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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第6章 高校1年の夏休み(後半)

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夏休みの活動2─足利ダンジョン─(3)

 昨日初めて足利ダンジョンに入ったときに到達した地点、地下3層へと続く階段に祥吾とクリュスがたどり着いたのは午前11時頃だった。予定よりも少し遅れたがまだ誤差の範囲である。


 階段から少し離れた場所の岩場に腰を下ろした祥吾がリュックサックからペットボトルを取り出した。キャップを緩めると口を付ける。


巨大蟻(ジャイアントアント)の群れには驚いたが、おおよそ予定通りに進めているな。午後1時までに番人の部屋へ着いたら御の字だ」


「さっきの群れもダンジョンの異常のせいよね。そうなると、これからまだありそうな気がするわ。あれだけではないでしょうし」


「最短経路で発生しなかったら当面は良いんだけれどな」


「そんな虫の良い話があるかしら?」


「湧いて出てきたのが虫だけにか?」


「今は冗談になっていないから面白くないのよね」


 ため息をつかれた祥吾も面白くなさそうな表情を浮かべた。つい口から出た切り返しだが、確かに今の状況からするとこれからもありそうなので洒落になっていない。


 そうは言っても2人は更に地下へと進まなければならなかった。休憩が終わると階段を降りて地下3層を進む。全階層が洞窟型なのでこの階層も風景に変化はない。


 3つ目の階層でも番人の部屋まで最短経路を選んで進む2人だが、同じ洞窟を進む人の気配はほとんどなくなった。地下3層までで活動する探索者たちはこの辺りでばらけるからだ。もちろん地下4層より下に向かう探索者もある程度いるが、その数はずっと少ない。


 こうなってくるといよいよ自分たちの力だけが頼りになってくる。魔物に苦戦しても他の探索者に助けを求められなくなるのだ。しかし、それを承知の上で探索者たちはダンジョンに入るし、そうでなければ入ってはいけない。


 祥吾とクリュスもその覚悟はあった。ダンジョンで誰にも助けてもらえずに死ぬことは珍しくないのだ。


 とはいえ、たまに幸運が降って湧いてくることもある。そのときは自分の信じる何かに感謝すれば良い。


 慎重に洞窟内を進んでいると、2人は前方から今日何度目かの戦闘音を耳にした。前を歩く祥吾が立ち止まる。


「また誰かが戦っているみたいだな。ダンジョン内だから別に珍しくないんだが」


「誰が何と闘っているのか見てみましょう」


 今までと同じ意見でまとまった2人は慎重に岩場の陰から陰へと移りながら前に進んだ。魔物に気付かれてこちらに向かってこられても面白くない。


 静かに岩場の陰から2人が覗くと、2人の探索者が20メートル近い大きな白い蛇と戦っているのが見えた。しかもその大きな目の退化した白い蛇は2匹いるので、探索者2人は個別に戦うことを強いられている。


盲目蛇(ブラインドスネーク)か。あいつ、麻痺毒を吐くから面倒なんだよな。おまけに皮膚は刃物が通りにくいから切りづらいんだ。あれだけでかいと人間も丸呑みできるぞ」


「あの2人、苦戦しているみたいね。武器が剣と槍だから?」


「だと思う。動きは悪くないんだが。ああ、あいつらどこかで見たことがあると思ったら、ロビーで口喧嘩していた片方か。確か、土峰と岸森だったはず」


「よく覚えていたわね。それで、どうするの? このまま見ているつもり?」


「あれじゃそのうち負けそうだな。足場の悪さのせいで充分に動けないんだ。とりあえず、加勢が必要か尋ねてみよう」


 当人たちの意思を聞いてみないことには始まらないと祥吾は岩場の陰から身を出した。そうして声をかける。


「おーい、加勢はいるか?」


「手伝ってくれ!」


「助けてほしいらしい。1匹こっちで引き受けるぞ、クリュス」


 岩場の陰に隠れたままだったクリュスに声をかけた後、祥吾は剣を鞘から抜いて前に進んだ。そうして返答した土峰に近づく。


「こいつは俺が引き受けた。お前は仲間を助けてやれ」


「わかった!」


 盲目蛇(ブラインドスネーク)の注意を引きつけた祥吾が土峰に声をかけた。すると、土峰があっさりと下がってもう1人の方へと加勢してゆく。


 それを横目で確認した祥吾は目の前の大きな白い蛇と対峙した。持っている武器は土峰と同じ剣である。今は特に魔力付与もされていないので普通の剣だ。


 これでどう戦うのかだが、今回の祥吾はあくまでも牽制役だった。例え剣が魔力付与されていたとしても20メートルもの巨体相手に戦うのは簡単ではない。そのため、自分に注意を向けさせることに徹する。


