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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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2学期中に通えるダンジョン

 9月の半ば頃、そろそろ涼しくなっても良いのではと誰もが思うのに反して気温はあまり下がらない。(こよみ)の上ではもう秋を迎えるというのに気候はそれに応じてくれないのだ。一体なにが気に入らないというのかと祥吾などは思う。


 そんなわけなので、週末に自室で過ごす祥吾は今も冷房を点けていた。日当たりが良いので空調機を使わずには過ごせない。いい加減この強い日差しには飽きていた。


 午前中に筋力トレーニング、予習と復習を済ませると昼からは自由だ。歌いすぎて喉に違和感を抱えながらも祥吾はスマートフォンでウェブ小説を見ていた。


 小説を読みつつも祥吾はたまにスマートフォンの画面の端に目を向ける。時刻を見ているのだ。約束の時間まであと少しである。


 そのとき、祥吾は階下の玄関で母親の春子が客の応対をしているのを耳にした。その音が聞こえなくなると階段を上がる静かな足音が廊下から響いてくる。それもすぐに消えると自室の扉が軽くノックされた。声をかけてきたのはクリュスである。


「入って良いぞ」


「こんにちは。まだ暑いわね」


 部屋の隅から座布団を取り出した祥吾がいつもの場所に置くとクリュスがそこに座った。しばらく室内の涼しい空気を楽しんでから椅子に座った祥吾に話しかける。


「祥吾、それじゃ約束した通り、次に行くダンジョンの話をするわね」


「新宿ダンジョンだったな。夏休みに行けなかったところ」


「そうよ。旧新宿中央公園にある一般型ダンジョンで、地下30層まである深めの場所よ」


「今調べたら電車1本で行けるんだな。1時間くらい乗ることになるが」


「片道で大体1時間半だから、週末に一応通えるでしょう?」


「ということは、ダンジョンに行く週末は毎回泊まりがけということになるのか」


「そうなるわね。でも、しばらくは学校の行事もあるからあまり行けないと思うの」


 座布団に座るクリュスと話をしながら祥吾は考えた。土曜日の早朝に自宅を出て日曜日の夜に帰ってくることになるはずだ。これで最も犠牲になるものを頭に思い浮かべる。


「土曜日の朝にやっている予習と復習ができなくなるわけか」


「わからないところがあれば、いつでも教えてあげるわよ」


「自分の勉強時間を確保しないとまずいというそれ以前の話なんだ。まぁ週末の復習は2回目だから最悪しなくても良いか」


「何かあればいつでも言ってちょうだい。相談に乗るわ」


 そんな頼もしい言葉を受けた祥吾は同時に自室の扉へと目を向けた。ちょうど母親の春子が盆を持って入ってくるのを目にする。


「あら、何の相談をしているのかしらぁ?」


「勉強の相談です。ダンジョンに行くとそれだけ時間が減りますから、私たちの時間を調整しているんですよ、おば様」


「いつも悪いわねぇ」


「いいえ、ダンジョンに一緒に入ってもらっているんですから、これくらいはしないと」


 自分たちの話題を説明したクリュスは微笑んだ。春子は満足そうにうなずくと部屋を出て行く。それを見送ったクリュスが諸語に向き直った。


 そのクリュスに祥吾が尋ねる。


「それで、新宿ダンジョンはどんな問題があるんだ?」


「今のところはまだないらしいんだけれど、大きな異変が年内に起きるらしいの」


「さすが神様、未来を予知できるのか」


「この場合はダンジョンを診断した結果よ。お医者様が検査の結果がんになる可能性が高いと宣告しても、それを予知とは言わないでしょう」


「ダンジョンの診断なんてできるのか」


「何を言っているのよ。今までだってその結果を聞いていたじゃない」


「そうだったのか。てっきり問題が発生してからでないとわからないと思っていたんだ」


 具体的な症状が発症しないと神々も感知できないと思い込んでいた祥吾は驚いた。同時に何でもありだなとも思う。


「それにしても30階層か。1階層1時間として、1日に移動できるのは10階層程度だから3日間かかるのか。3連休以上ないと無理だな、攻略は」


「だから、当面は新宿ダンジョンに慣れるために上の階層を回るつもりよ」


「それで感覚を掴んでから下の階層へ行くわけか」


「ええ、時間はかかるけれど、学校があるから仕方ないわ」


「学業がある身だからこればっかりはどうにもならないな。来週末から行くのか?」


