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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第6章 高校1年の夏休み(後半)

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温泉旅館でのひととき

 すべてを終えた翌日、祥吾とクリュスは朝の8時頃まで眠っていた。連日の作業で疲れが溜まっていたのだ。この後はもうやることがないという解放感も後押しして思うがままに夢の中である。


 2人は起きると先に朝食を食べた。焼き魚が焼きたてなのが旨い。食事中も会話が弾む。


「祥吾、今日は何をするか考えているのかしら?」


「深くは考えていないぞ。リュックサックを郵送するのと、食べ歩きくらいかな」


「食べ歩きは朝から?」


「特には決めていない。急ぐ必要もないからな。クリュスの方は何か予定でもあるのか」


「リュックサックを郵送するくらいね。他には特にないわ」


「そうか。ああそうだ、聞いておきたいことがあったんだ。あのゼリー状の固体は常温で保存していても構わないのか? 今は俺のリュックサックに入れっぱなしなんだが」


「大丈夫よ。魔力の塊だから傷まないもの」


「揮発することもないんだな?」


「ふふふ、そう考えるのね。それも大丈夫よ。あれは安定しているから」


「話を聞くほどに食べる物だとは思えないな」


「正確には食べることもできるという代物だからね」


 どんな物質であるのか知るほどに食べる物ではないという思いを祥吾は強くしていった。神々による安全は保証されているとはいえ、進んで口にしたいとは思えない。


 朝食を終えた2人は温泉に入った。今回は交互にである。先にクリュス、後に祥吾だ。


 部屋で自分の番が回ってくるのを待っている間、祥吾はスマートフォンを触って時間を潰した。最初に専用アプリ『エクスプローラーズ』を立ち上げて足利ダンジョンの様子を確認する。注意事項の欄は昨日から変わっていない。ダンジョンに関する掲示板を覗くと、魔物の出現頻度と発生数が減ってきたかもしれないという書き込みを目にする。ただ、書き込んだ者もまだ確信を得ていないらしく、あくまでも感覚的なものと断言を避けていた。


 他のニュースを見てると夏休み前と大して変わっていない様子である。たまに魔物の大量放出の警報が見受けられるが、世間は概ね平穏だった。


 このとき、祥吾は学校の友人たちのことをふと思い出した。自分以外はSNSをやっているということを知っているので覗いてみることにする。


 最初に覗いたのは祐介のアカウントだ。1学期終了近くの話では、短期バイトをしてから遊び回るという話だった。実際その通りで、7月中こそ投稿は散発的だったが、8月になってから色々とあちこちに遊びに行っていたようである。


「ゲーセン、カラオケ、ファミレス、これはどこかの店か、河川敷、サイクリングか」


 8月前半の投稿は色々とあった。とても楽しんでいるように見える。そして、今月半ば辺りから再び投稿がほとんどなくなった。


 次に覗いたのは良樹のアカウントだ。こちらは事情を知っているので新鮮味は薄い。夏休み前半はコミディスへの参加関連の投稿が多かった。直前になって少し手伝ったのはもう過去の話である。他にも、漫画やアニメに関する投稿が多数を占めた。


 良樹のアカウントも夏休みの後半になると投稿が落ち着く。コミディスで買い逃した新刊を買っただの、漫画やアニメについての考察や感想などが散見された。


 次いで敦と徳秋のアカウントを見てみる。こちらはバイト関係の人たちとの投稿が多かった。夏休み前に言っていたように色々なイベントを楽しんでいたようである。


「海に泳ぎに行って、山にキャンプしに行って、これは遊園地か、バーベキュー、こっちは夏祭り。色々とやっているんだな」


 投稿されたものを流し見した祥吾は感心していた。宣言通り夏を楽しんでいたからである。しかも、夏休みに入って以来、投稿ペースがあまり変わっていない。随分と精力的に遊んでいるようだ。


 他にも香奈のアカウントも覗いてみた。こちらは一定の間隔で投稿が集中していた。その投稿もアクセサリーに関することが大半だ。アクセサリー本体だけでなく、店も写真に撮って積極的に主張している。


 最後に睦美のアカウントだが、こちらも一定の間隔で投稿が集中していた。国内各地の食べ物と飲食店の写真画像ばかりである。


 一通り見た祥吾は大きく息を吐き出した。みんな夏休みを満喫しているようだ。それに引き換え自分はどうかと振り返る。7月は夏休みの宿題、8月はダンジョン攻略だ。探索活動がもっと華やかなものであれば自慢もできたのだろうが、実際は不人気職なので周囲に話しづらい。更に言うとクリュスとやっていることは人に話せることではないので秘密にしておく必要がある。そもそも、命をかけてやっていることを楽しむ余裕はない。


