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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第6章 高校1年の夏休み(後半)

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夏休みの活動2─足利ダンジョン─(5)

 番人の部屋を突破した祥吾とクリュスは地下4層へと降り立った。周囲の風景は今までと変わらず、足場も不安定な岩場である。


 歩くのに苦労しながらも2人は足利ダンジョンの奥へと進んだ。通る洞窟は階下に続く階段までの最短経路である。ただし、それまでとは違って人の気配がない。元々この階層までやって来る探索者は多くない上に、地下4層を活動場所として選んで各地に散っているからだ。


 この辺りにも敏捷鼠(ラピッドラット)巨大蟻(ジャイアントアント)のような数で押してくる魔物は出てくるが、他にも厄介な魔物が姿を現すようになる。


 1度鼠の集団を撃退した2人はその後も前進を続けた。相変わらず面倒な足場を気にしつつ周囲を警戒する。


「このダンジョンに出てくる魔物は平地だともっと楽に対処できるんだよな」


「どうしたの、急に」


「いや、普段は大したことがないという魔物でも、周りの環境が変わると戦うときの難易度が大きく変わるという話だよ。今回の場合は足場が悪いせいで苦労しているだろう」


「こんな岩場だと、二足歩行の人間よりも四足歩行の動物や六足歩行の昆虫の方が有利ですものね」


「安定感が違うからな。だから、魔物だけを見て対応しようとすると痛い目を見る」


「でも、私や祥吾は違うでしょう」


「もう知っているからな。ただ、知っていてもどうにもならないこともある」


「どういうこと?」


「空中から襲われたときだ。前方に巨大蝙蝠(ジャイアントバット)が何匹かいる」


「え? あ!」


 背後のクリュスに上を見るよう促した祥吾は天井からぶら下がっている大きな蝙蝠を見続けた。成人男性の半分程度の大きさで洞窟内の天井にぶら下がっており、暗闇の中でも自在に行動できる蝙蝠の魔物だ。集団で生活しているので1匹が行動を起こすと他の仲間も後に続く厄介な性質がある。噛み付き攻撃が主体で、足の爪を利用した一撃離脱戦法にも気を付ける必要があった。


 周辺に回避できるような分岐している洞窟はないのでそのまま進むしかないが、何もしないからといってこちらを見逃してくれることはない。魔物である以上、人間を見つければ襲ってくるのだ。


 立ち止まった祥吾にクリュスが声をかける。


「まだこちらに気付いていないのかしら?」


「いや、気付いているはずだ。あっちは暗闇の中でも自在に動ける連中だからな。俺たちの存在は感知しているだろう。ただ、距離が遠いからまだじっとしているだけだ」


「どうするのよ?」


「飛び道具があるのなら、遠くから射かけるのが一番だ。じっとしているなら単なる的だしな。ただ、さすがに攻撃を受けたらこっちに向かってくるから、二撃目以降は乱戦になるが」


「それなら、できるだけまとめて倒せれば良いのね。やってみるわ」


 祥吾の助言を受けたクリュスは天井からぶら下がる巨大蝙蝠(ジャイアントバット)の集団を見ながら魔法の呪文を唱えた。唱え終わると同時に長杖(スタッフ)を突き出す。周囲から見るとその変化はほとんど目で捉えられない。しかし、空気中を何かがうねりながら走り広がると蝙蝠の集団が動き出す。金切り声のような鳴き声を発しながら天井から飛び立った。


 クリュスが放った魔法は一瞬気付かれて避けられたかのように見えたが、飛び立った巨大蝙蝠(ジャイアントバット)が次々と何かに切り刻まれて地面に落ちてゆく。剥き出しの岩場に叩きつけられた個体は苦しみもだえながらうごめいていた。


 その様子を見ていた祥吾が横へと顔を向ける。


「もしかして、風の魔法を使ったのか?」


嵐刃(ストームカッター)よ。一定の範囲にかまいたちを起こすの。これなら相手が気付いて避けようとしても避けきれないでしょうから」


「ほとんど見えないというのが恐ろしいな。それでもあいつらは反応したわけだが」


「音か音の波に反応できるのでしょうね。ほら、残りが来たわよ」


 一定の範囲内を攻撃できる魔法をクリュスは使ったが、それでもすべてを倒すまでには至らなかった。その範囲から外れた個体3匹が2人に襲いかかってくる。


 足の爪で引っ掻いてこようとした巨大蝙蝠(ジャイアントバット)に対して祥吾は剣で対抗した。突き出された両脚のうち右脚を剣で切り飛ばす。次いでやって来た個体の噛み付き攻撃はしゃがんで避けた。


