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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第2章 神々の要望

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春休みの終わり

 ダンジョンにまつわる話をクリュスとタッルス経由で聞いた祥吾は色々と疲れた。ついでとばかりに自分がこの世界に転移した事情も知って思わず叫んだりもしたが、選ばれた理由については不本意ながら納得する。


 しかし、神々との親和性が高いおかげでこれから与えられる神々謹製の道具を使えるようになる。あまり乱発すると脆弱な世界に影響を与えかねないので提供は最小限にするらしいが。


 祥吾からすると踏んだり蹴ったりであるが、今のままダンジョンを放っておくと自分のいる世界が侵略されるとなると放っておくわけにもいかない。単純に魔法も使えるファンタジーな世界に変質するだけなのならまだしも、人間が生きていけない世界になるなら何としても食い止める必要がある。


 尚、自分たち以外の同志は今後も鋭意選定するということで神々との対話は終わった。つまり、当面は祥吾とクリュスの2人でやるしかないわけだ。


 悄然とする祥吾は、台座の上に鎮座するタッルスが変身した水晶から同じ大きさの水晶が生み出される光景を目の当たりにしていた。クリュスによると神様から届けられたものらしい。更には小さい水晶がもうひとつ生まれ出てくる。


「クリュス、その水晶は何に使うんだ?」


「大きい方はこの台座に設置するためのものよ。これでダンジョンを神様の支配下に収めるの」


「俺の持っているやつだと侵略が続行されるんだよな」


「そうよ。これでとりあえずダンジョンを無力化して、後は徐々にその機能を弱らせて、最後は停止させるらしいわ」


「なんでそんな面倒なことをするんだ?」


「中に人間がいたままだと神様が手出ししにくいからよ。だから、儲からないと人間に思わせて自発的に出て行かせるように仕向けるの。そうして誰もいなくなったら神様がダンジョンを世界から引き抜くらしいわ」


「豪快だな。でもそれなら、いきなり機能を止めてもいいんじゃないか?」


「私たちが攻略したダンジョンが必ず停止するって他の人に気付かれたらやりにくいでしょう? だからゆっくりと機能を止めるらしいわ。ただし、危険なものはその限りではないらしいけれど」


「いやだなぁ。で、その小さいのは?」


「こっちは私と神様が連絡するためのものよ。通信機みたいなものね」


「そうなると、俺が今持っているやつはどうするんだ?」


「とりあえず持って帰りましょう。考えるのはそれからね」


 軽い調子の返事をもらった祥吾は自分のリュックサックの中にダンジョンの核である水晶を入れた。今の時点では何に使えるのかさっぱりわからない。


 その間に、クリュスは自分の作業を進めていた。まず、台座に鎮座する水晶に声をかけてタッルスの変身を解除させ、代わりに今手に入れた神々謹製の水晶を置く。次いで同じく神々から与えられた小さな水晶を自分のリュックサックへと入れた。そのときにタッルスも一緒に。


 互いに再びリュックサックを背負うとクリュスが祥吾に告げる。


「これでやることは全部やったわね。それじゃ、帰りましょうか」


「やっとか。今日も随分と疲れたな。早く帰って休みたい」


「どうせなら守護者の部屋の転送機能を使いましょう。あれなら正面玄関(エントランス)まで一瞬よ」


正面玄関(エントランス)には人が割といるだろう。目立つんじゃないか?」


「構わないわよ。初心者用ダンジョンを攻略しても珍しがられるだけなんだから。何か言われるとしても、どうしてそんな面倒なことをしたのかっていうくらいよ」


「なるほどな。それだったらいいか」


 大した追及を受けないと知った祥吾はそれならばと転移機能の利用を賛成した。さすがにここから地上まで歩いて帰る気にはなれなかったのも大きい。片道約5時間は今の身につらすぎた。


 クリュスにう先導される形で祥吾はダンジョンの核の部屋から出ると、通路を通って守護者の部屋に戻る。往路で倒した大鬼(オーガ)の死体はもうなかった。


 何もない部屋の中で祥吾がクリュスに問いかける。


「地図によると、この部屋でしばらく待っていればいいんだよな? そうしたら勝手に転送してくれるんだったか」


「そうね。ああ、そろそろ転送するみたいよ」


「わかるのか?」


「今このダンジョンは神様の管理下にあるから、私だと何となくね」


「大したものだな」


 祥吾が感心している間に2人の体が光り輝き始めた。転送の前触れである。すぐさま周囲が真っ白になり、短時間でその白さが薄れていった。


 周りに目を向けると、先程よりも一回り小さい部屋に立っていることに気付く。更にはいくつかの探索者パーティが固まって立っていたりどこかへ歩いて行こうとしていた。しかし、2人が突然現われたことで次々に注目してくる。


