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ダンジョンキラー  作者: 佐々木尽左
第2章 神々の要望

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探索者協会の地方支部にて

 3月最後の日、祥吾はクリュスと共に探索者協会へと向かった。前に相談した通り、このダンジョンを攻略するためだ。ちなみに、2人が探索者教習を受けたこの場所は黒岡支部と呼ばれている。この町では町にひとつしかないものには町の名前を付けることが多いのだ。


 名付け方はともかく、2人は駐輪場に自転車を止めた。そして、自転車の荷台にくくり付けていたリュックサックを背負い、前籠に入れていたスポーツバッグを手にする。黒岡支部の建物に入ると、祥吾はスマートフォン、クリュスはタブレットを取り出した。画面を立ち上げると虫眼鏡と剣を掛け合わせたアイコンを軽く叩いてアプリを起動する。


 これは探索者協会が提供するアプリ『エクスプローラーズ』だ。罠などの備考情報付きのダンジョンの地図、魔物の情報、探索者への依頼、その他情報共有のための掲示板などを閲覧できる。何となく野暮ったいデザインだが、アプリとしては使えると評判だ。


 そしてこのアプリは、データをダウンロードできる情報ならばネットワークが繋がっていなくても利用できる。通信できないダンジョンでも使えるのだ。そのため、各種デバイスを利用している探索者はダンジョンに入る前に最新データをダウンロードするのが一般的である。これにより圧縮ファイルでもデバイスの容量が圧迫されるのだが、この解決策として近年では探索者用の大容量デバイスが販売されていた。


 タブレットの画面を見ながらクリュスが祥吾に声をかける。


「そっちは全部ダウンロードできているかしら?」


「俺のスマートフォンじゃ全部は無理だな。一応地図はダウンロードしたけれど」


「あなたは前衛だからそれでも良いわ。他の情報は私からその都度伝えるから」


「よろしく。本当は地図くらい紙に印刷できたらいいんだけれど」


「何十枚も紙の束を持ち歩くのは嫌よ」


「前のときはそれが当たり前だったんだけれどなぁ」


 異世界で冒険をしていたときのことを祥吾は思い返した。電子機器など何ひとつなかったためだ。しかも、紙ですらなく羊皮紙だった。隔世どころではない感がある。


「私の方も確認できたわ。これで最新よ」


「スマートフォンもタブレットも、いざ戦闘になったら壊れそうで不安だな」


「前衛だと特にそうよね」


「タブレットなんて絶対壊れると思うんだけれど」


「私は後衛だから祥吾が心配するほど動き回らないわ」


「前衛後衛って言っても2人だけなんだから、あんまり意味がないと思うぞ」


「このダンジョンだったら大丈夫でしょう。昨晩黒岡ダンジョンのことを再確認したけれど、そこまで厳しいことにはならないはずよ」


「だといいんだけれどな。まぁいいや。それじゃ、受付カウンターまで行こうか」


 それぞれ手にしていたスマートフォンとタブレットをしまった2人は受付カウンターへと続く列に並んだ。春休みのせいかそれとも年度末のせいか、いつもより人が多い。


 しばらく待った後、名札に明本と書かれた受付嬢の前に立った。祥吾が声をかける。


「これから黒岡ダンジョンに入る予定なんですが、最新の速報なんかはありますか? データはさっきエクスプローラーズでダウンロードしたんですけれど」


「でしたら今のところはお伝えする情報はありませんね」


「事故や問題なんかも発生していないわけなんですね?」


「そうですね。何かありましたら実習が中止になりますが、今のところその予定もありません。黒岡ダンジョンはいつも通りですよ」


 回答を聞いた祥吾は隣に立つクリュスに目を向けた。すると、小さく首を横に振られる。これで必要な情報はすべて集まったようだ。


 ちなみに、専用アプリのエクスプローラーはリアルタイムで情報を更新しているが、この場合、入力されたデータをリアルタイム更新しているというのが正確な表現である。ダンジョン内では通信できないので情報は外まで持ち帰ってからでないと入力できないため、エクスプローラーに情報が反映される速度はどうしても限界があった。また、たまに探索者協会に持ち込まれた情報が何らかの理由でデータ入力されない場合もある。大抵は優先度の高い作業のために後回しにされるか、それとも忙しさのために忘れられるかのどちらかだ。


