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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第6章 高校1年の夏休み(後半)

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足利での食べ歩き

 探索者協会足利支部の本部施設を出た祥吾とクリュスは厳しい日差しに曝された。しかし、そのまま敷地外へは出ずに売買施設へと入る。目的は剣の購入だ。


 武器販売店へと入ると祥吾は真っ先に剣が展示されている場所へと向かう。そこには多種多様な剣が置いてあったのでどれにしようか目移りしそうだ。しかし、今回は練習している時間はないので使い慣れたいつもの剣を選ぶしかない。


 気軽に使い捨てられる消耗品のように買っている気がして何とも言えない感情を抱く祥吾はレジに行こうとした。そこでふと片隅にある火炎放射器が目に入る。


「どうしたの、祥吾?」


「俺もああいうのを持っておいた方が良いのかなって思ってな。今回は必要そうだろう?」


「ないよりもあった方が良いのは確かだけれど、私の魔法があるから不要じゃない?」


 クリュスの声を聞きながらも祥吾は火炎放射器を見続けた。背中にボンベを背負う本格的なものから、草焼きバーナーという一般的に売っているものまで意外に幅広くある。


 その中から、祥吾は小銃型のものをひとつ選んだ。カセットコンロで使うガス缶を差し込めるものである。


「祥吾、それって魔物に有効なのかしら?」


「殺すか傷を負わせるという意味では難しいだろうな。でも、自分に近づけさせない、追い払うという感じで使うのなら役に立つと思うんだ。クリュスが魔法で倒すまでの間は」


「魔物を寄せ付けないために使うというわけね」


「そうだ。戦っている最中に俺のことを気にしてばかりいると集中できないだろう。時間稼ぎで良いから身を守る手段は必要になると思うぞ」


「確かにそうね。なら、ガス缶も買わないと」


 聞いた説明に納得したクリュスが3本セットのガス缶を手に取った。それを祥吾に手渡す。


 剣、火炎放射器、ガス缶を持った祥吾はレジへと向かった。そこで会計をして探索者カードで支払う。初めてのカード払いだ。


 店の出入口で合流したクリュスに祥吾が感想を漏らす。


「支払いは簡単だったが、金を使ったという感覚が全然ないな」


「現金払いから変えたばかりだとそうかもしれないわね」


「カードローン地獄なんて言葉を聞いたことがあるが、もしかして金を使った気にならないからじゃないか?」


「それがわかっているうちは大丈夫よ」


「そのうち忘れそうな気がするんだよなぁ」


 漠然とした不安を抱きつつ、祥吾は手にした探索者カードを眺めた。隣でクリュスが微笑んでいるがそちらへは目を向けない。


 用が済んだ売買施設から2人が出ると再び強烈な日差しに曝された。同時にクリュスは日傘を差す。


「これで足利支部での用事は済んだわね。まだ10時くらいだけれど、これからどうするのかしら?」


「女将の幾織さんから聞いた食べ物を今から食べに行かないか?」


「そんなことも聞いていたわね。あの旅館で出される量だと足りないものね」


「確かにそれもあるが、昨日の夜に調べてみて食べたくなったんだよ」


「寝る前に何かやっていると思ったら、そんなことを調べていたの」


 少し驚いた様子のクリュスに祥吾が笑ってうなずいた。大食いなだけあって、やはり食べることに関しては無視できないのだ。


 苦笑いしたクリュスの賛意を得られると祥吾は喜んで前を歩いた。昨日のうちにある程度調べていたのである。その結果をスマートフォンの画面に出して進んだ。




 祥吾が最初に選んだのはポテト入り焼きそばだった。持ち帰り用の透明なプラパックに入れてもらった1人前のそれを割り箸2つでつつく。


「祥吾、どうして1人分しか買わないの?」


「これから何軒店を回ると思っているんだ? 2人で分け合って常に胃の中に余裕を確保しておく必要があるだろう」


「そこまでして食べたいの」


 元気よく主張する祥吾はクリュスに呆れられつつも、手に取った割り箸で素揚げしたじゃがいもをひとつ取って口にした。すると、焼きそばソースで色濃くなった表面の奥から柔らかい中身が熱を持って口の中に広がる。ソースの味とじゃがいもの柔らかさが舌を刺激した。次に焼きそば麺とキャベツを一緒に口へと入れる。弾力があると同時に柔らかい麺と固めのきゃべつが口の中でソースの味と共に踊った。紛れもなく焼きそばだ。


