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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第6章 高校1年の夏休み(後半)

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夏休みの活動2─足利ダンジョン─(6)

 階段のすぐ近くで休んでいた祥吾とクリュスは休憩を切り上げた。時刻は午後5時半だ。これから地下6層へと足を踏み入れるが、何事もなければ午後7時頃には守護者の部屋にたどり着いているだろう。


 そんなことを期待しながら階段を降りた2人は目の前の洞窟の中を歩いた。もうすっかり見慣れた光景である。この辺りになると他の探索者を見かけることはほとんど期待できない。


 おかしな兆候がないか警戒しながら先に進む2人だったが、とある分岐した洞窟の奥からかすかに聞こえる戦闘音を耳にした。立ち止まって耳を澄ませると気のせいではないことがわかる。


「クリュス、この向こうは最短経路ではないんだよな?」


「そうよ。誰かがここで活動しているのでしょう」


「普通は地下4層か地下5層だって聞いていたが、珍しいな」


「祥吾、音がこちらに近づいて来ていないかしら?」


「これは、戦いながらこっちに移動しているのか。手に負えなくなって逃げてきている?」


 考えられる可能性を口にした祥吾が渋い顔をした。このダンジョンで魔物のなすり付けは難しいが、溢れた魔物に襲われるという巻き込まれ型は珍しくない。戦っている探索者の相手がどんな魔物かわからない以上、そのまま巻き込まれるわけにはいかなかった。


 祥吾がクリュスに向かって提案する。


「最短経路を少し進んで岩場の陰に隠れよう。どうするかはその後決めないか?」


「そうしましょう。人の戦いにやたらと巻き込まれたくないわ」


 方針が決まると2人は最短経路の洞窟をいくらか進んだ先にある岩場の陰に隠れた。そこで分岐した洞窟から現われる何かをじっと待つ。


 待つことしばし、戦闘音は次第にはっきりと聞こえるようになってきた。それに伴ってどんな戦いが繰り広げられているのかがはっきりとしてくる。


 聞こえてくる戦闘音から推測すると、どうやら戦っている探索者たちは逃げているらしい。そして、鼠の鳴き声も聞こえてきたことから多数の小型の魔物に襲われていることも推測できるようになる。


「鼠系の魔物か。数が多いと面倒なんだよな」


「こっちにも来そうね。ああ、鼠の姿が見えてきたわ。あれは?」


暗闇鼠(ダークラット)の方か。ということはあいつら、もしかして」


 しゃべっていた祥吾が途中で口を閉じた。探索者が最短経路の洞窟に入ってきたからである。大きな鼠にまとわりつかれて難儀しているようだ。あそこまで接近を許していると結構厳しい。


 そして、その後で姿を現したのが巨大土竜(ジャイアントモール)だ。何やらいきり立っているようでしきりに鳴いている。よく見ると頭部を負傷していた。攻撃されて怒っているらしい。


 何となく事情が見えてきた祥吾が口を開く。


巨大土竜(ジャイアントモール)に襲われて戦っていると、穴から出てきた暗闇鼠(ダークラット)の集団に襲われて逃げてきた感じか」


「どうするの? あの4人、前に助力した土峰と言い争っていた探索者よね」


「あー、どこかで見たことがあると思っていたら、あいつらか。比松だったか」


「名前までは覚えていないわ」


 興味がなさそうなクリュスの態度に祥吾は苦笑いした。ロビーで前に見た口論の姿が気に入らないらしい。その点は祥吾も同じだが、見捨てるのかというとそれもどうかと思う。


「クリュスはあの4人を助けるのは反対か?」


「反対とまでは言わないけれど、助けたいとは思わないわね。祥吾は助けたいの?」


「積極的にはそう思わないな。ただ、見捨てるのも。あの土峰と岸森は助けただけに」


「そう言われると」


「だったらこうしよう。俺だけが助けに行く。そして、巨大土竜(ジャイアントモール)を倒したら引き上げる。クリュスは俺が戦っている間に少し先に進んで待っていてくれ」


暗闇鼠(ダークラット)は良いの?」


「この階層まで来ている連中なら自分で対処できるだろう。それに、どうせ何匹かは俺のところに来るだろうし、結果的にはいくらか鼠退治もすることになるよ」


「わかったわ。そうしましょう。ただし、あなたの剣に魔法をかけておくわ。そうでないとあの土竜退治は大変でしょう?」


 鞘から剣を抜いた祥吾はその刃を露わにした。すると、クリュスが呪文を唱えて剣に魔力を付与する。


 刃がぼんやりと淡く輝くのを目にした祥吾は岩陰から戦いの現場を覗いた。最短経路の洞窟にやって来ると反対側に向かっている。


 悪くない状況を確認した祥吾が岩場の陰から飛び出した。そのまま足場の悪い岩場をできるだけ早く移動していく。残念だが走ることはできない。そして、急襲できない以上は魔物に発見されてしまう。最初は近くにいた暗闇鼠(ダークラット)に襲われた。大半は比松たち4人の方にいるので数はずっと少ないが、頻繁に襲撃されるのは厄介だ。


