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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第4章 高校の定期考査とダンジョン攻略

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探索庁監視隊の募集─奥多摩3号ダンジョン─(3)

 番人の部屋を通過した祥吾とクリュスは地下4層に降り立った。相変わらず周囲の景色は変わらない。谷底のままだ。


 ここから先は駆除が不充分だと聞いていた2人は前よりも警戒する。魔物の発見が早いほど有利になるのだから気を抜けない。


 地図情報を見ながら次の階段まで最短経路で進んでいた2人は途中まで何の姿も見かけなかった。この階層はある程度確認と駆除が進んでいるというのを実感する。


 この調子でこのまま進みたいと願った2人だったが、さすがにそれは甘かったらしい。大きさが2メートル程度で全身が黒く、大きく膨れ上がった尻に赤黒い斑点のある蜘蛛の魔物と遭遇する。巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーだ。


 谷間の急斜面に張り付いた蜘蛛の魔物が斜面を伝って近づいて来る。


「意外と足が速いんだよな、あいつ」


「燃やしちゃいましょう」


 祥吾のつぶやきに反応したクリュスが魔法の呪文を唱えた。すると、大きな火の玉が巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーに向かって飛んで行く。直撃すると蜘蛛の魔物は盛大に燃えた。


 剣を抜くまでもなく戦いが終わったことで祥吾は何とも言えない表情を浮かべる。


「まぁ、楽でいいんだけれどな。ドロップアイテムは糸か。蜘蛛系はこれが多いな」


「軽くて丈夫だから人気の品ね。持っていきましょうか」


 蘊蓄を聞いた祥吾はうなずくと現われたドロップアイテムを袋に入れた。そうして先に進む。


 この後は今までとは違って魔物との遭遇回数が増えてきた。これが本来のダンジョンの姿なのかそれとも駆除が不充分なのか2人にはわからない。ただ、動物系の魔物だけでなく虫系の魔物もよく見かけるようになった。


 それでも2人にとっては大きな出来事ではなく、いつも通り魔物を撃退しながら進んで行く。ほぼ予定通りの時間で階下へと続く階段に到着した。ここで一旦昼休憩にする。


 階段の途中で座り、下ろしたリュックサックから携行食を取り出した2人は食事を始めた。このときにタッルスもクリュスのリュックサックから出してやる。


「12時半か。順調だな」


「魔物とほとんど遭っていないから当然だわ。4時までに今日の用事を済ませるわよ」


「鼻息が荒いなぁ。でも、今の調子なら充分行けそうか」


「用が済んだらすぐに帰りましょうね」


「そして明日は試験勉強というわけだ。忙しいな!」


 ダンジョン攻略が終わっても気が抜けないことを思い出した祥吾が渋い顔をした。明後日からは中間試験と嬉しくないイベントが続く。


 昼食を終えると2人は再び歩き始めた。黒猫の姿はない。またリュックサックの中に戻ったのだ。


 それはともかく、地下5層を進む祥吾とクリュスは魔物との遭遇の回数が少し増えたことに気付いた。動物系や虫系の魔物が単体で襲ってくることが多い。


 また、この階層では他の探索者の姿を見かけるようになった。その数は多くないが、現在も確認と駆除が進められていることがわかる。そんな同業者の姿を一瞥しながら2人は先を急いだ。


 特に大きな邪魔もなく階下へと続く階段を見つけた2人はそのまま降りた。最下層の地下6層も風景は今までと同じである。ここを踏破すれば守護者の部屋にたどり着けるのでどちらも気合いと入れた。


 しかし、前に地下3層ですれ違った探索者たちの言う通り、最下層の駆除はまだ充分に進んでいないことを実感する。遭遇する魔物の数が他の階層よりもずっと多いのだ。


 今も突撃猪(チャージボア)を倒した祥吾がため息をつく。


「さすがに多いな。こうも頻繁に遭うとなるとなかなか前に進めないぞ」


「あまり進めていないのは確かね。守護者の部屋までの最短経路を進んでいるけれど」


「ということは、これからもこんな感じというわけか。道のりはあとどのくらいなんだ?」


「半分くらいね。ドロップアイテムがたくさん手に入ることを喜ぶしかないわ」


「だんだんと重くなってくるから地味に厄介なんだよな、この袋」


「そういえば、あの鹿の角はまだ持っているのかしら?」


「あるぞ。最初はどうしようか迷っていたけれど、今じゃ他のドロップアイテムも増えてきて気にならなくなってきたんだ」


「買取店まで持って帰れそうで良かったわね」


 クリュスに微笑まれた祥吾は苦笑いした。どうせなら稼げる方が良いので反論はしない。


 繰り返される魔物の襲撃で地味に足止めされる2人はそれでも撃退しながら歩いた。時間がかかっても地図情報に従って最短経路で進んだ結果、ようやく最奥部分へあと一息というところまでたどり着く。