 隣ではクリュスが祥吾の左手の上に置かれたポテト入り焼きそばをついばんでいる。


「おいしいんだけれど、今の時期には暑すぎるわね」


「そこまでは考えていなかった」


「食欲が先行しすぎよ。祥吾は平気なの?」


「汗をかくのは今更だからな」


 汗をかきながらも幸せそうに食べる祥吾を見たクリュスは小さく首を横に振った。


 次はクリュスがたい焼きを選ぶ。あんことクリームで迷ったので両方買った。


 それを見た祥吾が首を傾げる。


「ここの名物ってあっちのお好みたい焼きなのに、どうしてこれなんだ?」


「さっき炭水化物ばっかり食べたじゃないの。だから口直しのスイーツがほしかったのよ」


 祥吾としてはベーコンとキャベツにたっぷりのマヨネーズで味付けされた名物の方を食べたかったが、クリュスの言い分も理解できたので黙った。


 こちらは半分ずつにしてお互いが2種類を食べたわけだが、さすがに定番なだけあって味は安定して旨い。控えめな甘さとしっとりとしたあんことふっくらとした生地が口の中で絡み合って幸せにしてくれるし、クリームも生地に絡み付く感じで口の中に広がるのがたまらなかった。


 食べきったクリュスが幸せそうな笑顔を祥吾に向ける。


「素晴らしかったわね」


「まぁ、ザ・たい焼きという感じだったな。肉まんとあんまんみたいな」


「どういう例えよ」


 理解できなかった様子のクリュスが首を傾げた。


 次は祥吾が選んだソースカツ丼である。これだけは外せないと旅館にいたときから主張していた一品だ。目の前に置かれたどんぶりの上に乗せられたソースが染み込んだカツの衣が食欲を誘って仕方ない。


「よっしゃきた! 本日のメインディッシュ!」


「嬉しそうねぇ。見ているだけで胸焼けしそうじゃない」


「これがいいんだよ。ところでクリュスはざるそばで良いのか?」


「私はこっちの方が良いわ。今の時期は特にね」


 食堂でさすがにどんぶり1人前を2人で分ける勇気はなかったので、祥吾とクリュスは別の品を注文した。クリュスが頼んだのも大根そばという名物のひとつだ。


 ともかく、食べたかった一品を目の前に祥吾は喜び勇んで食い付いた。箸でカツを取ってかぶりつくとまず最初にソースの味が口の中に広がる。しかも容赦なく暴力的にだ。そのままカツを噛みきると今度は中の肉汁も遠慮なくソースと共に殴り込んできた。肉を噛むほどこれが口の中で繰り広げられるのだからたまらない。そこへキャベツと白米をかき込む。濃かった口内の味が柔らかくなっていき、飲み込みやすくなった。後はこれを丼が空になるまで続けるのみだ。


 一方、一心不乱に食べる祥吾の前でクリュスは上品に大根そばを口にしていた。こちらは千切りにした大根と一緒にそばを食べるというものだ。薬味を入れためん汁に千切り大根と一緒にそばを入れて口に入れた。腰のあるそばと大根の風味がめん汁と共に広がり、口の中を爽やかにしてくれる。


 幸せそうな表情のクリュスが既に食べ終わっていた祥吾に顔を向けた。こちらも満足そうである。


「なんだかそのまま昇天してしまいそうね」


「今なら幸せに逝ける気がする」


「攻略前なんだから駄目よ」


 小さく息を吐き出した祥吾から返事はなかった。


 他にも2人は足利シュウマイというものにも手を出す。これは肉を使わないシュウマイで、玉葱と片栗粉を主な材料として作られていた。蒸したものと揚げたものがあり、蒸した方はぷりっとした感触で、揚げた方はかりっとしている。元は屋台で売っていた品らしく、スナック感覚で食べられる一品だ。


 この他にも色々とあったが、クリュスが既に満腹ということでこの日の食べ歩きは終了となる。


「結構色々と回ったわね」


「歩いて汗をかいているから腹ごなしにちょうど良い運動になるな」


「祥吾だけよ、それは。私は疲れたわ」


「む、そうか」


「でも、どれもおいしかったのは確かね」


「そうだな。まだ行っていないところもあるし、次に行こう」


「攻略が終わってからね、それは」


「そうなるとさっさと終わらせないとな!」


「同感なんだけれどね」


 やる気に満ちた祥吾の言葉にクリュスが力なく笑った。その顔を見た祥吾も現状がどうだったのか思い出す。前途は多難だ。


 しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。何とかして問題を解決しないといけないのだ。そうでないと旨い食べ物が食べられない。


 祥吾としてはそんな事態は何としても回避する必要がある。そのためにも目の前の足利ダンジョンを必ず正常にしてみせると心に誓った。

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