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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第6章 高校1年の夏休み(後半)

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ダンジョンの無害化─足利ダンジョン─

 念願である巨大化した粘性生物(スライム)の打倒を成し遂げた祥吾とクリュスはダンジョンの核の部屋に入ろうとした。ところが、固形化した粘性生物(スライム)の体が邪魔をして扉を開けられないことが判明してしまう。


 そこでクリュスは魔法や守護人形(ガーディアンドール)を使って扉を開けられる状態にしようとした。一方、祥吾はドロップアイテムを回収していたが、随分と大きいスライムゼリーを手に入れる。それはとても怪しいものに思えた。


 ある程度の時間をかけて掘削作業を続けたクリュスはついにやり遂げる。ダンジョンの核の部屋へ続く扉を開けられるようにしたのだ。機嫌良く人形を片付けるとそのまま中に入っていった。


 その様子を見ていた祥吾は続いて入ろうとする。今立っている固形化した粘性生物(スライム)の体の上から瓦礫が散乱する本来の地面に降り、それから通路へと移った。石垣で造られた通路の奥に部屋があり、その中央にはダンジョンの核である水晶が鎮座している台座がある。


「やっと入れたな。タッルス、ほら」


 肩に乗っていた黒猫に祥吾は話しかけた。その間に手に持っていた4つのリュックサックを床に降ろす。その直後、黒猫は右腕を伝って床に降り立った。


 その黒猫を拾い上げたクリュスがその腕に抱えると黒猫自体が輝き始め、丸まったかと思うとそのまま球体へと変化する。そのまま眺めているとすぐに台座の上にある水晶と寸分違わぬ姿になった。


 その変化を見届けた祥吾が台座へと近寄る。そこに乗っている表面に(ひび)が入った水晶を持ち上げるとリュックサックに入れた。


 一方、クリュスは台座の上にタッルスが変身した水晶を置くと、そこから同じ大きさの水晶が生み出される。


「祥吾、タッルスを持ち上げて」


 指示を受けた祥吾は台座に置いてある水晶を持ち上げた。それと入れ替わりでクリュスが手にしていた神々謹製の水晶を置く。これで作業は完了だ。


 タッルスが元の黒猫の姿に戻る中、クリュスが水晶に手を当てて目を閉じるのを祥吾は目にする。神々への作業報告だ。


 黒猫を抱えたままの祥吾はクリュスから声をかけられるのを待った。ここまでの一連の流れはいつも通りなので何かを感じることはもうない。


 祥吾が暇潰しにタッルスに構い始めた頃、クリュスが水晶から手を離して目を開けた。それから祥吾へと顔を向ける。


「祥吾、とても悲しいお知らせを神様からいただいたわ」


「嫌な予感しかしないんだが、聞かないわけにはいかないんだよな」


「守護者の部屋の転移が使えないの」


「え?」


「このダンジョン、どうもあちこち傷んでいるらしいの。それで、その傷んでいる中に守護者の部屋の転移魔法も含まれているらしくて、しばらく使えないそうなのよ」


「ということは、俺たちは6階層を登らないといけないわけか」


「そうなの」


 あんまりな話に祥吾は膝から崩れ落ちそうになった。最後は一瞬で帰還できると信じていたのに、その信用を一瞬で失ったのである。


「信じられないし、信じたくないな。転移魔法だけ最初に直してもらえないのか?」


「優先するべき箇所があるから後回しだそうよ。魔物の発生頻度や発生数の調整やドロップアイテムの修正、他にも裏側で問題を抱えているみたいなの」


「そう言われると俺の方からは何も言えないが、クリュスは何とも思わないのか?」


「私からもお願いしたけれど、駄目だったのよ」


「ああ、それはもうどうにもならないな」


 やれることをやったというクリュスの言葉に祥吾は肩を落とした。神々に近いクリュスの頼みを聞いてもらえないというのならば、祥吾ならば尚のことだと思うのは当然だろう。とりあえず今晩もダンジョンで野営をするのは確定だ。


 そこまで考えたとき、祥吾はふと気になることをクリュスに尋ねる。


「クリュス、さっき拾ったあのゼリー状の固体が何か神様に質問はできるか?」


「そういえば、そんなのもあったわね」


 今思い出したという様子で祥吾の質問を受けたクリュスは再び水晶に手を当てて目を閉じた。今回は短い時間で目を開ける。なぜか微笑んでいた。


 首を傾げた祥吾がクリュスに尋ねる。


「どうだった?」


「面白いことを教えていただいたわ。あのスライムゼリーは、とても高濃度の魔力の塊だそうよ。普通だったらあれほどのものは出てこないはずなんだけれど、今回はダンジョンの異常でドロップアイテムに混じっていたみたいね」


