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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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新宿ダンジョンに挑戦(後)

 新たに入ることになった新宿ダンジョンがどのようなものなのかを知るため、祥吾とクリュスは週末に初挑戦することになった。敷地からして広く、どこに行っても人が多い探索者協会新宿支部が管理する新宿ダンジョンは同じく探索者が多いことを知る。しかし、人が多いということがどういうことなのか、本当の意味でそれを知るのはその後だった。


 ダンジョンに入って進み始めた2人は最短経路の通路を往来する探索者の数に驚く。まるでダンジョン内とは思えないほど騒がしいその通路は歩みも遅かったので、別の通路をたどることにした。そうして階段に着いたものの、その辺り一帯は探索者で渋滞していて更に進み具合が悪い。これは地下1層、地下2層、どちらの階下に続く階段であっても変わらなかった。


 また、地下3層で魔物を求めて通路を巡ったがなかなか遭遇することはなく、他の探索者と出会う階数の方が多いくらいで半ば呆然とする。こうなると本格的に新宿ダンジョンのことを知るためにも地下6層以下に行きたくなるが、1階層1時間半程度の移動時間が足枷となった。とても1日ではいけないからだ。


 地下3層から地上へ帰る途中、祥吾がクリュスに話しかける。


「まさかここで足利ダンジョン並に時間がかかるとはな。クリュス、最短経路と階段の渋滞っぷりは地下5層までなのか? それとも地下6層以下も続くのか?」


「はっきりとはわからないわ。でも、エンジョイ勢は地下6層以下にはほとんど行かないという話だから、そこから先はずっとましになるはずよ」


「問題はどの程度ましになるかだよな。人がいても渋滞さえしなければ文句はないんだが」


「断言はできないけれど、そこは大丈夫だと思うわ。ネットで調べていても、地下5層までの人の多さを指摘する話はたくさん出たけれど、それより下で同じことになるという話は見かけなかったから」


「そうなると、新宿ダンジョンの第一関門は地下5層までの道のりだな」


 2人は地下2層、地下1層と階層を上がりながら話をした。最短経路を避け、階段近辺で渋滞に巻き込まれつつも何とか地上へと戻ってくる。警戒区域へと出たのは午後5時頃だった。正門までの道を往来する探索者の数は相変わらず多い。


 正門まで向かいながら祥吾がクリュスにしゃべる。


「今日はほぼ移動で終わったな」


「そうね。こういう日もあるわ」


「いつもならそうだなと言って終わりなんだが、今回は無策だとずっと1日歩いて終わりになるように思うぞ」


「嫌なことを言わないでほしいんだけれど、否定できないのよね。何か良い案があれば嬉しいんだけれど」


 そのまま2人の会話は途切れた。今まで魔物が強大であれば倒せる方法を発案し、地形が難点であれば解決する方法を用意したが、人の多さが問題となるとどうして良いかわからない。倒す対象ではなく、直接手を出せる相手でもなかった。


 これが夏休みのような長期休暇中であれば移動に費やす日数を増やしてそのまま地下へと進むこともできたが、今は2学期の真っ最中なのでそうもいかない。使えるのは週末の2日だけなのだ。


