を持った者が2人に剣を持った者が1人だ。


 祥吾が槍斧(ハルバード)を持って攻撃を仕掛ける直前、その3人の男たちにいくつもの火の矢が突き刺さった。思わず背後を振り返るとクリュスが長杖(スタッフ)を前に突き出しているのを目にする。


 体の何ヵ所かを内側からも焼かれて絶叫して苦しむ男3人をよそに、祥吾は弩弓(クロスボウ)に次の矢を(つが)えようとしていた男との距離を詰めた。そうして相手が手にしていた弩弓(クロスボウ)をはたき落とす。


「ひぃ、助けてくれ!」


「お前、何者だ?」


「オ、オレたちは、このダンジョンでか、活動してる探索者だ」


「それがどうして俺たちを狙うんだ?」


 震える男は槍斧(ハルバード)の穂先から逃れようと後ずさった。しかし、同じだけ祥吾が前に進むので距離は変わらない。そのうち、壁にぶつかってそれ以上下がれなくなった。すると、いよいよ穂先が首元に触れる。


「もう逃げられないぞ。で、どうして探索者のお前たちが俺たちを狙うんだ?」


「ひ、あ、新しい武器がほ、ほしいって、な、仲間が言ったから、手っ取り早く金になる方法を、ま、待って、やめて!」


「単に金がほしかっただけなのか?」


「そ、そうだ」


 震えながら漏らし始めた男を見て祥吾はため息をついた。特に込み入った話はないらしく、本当に金目的らしい。それでいきなり人を殺そうとするのだから倫理観は狂っていると言えるだろう。


 ここが異世界ならば用済みとばかりに殺していた祥吾だったが、興味をなくしたので刃を引いた。有名無実化しているとはいえ、ダンジョン内も一応日本国内である。法規に従うのならこれ以上の殺生は必要ない。


 そのまま1歩退いた祥吾は踵を返した。その背後で追い詰められていた男がひきつけを起こしたかのような悲鳴を上げながら逃げていく。


「祥吾、あの男を逃がして良かったの?」


「もう脅威じゃなくなったんだから良いだろう」


「ほとぼりが冷めたら、また同じことを繰り返すんじゃないかしら」


「そんなことを言っていたらきりがないだろう。片っ端から殺していく気か?」


「ああいう連中に私の魔法を見られたままというのは嬉しくないんだけれど」


 本音はそこかと祥吾は苦笑いした。気持ちはわかるが、それでも殺すほどではないと考える。


 祥吾最後までうなずかなかった。

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