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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第1章 ダンジョンを探索する準備

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探索者教習─ダンジョン実習─

 中間試験があった翌朝、祥吾とクリュスは探索者協会に足を運んだ。短期集中講座を選択しているので予定がぎっしりなのである。


 試験に合格した2人は今日からダンジョン実習だ。1回90分の実習で朝と昼に1回ずつある。既に自分の武器や防具それに道具を持っている実習生は自分のものを使い、まだ持っていない者は探索者協会から借りることになっていた。


 まだ自分の武具を買っていない2人は教官の指示に従って借りた武具を身につける。そうして探索者協会の本部施設前に集合した。今回の実習生は12人だ。


 3人いる教官のうちの1人が実習生全員に声をかける。


「おはようございます。これからダンジョン実習を始めます。教官は私小塚と、佐藤と杉山の3人です。よろしくお願いします」


 挨拶を終えた小塚という教官がダンジョン実習についての説明を始めた。その名の通りダンジョンに入ってどういう場所なのかを体験するのが目的だ。そのため、地下1層の近場が実習上となる。ただし、12人が一塊(ひとかたまり)で行動するのは効率が悪いので4人一組に分けて実習するということだった。


 組み分けは基本的に実習生からの自己申告だ。それである程度の集団にまとまってから人数を調整するという形になっている。祥吾とクリュスは2人一緒を希望し、教官から指示された別の2人と組むことになった。1人はぱっとしない青年の徳山義則(とくやまよしのり)で、もう1人は冴えない中年の大竹義明(おおたけよしあき)である。


「今回引率する教官の小塚です。それでは早速皆さんの装備を確認して、問題がなければダンジョンに入りましょう」


 自己紹介と共に装備の確認を宣言した教官が実習生の装備に不備がないか1人ずつ確認して回った。その際、ダンジョンに入るための仮免許カードを実習生に手渡していく。


 準備が整うと、教官を先頭に実習生4人はダンジョン側へと足を向けた。本部施設前からでも見える分厚いコンクリート製の壁が左右に延びているのがまず目に入り、次に正門と呼ばれる壁の向こう側へと抜ける場所にたどり着く。


 正門は何とも無骨な造りだった。壁がコンクリート製なのに対して、門はスライド式の分厚い鋼鉄製だ。その手前には駅の改札口そのままの自動改札機が並び、その横にある警備室は鉄格子で覆われている。


 一目見て厳重であることがわかる正門の奥に進むため、実習生たちは教官の教えに従って仮免許カードを自動改札機にかざした。そして、電子音が鳴るだけで特に変化のないその間を通り抜けてゆく。


 祥吾とクリュスも同じようにして自動改札機を通り抜けた。異世界ではいきなりダンジョンに入れたので祥吾などは新鮮に感じる。


 壁の内側に入ると、そこはだだっ広い平地が広がっていた。正門からダンジョンまで続く舗装された道路以外は本当に何もない。警戒地区と呼ばれる一帯だ。ダンジョンから大量に出てきた魔物をせき止めるための場所である。


 リュックサックの中身が揺れるのを感じながら祥吾はダンジョンの入口に目を向けた。その部分は小高い丘のようになっており、その一角に石造りの構造物が姿を見せている。これといった飾り気もなく、一見すると城の石垣のような感じだ。


 ダンジョンの入口に到着すると教官が一旦立ち止まって振り返る。


「これがダンジョンの入口です。ここから階段を降りて地下1階に向かいます。下に降りたら陣形を組んでもらいますから、そのつもりでいてください」


 実習生に声をかけた教官は前に向き直ると石畳の階段を降り始めた。実習生たちもそれに続く。


 階段を降りている途中で、祥吾は床、壁、天井を構成する石材がぼんやりと明るい光を放っていることにすぐ気付いた。異世界のダンジョンの中には発光しないものもあったが、現代世界に出現したダンジョンは侵入者に配慮してくれる(たぐ)いらしい。


 階段を降りきると正面玄関(エントランス)と呼ばれる部屋に入った。ここで事前予告の通りに教官が4人の実習生を前衛2人と後衛2人に分け、ちょうど方陣になるように立たせる。


「それでは、前衛の右側に正木さん、左側に徳山さん、後衛の右側に大竹さん、左側にウィンザーさんでお願いします。これからダンジョンをこの形で進んでいきます。そして、魔物が出てきたら最初に私が対処しますので、私が通した魔物と前衛の方が戦ってください。後衛の方はあらかじめ配った下敷きに乗せた方眼紙に自分たちが通った道を描き込んでください。マッピングというやつです」