 何とも灰色な生活だなと祥吾は思った。黒色でないのは隣にクリュスという美人がいるからだ。これを羨ましいと言う者は多いだろう。ただし、ダンジョン攻略とセットと知ったときにどれだけの者が同じ主張をし続けられるのかは不明だが。


 思考が次第に沈んでいく祥吾は部屋の隅に置いてある座布団の上で丸まっている黒猫へ目を向けた。何となく羨ましく思えて来る。


 ぼんやりとしていた祥吾は廊下から聞こえてくる足音を耳にした。それが部屋の前で止まると障子が開けられる。浴衣姿のクリュスが入ってきた。


 その姿を見た祥吾が起き上がる。


「よし、次は俺の番か」


「良い湯だったわよ。祥吾は今まで何をしていたの?」


「友達のアカウントを流し見して、後は寝ていたな。特にすることもなかったし」


「そうなの。なら、私はタッルスに相手をしてもらおうかしら」


「あいつ今寝ているぞ」


「それは残念ね。だったら何をしようかしら」


 クリュスと話をしている間に祥吾は温泉に入る用意をした。着替えなどを手に持つと部屋を出る。廊下を歩いて脱衣所に入ると服を脱いだ。


 温泉場へと移るとまず洗い場で体を洗い、それから温泉に入る。知らないときはどこかに火山でもあるのかと思っていたが、今やその正体を知っているので何とも言えない気持ちになった。しかし、それでも温泉は温泉だ。それはそれ、これはこれとして入ると気持ちが良い。


 肩までつかった祥吾は温泉の湯を見た。一見するとどこにでもあるような湯に見える。それがダンジョン由来でしかも微弱な魔力を帯びているというのだからわからない。


「こんなのわかるわけないよなぁ」


 湯を掬って顔を洗った祥吾が独りごちた。神々がいなければ今も胡散臭い温泉のままだったそれは体を温めてくれる。こちらの世界では力を発揮できない微弱な魔力はないも同然なので、一般人にとってはただの温泉でしかない。


 それがダンジョンへ持ち込んで魔物にかけると一瞬で溶けるのだ。その落差を初めて知った者は間違いなく理解しきれないだろう。事実、祥吾がそうだった。


 今後、老女将はこれを対魔物用の温泉水として売るようだが、果たしてどれだけうまくいくかは未知数だ。何しろこれを使って魔物を殺してしまえばダンジョン内であってもドロップアイテムが出てこなくなってしまう。探索者たちはドロップアイテムを求めてダンジョンに入っているので、それが手に入らないと生活が成り立たない。


 しかし、ここまで強力な効果を発揮するとなると使い方によっては非常に有効なのは確かだ。例えば、対処仕切れない魔物に襲われたときの切り札として使うなどなら一考の余地がある。そんな場合はドロップアイテムを拾っている暇がないからだ。


 他にも、探索庁監視隊に売り込むというのも悪くない。特に魔物の大量放出が発生したときにこの温泉水を使うと効果的だ。ダンジョンの外ではドロップアイテムが出てくることもないので気にせず使える。


 色々と考えているうちに祥吾はやはり売れるのではないかと思えてきた。実際はやってみないとわからないが使い道は地味に多い気がする。


 のぼせてきた頭で祥吾はそんなことを考えた。




 温泉に入った後、祥吾とクリュスは冷房の効いた部屋で何となく過ごしていた。温泉に入って気が抜けたようである。


 そうして昼食の時間になって老女将が持ってきた膳に手をつけた。食事後も2人はあまり動こうとしない。


 黒猫を構っていたクリュスが祥吾に声をかける。


「祥吾、食べ歩きはどうするのよ?」


「この様子だとちょっと無理だな。ここまで何もする気が起きないとは思わなかった」


「リュックサックの郵送はどうするのよ?」


「クリュス次第だな。明日自宅まで持って帰る気があるなら、そ」


「夕方、暑さがましになったら郵送しに行きましょう」


「わかった。そうしよう」


 言葉を途中でさえぎられた祥吾は苦笑いした。さすがにリュックサックを4つも抱えるのは嫌らしい。しかし、今後再び使うときはどうするつもりなのかとふと考える。


 近づいて来た黒猫に邪魔されて祥吾は考えるのをやめた。

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