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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第1章 ダンジョンを探索する準備

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探索者教習─中間試験─

 短期集中講座の5日目を終えた祥吾とクリュスは帰宅後に明日の中間試験の勉強をしていた。場所は祥吾の自室で、クリュスは報酬として今晩の夕飯を正木家でいただくことになっている。


 前日までの4日間も毎日帰宅してから復習していたのである程度は頭に入っている祥吾だったが、それでも不安は付いて回った。最後はクリュスから問題を出してもらって回答して記憶の定着度を確認する。


「こんなものじゃないかしら。合格の水準が7割だったからいけると思うわよ」


「正解率8割か。何とかなりそうだな」


「でも、問題の数が多いから見直す時間は期待しない方がいいわ。一発勝負だからね」


「わかってる。これだけやったんだ。絶対合格できるだろう」


「自信が湧いてきた? マークシートだけれど、回答する場所がずれて全問不正解なんてやめてよ」


「あー、せっかく黙っていたのに! 言うなよ」


 静かに笑うクリュスに祥吾は渋い表情を見せた。満点も不可能ではないという優等生の余裕さが今は憎らしい。


 勉強が終わると約束通り祥吾はクリュスに夕飯をごちそうする。とはいっても、実際には母親である春子が作っているわけだが。


 その夕飯の席で父親の健二が祥吾の様子を窺う。


「祥吾、明日は中間試験なんだってな。大丈夫なのか?」


「何とかいけそう。合格ラインが7割で、俺の正解率が8割だから」


「クリュスちゃんに教えてもらったわけか。それなら安心だな」


「俺の努力は?」


「お前、自分だけで安心して試験に臨めるようになれるのか?」


「くっ」


「本当にありがとうねぇ、クリュスちゃん」


「どういたしまして、おば様」


「さぁどんどん食べてちょうだい。明日は試験なんだから、しっかりと食べなきゃねぇ」


 笑顔の春子が唐揚げの山からクリュスの取り皿にそれを次々に移していった。クリュスはあまりの量に途中で止めてもらう。なかなかの健啖家ではあるが物には限度があるのだ。


 この夜は、自宅の食卓なのに肩身が狭い祥吾であった。




 翌朝、祥吾はいつもより早めに自宅を出た。中間試験の開始時間がいつもの講座の時間よりも早いからだ。途中でクリュスと合流し、そのまま一緒に自転車を漕ぐ。


 探索者協会の駐輪場に自転車を置くと、2人は受験会場である教室へと入った。既に何人かの受験者が席に座っている。受講生番号が一致する席に2人も座った。


 スポーツバッグから教本を取り出した祥吾はパラパラとページをめくる。適当な場所をいくつか見るものの、文字が上滑りして内容が頭に入らない。ため息をつくと本を閉じてバッグに戻した。今度はスマートフォンを手にしたが、やはり落ち着かない。


「高校受験のときみたいだな」


 先月の前半に受けた高校の受験を祥吾は思い出した。あのときもクリュスに勉強を手伝ってもらい、約1ヵ月後にどうにか合格できて安心したことを覚えている。あれに比べたら今回の中間試験など大したことはない。最悪不合格でもまたやり直せるからだ。そう思うと緊張がいくらか和らぐ。


 どうにか待ち時間を潰していると次第に受験生が教室内に増えて来た。試験開始10分前になると指定されたほぼすべての席が埋まる。5分前になると問題用紙と解答用紙が配られた。それから試験官の説明が始まる。試験開始の合図と途中で席を立つ方法、それに不正をしないようにという注意が一通りなされた。


 筆箱から鉛筆と消しゴムを取り出した祥吾は問題用紙と解答用紙をじっと見つめる。


「始めてください」


 試験官の合図と同時に問題用紙を開く紙の音が静かに教室内を満たした。試験開始である。


 中間試験は筆記試験と実技試験の2種類だが、最初は筆記試験からだ。マークシート式で試験時間は45分である。極端に難しい問題はないものの、量が多いというのが受験者たちの一般的な評価だ。


 問題文を見てはマークシートをひとつずつ塗りつぶしてゆく祥吾も似たような感想をすぐに抱いた。クリュスとの勉強で覚えた設問はほぼ条件反射で答え、そうでない設問は教本の内容を頭からひねり出して解く。どうにもならない設問については異世界での経験を元に勘で選択肢を選んだ。