 右脚を切断された個体は金切り声を上げながら遠くへと飛び去ろうとしている。もう一方の攻撃を回避された個体はクリュスの方へと攻撃対象を変えたようだ。


 その狙われたクリュスだが、最初にやって来た個体は火の矢で仕留め、祥吾から自分へと狙いを切り替えた個体を風の刃で切り裂いた。いずれも倒された後は地面に落ちる。


「1匹逃したな」


「私たちを追ってこないのなら構わないわ。魔物の討伐は今回の目的ではないのだし」


「うーん、近接武器持ちとしては、わかっていても空から攻撃されるのは苦手だな」


「こういうとき魔法は便利よね」


「羨ましい限りだ」


「でもこれ、他の地上を歩く魔物と同時に襲撃されたら厄介よね」


「そうなんだ。最初に地面を走り回る魔物と戦っていると突然上から襲われるわけだからな。それで意識を上に向けると今度は地上から別の魔物にやられるんだ」


「挟み撃ちにされるの。それは嫌ね」


 自分の体験を話す祥吾は嫌そうな顔をするクリュスにうなずいた。単体では大したことのない魔物であっても空と陸から同時に攻撃されるだけで面倒さが跳ね上がる。その上集団で襲ってくるのだからたまったものではなかった。


 魔石を拾った祥吾とクリュスはその場を後にする。時間のかかる道のりを歩いているので長く留まるわけにはいかない。


 その後更に1度魔物と戦った2人は通過点のひとつである階下に続く階段を見つけた。祥吾がスマートフォンで時刻を確認すると午後3時半過ぎだ。今回は予定通り進めたことになる。


 岩場に腰を下ろした祥吾がリュックサックからペットボトルを取り出した。1本目の温泉水も残り少ない。


 一息ついた祥吾が独りごちる。


「やっと地下4層が終わった」


「あと2階層ね。予定では3時間後に守護者の部屋の前にいるはずだけれど」


「その守護者の部屋に着いてからの話なんだが、調査は今日中にやってしまうのか? それとも明日に回すのか?」


「夕食後にやりましょう。時間をかけないとわからないことがあるかもしれないから」


「さっさと解決できたら良いんだけどな」


 口から希望を漏らした祥吾はペットボトルを傾けた。守護者の部屋を満たすほどの粘性生物(スライム)の倒し方など想像もつかないため、簡単にはいかないことは想像できる。それだけにため息が出た。


 休憩が終わると2人は地下5層へと降りる。相変わらずの洞窟を最短経路で進んだ。魔物との散発的な遭遇をしつつもそれらをすべて退けてゆく。


 そんな2人の前に穴が現われた。直径3メートルほどの割と大きな穴が地面に空いていたのである。中を覗くと斜めに曲がっていて先は見えない。


 穴から目を離したクリュスが祥吾に顔を向ける。


「祥吾、これって魔物が掘った穴なのよね?」


巨大土竜(ジャイアントモール)だ。土竜のでっかい奴。それの仕業だよ」


「確か肉食の魔物だったわよね」


「そうだ。頭には目も耳もなく、熊のように毛皮に包まれ、突き出た鼻の下には鋭い牙を備えた口があるんだ。確か音や振動に敏感だったはず」


巨大鰐(ブラインドガビアル)に似ているわね」


「暗い場所で生活している連中に共通した特徴なんだろう。このダンジョンではそういった魔物がよく出てくるからな」


「戦うとやっぱり面倒なのかしら?」


巨大鰐(ブラインドガビアル)ほどではないが厄介だ。熊のような毛皮は剛毛だから武器が通りにくいし、土を掘るための爪や肉を切り裂く牙は強力だからな。ただ、こいつは顔面の皮膚はまだ柔らかいから、頭を積極的に狙えば何とかなる」


「それなら何とかなりそうね」


 説明を聞いたクリュスが安心した。弱点かそれに近い場所があるのならば戦いようがあるからだ。


 しかし、微笑むクリュスとは反対に祥吾は顔を歪ませる。


「けれど、巨大土竜(ジャイアントモール)の厄介さっていうのは別のところにあるんだ」


「どういうことよ」


「こいつは土竜だけに地面の中を掘り進めながら移動するわけだが、当然通った後には穴が残るわけだ。それで、この穴に別の魔物が住みつくことがあるんだよ」


「共生関係のような魔物がいるわけね」


「ああ、暗闇鼠(ダークラット)という鼠だ。最大で50センチくらいの肉食魔物だ」


敏捷鼠(ラピッドラット)よりも一回り大きいわね」


「そんな魔物がその穴から何匹も出てくるんだ。餌を求めて」


 話をしている祥吾はクリュスが身震いするのを目にした。この目の前の大穴から大きな鼠が何匹も出てくるのだ。想像するだけでも嫌悪感が全身を駆け巡る。しかもそいつらは容赦なく齧り付いてくるのだ。


 しばらく大穴を前にして話をしていた2人だが、一区切り付くと再び歩き始めた。そうして地下6層に続く階段に到着する。


 最下層を目の前にした祥吾とクリュスはいつも通り休憩に入った。

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