「んー、やっぱり居心地が悪いな。早く地上に出よう」


「落ち着かないのは確かね」


 苦笑いするクリュスの同意を得た祥吾はすぐにダンジョンから出る階段を上がった。さすがに地上へと出ると注目されることもなくなる。


 正門にある自動改札機を出ると祥吾は妙な解放感を抱いた。やはりダンジョンでは無意識に緊張していたようである。


「祥吾、これから手に入れた物を売りに行きましょう」


「前はそれどころじゃなかったからな。まとめて売ってしまおうか」


「ただし、あの大きな水晶は売らないわよ。しばらく持っておきましょう」


「何かに使うのか?」


「具体的な予定は何もないけれど、念のためにね」


 使い道など祥吾には何も思い付かなかったが、クリュスが持っておきたいと主張したので祥吾は従うことにした。特に反対することもないからだ。


 探索者協会の敷地の中にはいくつかの建物があるが、物を売り買いできる施設もある。そこには、飲食店や各種武具および道具を買える店舗がひしめいているだけでなく、ダンジョンで手に入れたドロップアイテムを買い取る店舗もあるのだ。


 ショッピングモールというよりは商店街といった趣のある施設だが、新人探索者がドロップアイテムを売る分には申し分ない。


 売買施設の集まる建物の中に入った祥吾はいつの間にかクリュスの後を追う形で歩いている。いくつかの買取店舗があるが、クリュスはその中からひとつの店を選んで中に入ったのでそれに続いた。その名もダンジョンドロップアイテムズというそのまんまの名前の買取店だ。全国にチェーン展開していることは祥吾も知っている。


「ダンジョンで手に入れたドロップアイテムを売らせてください」


「いらっしゃいませ。こちらにドロップアイテムをお出しください」


 声をかけたクリュスが店員に従って隣のカウンターへ移った。そこでリュックサックを床に下ろして口を開ける。すると、最初にタッルスが出てきた。一声鳴いて祥吾の足元にすり寄る。それには構わずに袋を取り出すと、カウンターに中身を取り出した。


 目で促された祥吾も自分のリュックサックから袋を取り出して同じようにカウンターへ中身を広げる。空になった袋を元に戻すとすぐにリュックサックを背負い、タッルスを抱えた。黒猫は機嫌が良さそうに目を細める。


 そんな黒猫をちらりと見た店員だったが、すぐに査定の作業に入った。手慣れたもので淀みなく数を数えて金額をパソコンに入力していく。


「計算が終わりました、金額はこちらになりますがよろしいでしょうか?」


「はい。買取金額は2人で分けたいので、少し細かい紙幣にしてもらえますか」


「承知しました」


 買取証明書にサインをしたクリュスはペンを返すときに注文を付けた。店員はその通りに2人で割れるよう紙幣と硬貨を用意してくれる。


「祥吾、これはあなたの分よ」


「ありがとう。それにしても、この金額か」


 手渡された金銭を見ながら祥吾はダンジョンでの活動を振り返った。最低賃金の時給を下回る報酬額に思わず苦笑いしてしまう。最下層の守護者のドロップアイテムを売ってもこの程度だと知って、改めて探索者が稼げる場所に移りたがる理由がよくわかった。命をかけてこれではやっていられない。


 本部施設の更衣室で着替えた2人は自転車で帰宅した。話し合うべきことは色々とあるが、とりあえずこの日は終わりである。


 翌日、祥吾とクリュスは警察に呼び出しを受けた。先日のダンジョンでの事件関係である。改めて事情聴取をしたいということで2人とも応じた。


 話す内容については探索者協会でしゃべったことと変わらない。担当の警察官によると、音声記録もあるので例の3人は有罪になる可能性が高いとのことだった。探索者登録は抹消となるという。2人ともとりあえずは一安心した。


 こうして祥吾とクリュスの春休みは終わりを迎える。ダンジョンの探索の合間に高校へ入学するための準備もしていたので、どちらも割と忙しく動き回っていた。しかし、それも一段落である。


 2人は翌日から高校に通い始めた。

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