 その狙いは少し後に効果を現した。何度かの牽制をこなしていると、突然白い蛇の下から石の槍がその巨体を貫く。串刺しにされた盲目蛇(ブラインドスネーク)は暴れた。


 暴れる巨体から離れた祥吾は岩陰から現われたクリュスに声を上げる。


「お前、もっとましなやり方はなかったのか? あれじゃとどめを刺せないだろう」


「本当は顔を狙いたかったんだけれど、位置が高かったからとりあえず体にしたのよ」


「あの柱のように太い槍は簡単には抜けないんだよな」


「ええ、さすがにそこは心配しなくても良いわよ。でもこれなら、時間の経過と共に弱るでしょうから、そのうち死ぬと思うわ」


「いや、そうなんだろうけどな。ああもういいや」


 どうにも安全にとどめを刺す方法を思い付かなかった祥吾はため息をついた。これもドロップアイテムの回収を諦めないといけないのかと肩を落とす。


 気落ちした様子の祥吾は暴れる盲目蛇(ブラインドスネーク)から離れて土峰と岸森へと目を向けた。こちらは今も一生懸命戦っている。情勢は互角だ。戦いに勝つにしても時間がかかりそうに思えた。


 2人の探索者の戦いを眺める祥吾だったが、隣のクリュスが話しかけてくる。


「祥吾、あれってどのくらいかかりそうなの?」


「余程のことがない限りは長引くと思う。結局普通の剣と槍だから決定打がないんだよ」


「それなら、ここで待つのは時間の無駄ね」


「このまま放って行くのか?」


「あれと同じように地面に串刺しにしてしまえば良いのよ。後はあの2人に任せましょう」


「弱るまでに時間がかかりそうだな」


「それで良いのよ。ドロップアイテムをあげると言えば、私たちを追いかけることはできないでしょう」


「何を気にしているんだ?」


「この後一緒に戦おうって言われることよ。断るのが面倒でしょう?」


 その可能性を想像できた祥吾は反論出来なかった。今の自分たちは守護者の部屋を目指しているので他の探索者と一緒に活動はできない。そうでなくても組みたい相手ではなかった。


 ただ、こちらの都合で相手の獲物を横取りするわけにはいかない。そのため、祥吾が戦っている2人に声をかける。


「2人とも、助力はいるか?」


「できれば頼む!」


「やって良いらしいぞ、クリュス」


 許可を得た祥吾が横を振り向くと、クリュスが魔法の呪文を唱えていた。その詠唱が終わると土峰と岸森が戦っていた盲目蛇(ブラインドスネーク)の下から石の槍がその巨体を貫く。巨大な白い蛇が痛みで暴れた。


 突然の出来事に土峰と岸森は驚いたようだが、どうにか暴れる大きな白い蛇から離れる。そうして呆然と今まで戦っていた相手を眺めていた。


 一方、魔法を使ったクリュスはすっきりとした表情でその様子を見守っている。隣の祥吾が何とも言えない表情を浮かべているが気にしていない。そのまま突っ立っている2人に声をかける。


「その蛇はもうその場から離れられないわ。今はまだ暴れているけれど、放っておいたら弱るからとどめを刺しておいてちょうだい。あちらにももう1匹いるからお願いね。ドロップアイテムはあなたたちがもらってくれたら良いわ」


「え?」


「それじゃ、私たちは先を急いでいるからこれで失礼するわ。さようなら」


 有無を言わせない一方的な発言をしたクリュスが洞窟の奥へと進み始めた。呆然とその姿を見送る土峰と岸森を一顧だにしない。


 一方、似たような感じで置いてけぼりにされかけた祥吾は慌ててクリュスに続いた。その背後に追いつくと話しかける。


「取り付く島もない感じで言い切ったな」


「早く離れたいからあれで良いのよ。今の私たちには時間が大切なんだから」


「確かにそうなんだが。次に会ったときに何て思われるんだろうな?」


「さぁ? 例え嫌われていたとしても別に困らないでしょう」


「お前そういうやり方で人と接していたら、いつか足元を掬われるぞ」


「誰にでもこんな対応をするわけないでしょう。必要なときだけよ。普段の学校での私の評判を知っているでしょう?」


「恐ろしい奴だなぁ、お前は」


 夏休み前の1学期のことを思い返した祥吾はクリュスの評判を思い返した。今のところ悪い噂は聞いたことがない。これをすべて制御しているというのならとんでもない話だった。とても勝てる気がしない。


 自分の相棒に呆れつつも前を歩くように促されたのでその通りにする。今はダンジョンの中なのでいつまでもぼんやりとしているわけにはいかない。


 祥吾は気を引き締めて歩いた。

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