 自動改札口を通過して正門を抜けた2人は新宿支部の本部施設へと入った。ロビーを突っ切って廊下へと移り、更衣室で別れる。


 ロッカーの前に立った祥吾は服を着替え始めた。装備を外し、インナーを脱ぎ、それから私服を着る。脱いだものはスポーツバッグにすべて入れてロッカーの扉を閉めた。


 男性更衣室から出ると廊下にクリュスの姿は見えない。今朝のやり取りを思い出した祥吾はスマートフォンを取り出してクリュスに電話をかける。


「クリュス、俺、今廊下に出たところだ」


『わかったわ。すぐに向かうから待っていて』


 やはり女性更衣室内で待っていたらしく、クリュスからすぐに返事があった。それから大して待つこともなく当人が出てくるところを祥吾は目にする。


「よう、って、タッルスを外に出したのか」


「早く祥吾に会いたがっていたのよ。ほら」


「にゃぁ」


 手渡された黒猫を受け取った祥吾はその体を擦り付けられた。そうして構えと訴えてくる。それは嬉しいのだが、今ここでやることではなかった。


 どうにかあしらいながら祥吾はクリュスへと顔を向ける。


「今日はこの後ホテルに泊まるんだろう? そのときでも良かったんじゃないのか?」


「拗ねられたら後が大変だから諦めて。それより行きましょう」


「それにしても、困ったもんだな。時間をかけたどうにかなるのはわかっているんだが、その時間がかけられないっていうのが何とも」


「最短経路はまだ避ける方法があるんだけれど、階段の辺りはどうにもならないものね」


「隣にもうひとつ階段があるとか、あの階段の幅が5倍くらいあるとかだったら、どうにかなったのに」


「広くないものね、あの階段」


 そもそもダンジョンの階段は1度に大量の人が往来できる広さはなかった。これはどこのダンジョンでも同じである。ただ、人間側からすれば、規模の大きなダンジョンほど出入口や階段辺りは大きく広くしてほしいと願うのは当然だ。駅、ビル、競技場など、どんな設備でもその大きさに合わせて出入口や通路の大きさが決められているのが普通だからである。


 2人が新宿支部の本部施設の外に出ると空はすっかり茜色だった。東の方が深い藍色っぽい。まだ暑い日が続くとはいえ、日照時間は確実に短くなってきているのだ。


 タッルスを抱いた祥吾がクリュスに話しかける。


「このままだと、明日ダンジョンに入っても、今日の結果と変わらない気がするな」


「だとしても、何もしないわけにはいかないでしょう」


「ということは、やり方を変えるしかないわけか。問題は何のやり方を変えるかだが」


「あの探索者の列を避ける方法なんてあるのかしら? 階段はどうにもできないわよ」


「そうなると、押して駄目なら退いてみな、か」


「何よそれ?」


「そう言う言葉が日本にはあるんだ。直訳すると反対のことをしてみろということなんだが、見方を変えてやってみろっていう意味もある」


「反対のことねぇ。階段を降りるのではなく、登るとかかしら」


「そうそうそんな感じだ」


「にゃぁ」


 祥吾がクリュスと話をしているとタッルスに呼ばれた。構っている手がおろそかになったのが気に入らないらしい。きちんと構うように要求される。


 しばらく構いながら歩いた祥吾は一息入れようと空を見上げた。西の空色が先程よりもその領域を小さくし、東の深い藍色が大きくしている。


「そうか。クリュス、新宿ダンジョンって夜も入れるよな」


「ダンジョンならどこでも入れるわよ。それがどうしたの?」


「でも、昼にダンジョンへ入る探索者の数よりも、夜の方が少ないんじゃないのか? 店だって他の何だって普通はそうだろう?」


 もう少しで予約しているホテルという所ででクリュスは立ち止まった。そうして祥吾へと顔を向ける。


「ということは、もしかして最短経路を使ってそのまま階段を降りられるということ?」


「渋滞なしでいけそうな気がするんだが、クリュスはどう思う?」


「私もいけそうな気がするわ。それじゃ明日は、ああ無理ね。明後日は授業だもの」


「だから今晩の夜に行かないか? 今からホテルに入ってすぐに寝て。夜中に起きてダンジョンに行くんだ」


「良いわね。7時までに眠って1時頃に起きましょう。そして、2時までにダンジョンへ行けばお昼よりも少なくなっているかわかるわね」


「そうと決まれば、早くホテルに行こう」


 難問に対して新しい解決策を発見した2人は急いでホテルへと向かった。そして、チェックインすると手早く寝る準備をする。夕食はコンビニで買った惣菜パンで済ませ、インナーなど衣類の洗濯はクリュスが祥吾の分もコインランドリーで洗い、そしてカラスの行水のような入浴をしてベッドに入った。


 次に目覚めたのは午前1時頃でスマートフォンのアラームを使って起きると出発の準備を整える。一応睡眠時間は足りているのでわずかな眠気を洗顔で洗い落とし、探索者協会新宿支部へと向かった。


 ロビーには確かに人がいたが、その数は昼間に比べるとはるかに少ない。期待に胸を躍らせながら着替えてダンジョンへと向かうと、果たして正面玄関(エントランス)に人があまりいなかった。


 こうなるともう2人は確信する。地図情報に従って最短経路で進むが、往来する探索者の数は昼間よりはるかに少なく静かで、階下へと続く階段も渋滞することなく地下2階へと進めた。


「よっしゃ、予想通り!」


「まさかこんな簡単に解決するなんて」


 思惑通りにダンジョン内を進めたことに2人は喜んだ。これで大幅に時間を短縮して下の階層を目指せる。もう人混みに苦しまなくても良いのだ。


 2人は意気揚々と踵を返し、地上を目指した。

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