 教官が説明すると実習生たちは全員がうなずいた。このダンジョンの地下1層で出てくるのは小鬼(ゴブリン)だが、多くても3匹程度だと知られている。そのため、こういった実習をするのに都合が良いということだ。


 話が終わると教官を先頭に実習生4人がダンジョンの中を歩き始める。


「すごい、本物のダンジョンだ」


 左隣を歩く徳山がつぶやくのを祥吾は耳にした。祥吾の場合は久しぶりという意味で周囲を見る。またやって来たという思いがこみ上げてきた。


 後衛2人のマッピングの速度に合わせて実習生たちは進む。通路に分岐か曲がり角が現われる度に立ち止まった。その都度前衛は周囲の警戒を教官から求められる。徳山の肩に力が入っているのが祥吾にもわかった。


 そうして進んでいると、ついに魔物と遭遇する。成人男性の半分くらいの大きさで、薄汚れた緑色の肌をしたがりがりの小人みたいな姿をした小鬼(ゴブリン)が3匹やって来た。粗末な衣類にぼろぼろの武器を持っている。


「私が1匹相手をします。前衛の2人はそれぞれ1匹ずつ相手をしてください。1人で大変だと思ったら、すぐに後衛の方と協力してください。絶対無理はしないように」


 実習生に声をかけた教官は剣を鞘から抜くと前に出た。それに合わせて祥吾も借りた剣を右手に持つ。隣では緊張した様子の徳山が少しびくつきながらも槍を構えた。


 1人突出した教官が小鬼(ゴブリン)1匹と接触する。振り回された棍棒を自分の剣ではじいて相手の体勢を崩した。


 その間に、残りの2匹が実習生たちに襲いかかってくる。前衛の祥吾はそのうちの1匹を担当し、あっさりと倒した。錆びたナイフをはじいて喉元を突いて終わりである。


 一方、同じ前衛の徳山は苦戦していた。容赦ない殺意を向けられて腰が引けているのだ。それでもしばらく戦っていると少しずつ慣れていき、ついに槍で突き殺すことに成功する。


「はぁ、はぁ、やった。1人で倒せたぞ」


 荒い息を繰り返す徳山がうわごとのようにつぶやくのを祥吾は耳にした。初めて魔物と戦った者は大体こんな感じだったことを思い出す。


 そこへ魔物を倒した教官が戻ってきた。そうして手のひらに乗せた物を実習生に見せる。


「前衛の方はお疲れ様です。初めての戦いを1人で乗り切ったのはいい感じですね。それで、倒した魔物の死体の近くをよく見てください。ドロップアイテムがあるはずです。私は今回小さな石みたいな物が出てきました。これは座学で習った魔石で、魔力が詰まった石ですね。大抵はこんなのが落ちてます。こういった物は換金できるので拾って置いた方がいいですよ。それと、魔物の死体はそのままにしておいても構いません。時間が経てば消えるので。これはドロップアイテムも同じなので注意してください」


 教官の説明を聞いた祥吾は自分が倒した小鬼(ゴブリン)の近辺に目を向けた。すると、確かに透明な小石のような物が床に転がっていたので拾い上げる。ビー玉に近い感じがした。


 戦いの後処理も終わると、教官が実習生たちに交代を指示する。時計回りに立ち位置を変えることになり、前衛の右側に徳山、左側にクリュス、後衛の右側に祥吾、左側に大竹となった。


 変更が終わると再び教官を先頭に通路を歩く。今回の祥吾は後衛なのでクリュスから受け取った方眼用紙に地図を描いていた。久しぶりにやったので懐かしい思いにひたる。


 そうしてダンジョンのあちこちを見ていた祥吾だったが、ふと大竹のを見てその手が止まっていることに気付いた。じっと前を凝視しているようなので同じように前方へと目を向けるも何もない。不思議に思い首を傾げたが、やがてクリュスを見つめていることに気付いた。


 不審に思った祥吾は小声で話しかける。


「大竹さん、クリュスに何かあるんですか?」


「え!? いや、別に。ははは、歳を取ると集中力が続かなくてね。ぼんやりとすることがあるんだよ」


 思った以上に驚かれて逆に驚いた祥吾だったが、すぐに大竹へ呆れた表情を向けた。今までの態度から大竹のクリュスに向ける感情についておおよそ察しがついたのだ。


 ため息をついた祥吾だったが、それ以上は何もしない。今の時点では特に何も起きないであろうし、大竹とは教習が終われば会うこともないからだ。


 祥吾は後でクリュスに注意することに決めた。

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