 それでも祥吾は1匹ずつ斬り倒しながら前に進み、ようやく巨大土竜(ジャイアントモール)の背後へとたどり着く。そして、周囲の鼠に構わずその左後ろ脚を切断した。


「ギヤヤアアア!?」


 明確な悲鳴を上げた巨大土竜(ジャイアントモール)がのたうち回った。近くにいた暗闇鼠(ダークラット)が容赦なく踏み潰される。


 一目見て近づくのは危険だと判断した祥吾はとどめを刺すのを諦めた。今回の目的は比松たち4人を助けることなので、動けなくしたことで最低限の目的を果たせたことになる。


 暴れる巨大土竜(ジャイアントモール)越しに4人組を見た祥吾は、食らいつこうとする鼠たちを払いのけながら遠ざかろうとしていた。あの様子では祥吾に気付いているかも怪しい。


 それならそれで好都合なので祥吾はそのまま引き返した。まとわりつこうとする暗闇鼠(ダークラット)を1匹ずつ倒しながら自分も戦場を離脱する。


 鼠をすべて倒した後、祥吾は更に洞窟の奥へと進んだ。すると、しばらくしてクリュスを発見する。


「クリュス、終わったぞ」


「思ったよりも早かったわね。そんなにあっさり倒せたの?」


「いや、巨大土竜(ジャイアントモール)は脚をひとつ切り落としたら暴れて手を付けられなくなった。だからその場から動けないことを確認して引き返してきたよ」


「あの4人はどうしたの?」


「鼠にまとわりつかれながらも逃げていったのを見た。あの様子なら生き延びられるだろうな。怪我はするかもしれないが」


「だったら、目的を果たせたのね」


「たぶんな。駄目だったとしても、あれ以降のことは俺じゃ責任を持てない」


「祥吾はやれるだけのことはやったわ。だから気にしなくても良いと思うの」


「わかっている。だからこの件はもう終わりだ」


 話を終えると祥吾は肩の力を抜き、クリュスは微笑んだ。本来の目的ではないことに必要以上の労力を割ける余裕は今の2人にはなかった。


 人助けを終えた2人は再び奥へと進み始める。ここまで来たら目的地までそう遠くない。全力で進むのみだ。


 そうしてついに2人は求めていた部屋の扉を目にする。守護者の部屋までやって来たのだ。その前に立つとどちらも息を大きく吐き出す。


「やっと着いたな」


「まったくね。今は、7時半くらい、こんなに長引くとは思わなかったわ」


「このダンジョンに入って丸々半日か。6階層しかないのに大変だったなぁ」


 すっかり体の力を抜いた祥吾が感想を口にした。本当にやるべきことはこれからなので実のところ今までの道のりはすべて前座だ。それを思うと嫌になるがここは我慢である。


 2人は予定通り少し離れた場所にある岩場に座った。そうしてリュックサックから携行食を取り出して夕食を始める。


「これで終わり、じゃないんだよな」


「そうね。事前の情報によると守護者の部屋いっぱいに粘性生物(スライム)が広がっているらしいけれど、それが本当ならちょっと途方に暮れちゃうわね」


「だよなぁ。実は大げさに伝えられた話で、実際はそんなに大した話ではないというのが一番幸せなんだが」


「私もそれを願っているわ」


 口では希望的観測を述べている2人だったが、実際はそうではないだろうということくらい理解していた。何人かの探索者が確認し、探索者協会も認めた現象ならば間違いという可能性は低い。しかも、いつ注意事項として『エクスプローラーズ』に掲載されるかわからないというのならば尚更だ。


 もそもそと携行食を食べていた祥吾は突然黒猫のことを思い出す。


「クリュス、そろそろタッルスを出してやっても良いんじゃないのか?」


「そうね、忘れていたわ」


 リュックサックから取り出された黒猫は一声鳴くと祥吾の足元へと寄り添った。そのままちょこんと座ると顔を上向ける。


 見つめられた祥吾は携行食を口で持ちながら両手で黒猫を抱き上げた。それから太股へと乗せる。丸まって寝ると片手で撫でてやった。


「あ~、今日は疲れたな」


「そうね。でもあと一息頑張りましょう」


「早く終わらせて旅館に帰りたい」


「私もよ。温泉に入って体をきれいに洗いたいわ」


 気の抜けた声を祥吾が出すと隣からクリュスが励ましてきた。確かにその通りなので祥吾は小さくうなずく。


 その後、2人は静かに携行食を食べ続けた。

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