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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第7章 高校生活に慣れてきた頃

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代替わりした映像研究会

 夏休みの名残りは日差しの暑さだけになりつつあるとある日の朝、祥吾はいつも通り教室に入った。相変わらず冷房がよく効いているので入った直後は涼しい。


 自分の机にたどり着いた祥吾はスポーツバッグから必要な勉強道具を取り出して机の中に移す。1時間ごとに使ってはスポーツバッグに入れていくのだ。


 この日の授業を受ける準備を済ませた祥吾は空いた時間をどうしようかと考えた。敦と徳秋はまだ来ておらず、祐介は他の男子と話をしている。最近頻繁に見るようになったウェブ小説でも見ようかとスマートフォンを取り出した。


 そんなときに祥吾は後方から良樹に声をかけられる。


「おはよう、祥吾君。おお、ウェブ小説を読んでいたのかい」


「やることもないしな。隙間の時間を埋めるのには持ってこいだ」


「そうだよね。僕も空いている時間にはよく読むよ。最近はどんなのを読んでるのかな」


 そこから祥吾は良樹と読んでいるウェブ小説についての雑談をした。面白いと思った作品を挙げ、何が面白いのかを伝えていく。同じ小説を読んでいれば喜んで更に細かい話に入っていった。


 やがて話が一段落すると良樹が別の話題を振ってくる。


「ところで、祥吾君は今日の放課後は空いているかな?」


「放課後? ああ、空いているぞ」


「だったら、映像研究会の会員でカラオケに行くから一緒に行かないかい?」


「構わないぞ。でも、幽霊会員の俺に話を持ってくるって珍しいな」


「今日は石倉元会長が久しぶりに会員室に顔を出してくるから誘ったんだ」


 一応自分が所属している同好会の元会長の名前を祥吾は久しぶりに聞いた。入学して以来数える程しか会っていないが、その割に印象に残っている人物である。


「確か、夏のコミディスを最後に引退したんだったよな。今は大学受験の勉強中だったか」


「息抜きだそうだよ。さすがに休みなしというのは無理だしね」


「まぁそうだな。ということは、石倉元会長は遊びに来るわけか」


「そうだよ。漫画やアニメも今は買うだけ買って来年の春までお預けらしいんだ。僕なんて禁断症状が出ないか心配だよ」


「危ない薬をやってるみたいだな」


「精神的なお薬と言うなら正しいかもね。それじゃ、放課後一緒に会員室に行こう」


「ああ。そうだ、ちょっと待ってくれ。クリュスにも連絡してみる」


 話を切り上げようとした良樹に待ったをかけた祥吾はスマートフォンを取り出した。同じ幽霊会員のクリュスにも話を通しておくべきだと考えたからだ。簡単な事情を書いたメールを手早く送る。返事はすぐに返ってきた。今回は辞退すると短い一文があるのみだ。


 それを見た祥吾が良樹へと顔を向ける。


「辞退するって返ってきたな」


「知ってた。でも残念だね。春のときみたいにまた華やかになるかもしれなかったのに」


「幽霊部員だからな。基本的に活動には関わらずの立場ということなんだろう」


「そうだね。無理に来てもらうことでもないし、丸木会長には2人のことを伝えておくよ」


「丸木会長、そうか、あの人が次の会長になるんだよな」


「会長職を引き継いで、やっと慣れてきたところらしいよ」


「へぇ、そうなんだ。あれ、ということは、副会長は誰がなったんだ?」


「実は僕なんだよ」


「え! お前が!?」


 意外な話を聞いた祥吾が目を見開いた。まさかそんなことになっているとは思わず良樹の顔を改めて見直す。何となく落ち着きがなくなったような感じがした。


 まだ驚きから立ち直っていないながらも、祥吾は良樹に尋ねる。


「どうして副会長になったんだ? 他になり手がいなかったのか」


「ある意味そうだね。思い出してほしいんだけど、映像研究会の会員は石倉元会長を除いたら5人しかいないんだ。そのうち丸木先輩は会長だし、祥吾君とクリュスさんは幽霊会員だろう。そうなると必然的に1年の2人のどちらかがなるしかないんだ」


「ああそうか、お前と森川しかいないもんな。でもなんで森川じゃなくてお前なんだ」


「くじ引きで当たったんだよ」


「景品かよ、副会長職は」


 適当な決め方に祥吾は脱力した。しかし、この手の役職は押し付け合いの側面があるのは確かなので、穏当に決めるのならば悪くないやり方だとも思う。


「ともかく、副会長になったということは、何か役職の仕事があるわけか」


「実のところ会長を支えるのが役目だから、ほとんど会長の仕事と変わらないんだよね。だから、基本的には丸木会長と一緒に作業していれば自動的に仕事をしたことになるんだ」