 (かえり)みている時間がないので祥吾はひたすら問題を解いていく。最後の選択肢を塗りつぶしたのは試験終了直前だった。


「試験終了です。ペンを置いてください」


 試験官の声が教室内に広がった。張り詰めていた空気が一気に弛緩する。問題用紙と解答用紙は両方が回収された。数が合っていることを確認した試験官が解散の許可を出す。受験者たちが一斉に席を立った。


 筆記用具をスポーツバッグにしまっている祥吾はクリュスに声をかけられる。


「祥吾、どうだった?」


「たぶん大丈夫だと思う。勉強したところが結構そのまんま出てきたからな」


「良かったわ。次は1時間後に実技試験ね」


「次は実習のあったところだったか。あの体育館みたいな場所」


「休憩してから行きましょう」


 試験会場で1時間近く立ちっぱなしで待つのはさすがに避けたかった2人は、最初は筆記試験会場で、次いで自販機の横のベンチで時間を潰した。


 2人とも実技試験の内容はネットなどで調べておおよそのことは把握できている。実習でやったことを1人で繰り返すだけだ。適性のある武器を握って構え、簡単な型を披露し、選んだ防具を自分1人で装着する。更には各種道具をリュックサックに入れる試験もあった。このうち一番面倒だと評判なのが道具を入れる試験だ。不要な物を除き、必要な道具のみを選ぶ必要があるので地味に苦労するらしい。


 実技施設に入ると案内係の職員に用意されていたパイプ椅子に座るよう勧められた。既に受験者が多数座っており、その中には同じ短期集中講座を受講している人も混じっている。


「正木さんにウィンザーさん、結構ぎりぎりに来たんですね」


 控えめな声で話しかけてきたのは友田雅之(ともだまさゆき)だ。実習でやる模擬試合で祥吾がよく対戦していた受講者である。孤児の青年で今月高校を卒業したと当人が自己紹介をしていたのが印象に残っていた。


 声をかけられたのをきっかけに挨拶を交わした祥吾が友田の隣に座る。


「筆記試験はどうでした?」


「たぶん合格してると思いますよ。一応全部答えられたんで。そっちはどうでした?」


「終了直前に全部解けました。恐らくいけてるんじゃないかと思っています」


「そうなると、あとはこの実技試験次第ですね。この試験、筆記試験よりも簡単だっていう人もいる見たいですから、何とかなるんじゃないですか」


 祥吾は特に緊張した様子もない友田と中間試験について話をした。共通の話題がそれくらいしかないというのが一番の理由である。


 試験開始直前になって最後の受講者がやって来た。クリュスをライバル視している松永美香(まつながみか)だ。魔法に憧れて探索者を目指す女子大生だと自己紹介で発言していた。こちらはクリュスと仲良くなっている。


「クリュスちゃん、筆記試験どうだった?」


「何とか解けましたよ。美香さんはどうでした?」


「まーたぶんいけてるんじゃないかなー」


 パイプ椅子に座った松永が何でもない様子で手応えについて返答した。しかし、そこで試験官から試験開始という声をかけられる。


 実技試験では、呼ばれた受験者が試験官の前で実技を披露することになっていた。1対1で、武器、防具、道具の試験をしていくのである。適性のある武器については事前に申告してあるので、それを見極められる試験官に割り振られるということだ。


 試験官からの説明が終わると、受講生番号で呼ばれた受験者が試験官の元へと向かう。そうして順次試験が始まった。


 座って待っていた祥吾は試験の様子を眺める。事前の情報の通り、実習でやっていたことをそのまま披露すれば良いだけらしい。確かにこれなら筆記試験よりも簡単だという主張にも納得できる。


 自分の受講生番号を呼ばれた祥吾は立ち上がった。友田に軽く一礼し、クリュスにちらりと目を向けてから教官の前へと進み出る。指示の通り、最初は武器、次は防具、最後は道具の試験をこなしていった。体で覚えていることなので引っかかることもない。


 最後の試験項目を入力し終えた教官がタブレットから顔を上げて試験終了を告げる。その合図を受けて一礼した祥吾はその場を離れた。別の場所でクリュスが試験を受けているのを目にしながら試験会場から出る。


 本部施設のロビーで待っていた祥吾は実技試験を終えたクリュスと合流した。そうして正午まで待ち、大画面ディスプレイに表示された試験結果から2人揃って合格していることを確認する。


 ちなみに、松永は不合格でロビーに響き渡る悲鳴を上げていた。友田によると筆記試験で解答の記入項目がずれていたのではないかと推測していたが、真相は闇の中だ。

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