 遠くに見えるその場所はやはり部屋には見えず、谷底にある開けた場所のように思えた。周囲の風景に合わせてあるというのは理解できるが、今の問題はそこではない。


「あの馬鹿でかい猪が守護者か。なんかもう暴れているな。誰かが戦っている?」


「まさか私たちよりも先にあそこへ行く人がいただなんて」


「注意事項のところに全階層の確認が終わるまで守護者の部屋に入るなって書いてあったよな。思いきり破る前提でここまで来た俺たちが言うのも何だが」


山猪(マウントボア)の毛皮は高く売れるから、それに釣られた探索者かもしれないわね」


「困ったな。待つしかないか」


「いえ、一旦離れましょう。私たちは核がある部屋に入らないといけないじゃない。そこを見られるのは都合が悪いわ」


「出直すのかぁ。今は、午後3時40分くらい。これは4時には終わらないな」


 ため息をついた祥吾が首を横に振った。普段はダンジョン攻略後に守護者の部屋の転移機能を使って外に出ているが、今回は引き受けた依頼の都合上守護者と戦っていないことにする必要がある。そのため、事が終わった後は歩いて地上に戻る必要があるのだ。そのため、帰りも同じだけの時間をかけて帰らなければならないのである。


 帰宅時間がほぼ明日になることをが確定した祥吾は肩を落とした。そんな祥吾をよそに尚も守護者の戦いを眺めていたクリュスが声を上げる。


「駄目だったみたい。逃げてくるわ」


「そうなんだ、って、ちょっとまずいかもしれないな」


「何が?」


「だって俺たち、依頼の規約違反の目撃者だろう。そんなことをする連中がばれたらなんて言うかな」


 そもそも隠れる場所もない場所なので、守護者の魔物と戦っていた者たちが見えるということは祥吾たちも見えるということだ。山猪(マウントボア)から逃げてきた6人組の探索者パーティはまっすぐ2人を見据えて近づいて来る。敗走してきたせいで余裕がないのは仕方がないものの、どうにも友好的な雰囲気ではない。


「クリュス、俺の背後に隠れろ。相手が仕掛けてきたら魔法で拘束するんだ」


「さすがに6人相手はきついものね。わかったわ」


「俺1人ならやりようはあるんだけれどな」


 去りそびれた祥吾とクリュスはそのまま6人組がやって来るのを待った。そのまま通り過ぎてくれるのを期待したがそれは甘かったらしい。


 2人の手前で6人が立ち止まると先頭を進んでいた男が声をかけてくる。


「お前ら、見てたのか」


「あのでっかい猪とあんたらが戦っていたことか? だったら確かに見ていたぞ」


「くそっ、なんでこんな所にいるんだよ!」


「魔物を駆除するという依頼を果たすためだよ。というか、なんで規約に違反してまで守護者に挑んだんだ?」


「そんなのお前らに関係ねーだろ!」


「だったらさっさとどこかに行けばいいじゃないか。何で俺たちに話しかけてきたんだ?」


 返答せずに睨みつけてくる相手を祥吾は落ち着いた様子で見ていた。守護者の魔物の討伐に失敗した上に規約違反したところを見られた6人の心情は何となく想像できる。この踏んだり蹴ったりの状況でどうしたらよりましにできるかだ。


 8人分の視線がお互いを見つめ合う。しばらく無言で誰も動かなかった。しかし、やがて相手の探索者の1人がぼそりとつぶやく。


「やっちまおうぜ」


「それしかねぇか」


「女はやる前にやろうぜ」


 呼び水となった言葉は波紋を広げて6人に広がった。1度特定の方向へと傾き始めた考え方はより確かなものへとなってゆく。


 6人の探索者が祥吾とクリュスを半円で囲むように広がって武器を構えた。しかし、次の瞬間、全員が焦った表情を顔に浮かべる。


「あ、う、え?」


「から、だ、が」


「お、まえ、いっ、たい、なに、を」


 明らかに動揺している相手の6人を見ながら祥吾はため息をついた。規約違反という問題を起こした者たちが穏便に事を済ませる可能性は低いという予想が当たって肩を落としたのだ。依頼者に報告されると罰を受けるだけでなく制裁(ペナルティー)もあるのだからある意味当然とも言えるが。


 そして、かつて黒岡ダンジョンで頭を抱えた問題が再発した。捕らえた者たちをどうするかという問題である。今回は前回よりも状況が厳しいので判断が難しい。


 まさかこんなことになるとは思っていなかった祥吾とクリュスは頭を抱えた。

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