「そのつもりよ。でも、明日に少し様子を見に行かない?」


「明日? 1日だけ、いや、実質半日だけ中に入るのか」


「探索者協会の新宿支部の様子を見に行くのよ。ダンジョンにはまだ入らないわ。聞けば結構大きいそうだから下見をしようと思うの」


「迷子になるくらい広かったのか、あそこの支部は」


「探索者の数も多いから歩くのも大変らしいわよ」


「通勤ラッシュみたいなものか」


「らしいわよ」


「嘘だろう。そんなに多いのか」


 割と真面目な返答に祥吾は愕然とした。人混みは好きではないのである。


 ともかく、実際の探索者協会新宿支部を2人で様子を見に行くことになった。




 翌朝、祥吾はいつも通り目を覚まして日課に励んだ。クリュスとの集合時間は遅めなので急ぐ必要はない。


 約束の時刻に近づくと祥吾は自宅を出た。まだ強い日差しを浴びながら最寄り駅へと向かう。今日はリュックサックもスポーツバッグも持ってきていないので身軽だ。


 最寄り駅にたどり着くと改札口から少し離れた場所に立った。後は待つだけである。スマートフォンを取り出してウェブ小説を読み始めた。


 日陰でしばらく読書をしていると祥吾は声をかけられる。


「祥吾、遅れてごめんなさい」


「え? ああ、大した時間じゃないから良いよ。どうしたんだ?」


「直前になってタッルスが構えと言ってきて相手をしていたのよ」


「それは仕方がないな。でも、珍しいじゃないか」


「そろそろ祥吾に会いたがっているのかもしれないわ。ああいうときはそうだもの」


 そういえばしばらくクリュスの家に行っていないことを祥吾は思い出した。ダンジョンに入る前は毎月呼ばれていたが、頻繁に会うようになってからはその必要がなくなったからだ。近いうちに呼び出されることを覚悟しておく。


 黒猫の話をしながら2人は駅構内へと入った。やって来た電車に乗ると座席に座って談笑を続ける。約1時間乗り続けると新宿駅に到着した。人の多さにどちらも顔を少ししかめる。駅の外に出てからもしばらくはそんな状態が続いた。


 しかし、ある場所を境に突然人気が少なくなる。探索者協会新宿支部へ近づいてきたのだ。ここでようやく一息つく。


 その後も歩き続けると新宿支部へと着いた。敷地内は広く、新宿駅ほどではないにせよ人が多い。もちろん本部施設を始め、どの施設の建物も大きくて出入りしている人が多かった。横田ダンジョンや世田谷ダンジョンも人が多かったが、新宿ダンジョンの方は一桁違うように見える。


「こんなに人が多いのか」


「見るのと聞くのとでは大違いね」


 祥吾などは多少圧倒されつつも支部の本部施設へと入った。ロビーは想像していたよりも広く、往来する探索者の数も多い。夜でも人が絶えることがないとネットの記事などには書かれていたので、過疎のダンジョンとはまったく様相が違った。


 そんな2人は受付カウンターへと進む。窓口はいくつもあるがそれ以上に人がやって来るのでどこも行列待ちが発生していた。その中の列に並ぶ。


「これは思った以上にすごいな」


「そうね。30階層もあって、都心となるとこんなに人が増えるなんて驚いたわ」


「それにしても、さっきからお前を見る奴が多いな」


「場所が場所だけに仕方ないと思うことにするわ」


 先程から往来する人々や行列に並ぶ探索者たちの視線の一部がクリュスに向けられていた。男ばかりで女がほとんどいない場所なのでやむを得ない面があるにせよ、普通なら落ち着かないだろう。


 ようやく自分たちの番が回ってくるとクリュスが受付嬢に新宿ダンジョンの様子を尋ねた。すると、今のところ特に注意するようなことはないという返答を得る。


「問題なしか。このままずっとそうあってくれたら良いんだけれどなぁ」


「まったくね。さて、他の施設を見て回りましょう」


 ロビーを歩きながらクリュスが祥吾に伝えた。そうして奥の廊下へと移る。更衣室、お手洗い室、受講室などを回った。次いで売買施設へと向かう。ここも建物自体が大きく、中の店舗もそれに合わせて広かった。まるっきりショッピングモールだ。しかも営業時間は24時間営業である。これはありがたい。


「大した設備だな」


「本当ね。田舎とは大違いだわ。近くのダンジョンにもほしいくらい」


「赤字ですぐに撤退しそうだ」


 クリュスの感嘆の声に祥吾が苦笑いしながら返事をした。結局、集まる人の数で設備は決まるのである。


 見るべきものを一通り見て回った2人は最後にフードコートへと立ち寄った。

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