「そうなのか。しかしそれじゃ、来年の会長はお前ということにならないか?」


「よくわかったじゃないか、祥吾君、その通りなんだよ、ははっ」


 突然乾いた笑いをした良樹に祥吾は痛ましいものを見るような目を向けた。つまるところ、副会長という役職は会長になるための準備期間というわけである。


「そうなると、森川は3年間役職なしで映像研究会にいられるわけか」


「その通りだよ。くじの結果がわかったときのあの健介君の笑顔、殴りたかったなぁ」


「殺意が高いな。気持ちはわからんでもないが」


 悔しそうに拳を握りしめる良樹を見て祥吾は苦笑いした。


 そのとき、チャイムが鳴る。いよいよ1日の始まりだ。良樹が自分の席に戻ると祥吾は自席に正しく座った。




 放課後を告げるチャイムが鳴ると校舎内の教室が次々と騒がしくなっていった。運動部に所属している者は廊下に飛び出し、友人としゃべることに夢中な者は教室に残っている。


 荷物をすべてスポーツバッグに入れた祥吾は席を立ち上がった。いつもなら祐介たちの席へと向かうが今日はそうではない。良樹の席へと向かう。


「良樹、行こうか」


「そうだね。祐介君たちには断りなしでいいのかい?」


「昼休みの間に言っておいたから大丈夫だ。現に何も反応してこないだろう?」


「なるほど、根回し済みというわけなんだ。用意がいいね」


 納得した良樹が自分の鞄を持って立ち上がった。そうして2人連れ立って廊下へと出る。1年生の校舎から3年生の校舎へと移り、3階まで上がると廊下を進んだ先にある扉の前に立った。良樹が扉をノックすると横にスライドさせて中に入る。


 室内は漫画や小説、それに映像ソフトのパッケージが所狭しと棚に詰め込まれていた。映像の機材は型の古いものばかりである。それらに囲まれるように長机やパイプ椅子があった。


 中には、石倉元会長、丸木現会長、そして森川健介(もりかわけんすけ)の3人が揃って談笑している。その3人が一斉に振り向いた。


 一番最初に丸木現会長が声をかけてくる。


「正木君、よく来てくれたね」


「誘ってくれてありがとうございます。良樹から聞きましたが、会長になったそうですね」


「そうなんだ。ついにこのときがやって来たよ。これから1年間、頑張らないとね」


「なに、君ならできるよ」


 隣に座る石倉元会長が機嫌良く丸木現会長に声をかけた。肩の荷が下りたというような気楽さが漂っている。


「森川、良樹から話を聞いたぞ。くじで見事副会長職を外したそうだな」


「いやぁ、ぼくはくじ運がいい方だから何とかなるかなって思ったんだよ」


「ちくしょう、それを事前に知ってれば、じゃんけんにしてたのに!」


「ははは、情報戦を制する者は戦いを制するのだよ」


 気持ち良さそうに笑う森川を見た良樹が顔を引きつらせていた。それを見ていた祥吾が友人の敗北した理由を知って力なく笑う。


「それで、晴れて自由の身になった森川はこれから何をするつもりなんだ?」


「映像研究会の活動にも慣れてきたから、色々とやりたいことをやろうと思ってるんだ。同人誌作りとか。それに、ここにいたら映像関係のことも勉強できるから、そっちにも手を広げられそうだしね」


「なほるど、やりたいことがあるのか。良樹はどうなんだ?」


「ぼくだってやりたいことがあるよ。でも今はとりあえず副会長の仕事を覚えないとね」


 同学年の友人と知り合いはやりたいことがあるらしいことを知って祥吾は羨んだ。また、そんな後輩2人を見た丸木現会長が口を開く。


「こうなると私も頑張らないとな」


「なに、君ならできるよ」


「石倉会長、あいや元会長、さっきからそればっかりじゃないですか。受験勉強の方は大丈夫なんですか?」


「今年に入ってから少しずつ準備していたから焦りはないよ。ただ、ずっと勉強漬けというのは案外ときついけどね。これからが本番なんだけど」


 余裕の態度を崩さない石倉元会長がこれからの厳しい時期を見据えて発言した。それでも何とかできるという自信に溢れている。


「それじゃ、全員揃ったんで行きましょうか」


 頃合いを見計らっていたらしい森川が声をかけながら席を立った。それに合わせて全員が自分の荷物を持って続く。


 雑談に区切りをつけた5人は会員室を出てカラオケ屋に向かった。

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