「何だよその高濃度の魔力の塊って。ものすごく危なそうな響きがするじゃないか」


「ダンジョンが吸収した魔物の死体や物品を再利用するという話は前にしたわよね。そのときに一旦凝縮した魔力に変換して、そこから色々なものを作っていくのよ。そのスライムゼリー、というかゼリー状の固体の方が正確な呼び方よね。ともかくそれはその再利用前の魔力の塊というわけなの」


「何と言うか、説明を聞いても良い印象が湧かないなぁ」


「ものすごく貴重な物だと思うわよ。だって、それを時間をかけて少しずつ食べ続けると体内で魔力を保有できるようになるもの。つまり、魔法を使えるようになるのよ」


 説明を聞いていた祥吾は一瞬クリュスが何を言っているのかわからなかった。1度深呼吸して問いかける。


「待て、クリュス。今さらっとすごいことをいわなかったか?」


「言ったわよ。魔法を使えるようになるって」


「どうして魔力の塊を食べたら魔法が使えるようになるんだ?」


「魔力ではなくて、そのゼリー状の固体を食べたらよ。再利用するために凝縮された魔力だから、その後何にでも使いやすいようになっているの。だから、体に馴染ませながら取り入れたら、魔力を保有できる体に変化させられるのよね」


「ダンジョンって、すごいものを作るんだな」


 説明を聞いた祥吾は感心した。現代世界には敵対的な存在だが、その機能は驚くべきものである。


「ということで、祥吾、帰ったらそれを毎日少しずつ食べましょう」


「なんて?」


「憧れの魔法が使えるようになるわよ♪」


 非常に魅力的な提案をされた祥吾は返答できなかった。異世界にいた頃から魔法に縁がなかったので最初から諦めていたが、もし使えるようになったらと思ったことはある。確かにあるのだ。正直に言うと、当たり前のように魔法を使っている者を見て羨ましく思ったこともある。


 ただ、それはそれとして、だったら食べてみようとは思えない。何と言うか、ダンジョンに体を作り替えられるような気がして嫌なのだ。もちろん魔法を使えるようになるというのは魅力的な話ではある。しかし、やっぱり躊躇ってしまうのだ。


 黙り込む祥吾に微笑むクリュスが更に勧めてくる。


「どうしたの? 前に魔法を使えたらって言っていなかった?」


「言っていたがな、ダンジョンのドロップアイテムを口にするっていうのは、ちょっと」


「でも、神様が悪い物ではないとおっしゃっているのだから大丈夫よ」


「あー、そのお墨付きがあるのかぁ」


「そうよ。いくら私でも危ない物を祥吾に食べさせるわけないじゃない」


「まぁその辺りは信頼しているが」


「ここで言い争っていても仕方ないわね。この件は後回しにしましょう」


 もっと強く押してくると思っていた祥吾だったが、クリュスは話を途中で切り上げた。そうして話題を変えてくる。


「もっと目の前の憂鬱なことを考えないといけないわ」


「どんな話だ?」


「帰りの件よ。歩いて地上まで戻らないといけないでしょう」


「そうだった。そうなると、このリュックサック4つはどうするんだ? さすがに魔物の襲撃があるところにこれを抱えて突っ込む気はないぞ」


「そうなのよね。う~ん、そうなると、また人形の出番かしら」


「人形も自分の身を守らないといけないことを考えると、2体はほしいな。背中に物を入れたリュックサックを背負わせて、空のやつを前に抱えさせるんだ」


「かなり不格好そうね」


 少し厳しい表情を浮かべたクリュスだったが、帰路における魔物の襲撃頻度を考えると見た目は諦めるよりなかった。


 一応どのようなものなのか確認するため、実際に人形を起動させて試してみる。すると、槍と盾を持ち、更にリュックサックを体の前後に背負うフードを目深に被ったローブ姿の人物ができあがった。


 それを見たクリュスは真顔でつぶやく。


「かなり不格好ね」


「でも、これが一番現実的な案だな。また最短経路は使えなくなるが」


 この意見にはクリュスも同意するしかないらしく、何も言い返さなかった。そして、最終的に往路と同じく隠れてこっそりと帰ることに決まる。


 翌朝、早めに起きた祥吾とクリュスは地下6層の守護者の部屋から出発した。往路と同じ経路に沿って地上を目指す。今回は手際を心得ているので探索者対策も慣れたものだ。


 魔物の襲撃には苦しめられたものの、2人は半日かけて地上に帰還した。

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