 何にせよ、アプリからだけでは得られない情報があるので、ダンジョンに入るときは必ず受付カウンターで最新情報を確認するべきである。


 必要な情報を手に入れた祥吾とクリュスは更衣室へと向かった。男性用と女性用の部屋の近くまでやって来ると別れる。


 更衣室に入ると他の探索者たちが着替え、装備を身に付けていた。自家用車などを所有している場合は自宅から着替えてやって来ることもあるが、大半の人々は探索者協会の更衣室で着替える。理由は簡単で、いくら動きやすく蒸れにくいとは言っても、普段着の方がずっとましだからだ。更に、プロテクターなどはそもそもごついので、自宅から装備して延々と移動するものではない。


 適当なロッカーの前に立った祥吾は手にしていたスポーツバッグを床に置き、背負っていたリュックサックを下ろす。そうして服を脱ぎ始めた。探索者教習のときは自宅から動きやすい服を着ていたので着替える必要はなかったが、本格的に探索するとなるとそうもいかない。上下共にぴっちりとしたインナーを着る。通気性が良く、伸縮自在な一品だ。


 次いでブーツを履く前に防具であるエクスプローラースーツも着る。ライダースーツのようなそれは動きやすく通気性も良い上に防刃性もあるという触れ込みだ。その上からほぼ軍用と変わらない探索者用プロテクターを身に付ける。頭部、胴体、上腕、前腕、太股、(ひざ)(すね)にひとつずつ取り付けていった。


 普段着をスポーツバッグに入れてロッカーにしまうと剣を腰に()く。そうして最後にリュックサックを背負って準備完了だ。


 更衣室から出た祥吾はクリュスを待つ。すると、すぐに女性更衣室から出てきた。エクスプローラースーツの上から乳白色のローブを着てリュックサックを背負っている。右手には1メートル程度の長杖(スタッフ)だ。


 長い金髪を後ろで縛り上げたその姿を見た祥吾は思わずつぶやく。


「おお、魔法使いみたいだな」


「そうでしょう。とても気に入っているんだから」


「プロテクターはしなくてもいいのか?」


「このローブだって防刃性くらいはあるわ。下にエクスプローラースーツも着ているから大丈夫よ」


「だったらいいんだが」


「さぁ行きましょう」


 促された祥吾はクリュスに並んで廊下を歩き始めた。体の動きを阻害されることは今のところない。機嫌良く隣へと顔を向ける。


「それにしても、現代の道具は便利だな。前に使っていた革の鎧なんかとは大違いだ」


「素材からして違うものね。科学文明様々よ」


「まったくだ。これがそれなりの値段で買えるんだからすごいよな。気になって(きん)の値段を調べたんだが、換算するとこっちの方が安いんだぞ、ずっと性能はいいのに」


「大量生産のおかげね。産業革命が起きたかどうかで大きな違いがあるらしいわ」


「すごいよなぁ、産業革命」


 歩く祥吾は身近なところから文明に尊敬の念を抱いた。それを見たクリュスが微笑む。


「これで拳銃なんかも使えたら更に便利だったのかもしれないけれど」


「ああ、教習でやっていた銃刀法ってやつだろう? 結局、刀剣類は規制緩和したが、銃器類はそのままだっていう」


「日本じゃ緩和する意味がないっていう判断は間違いじゃないと私も思うけれどね。何しろ、ダンジョンの中であっても銃器類で魔物を倒すとドロップアイテムが出ないんだから」


「こういう剣や槍、飛び道具は弓矢くらいなら出てくるんだったか。一体何が違うんだろうな?」


「現代文明を持ち込むなってことかしら?」


「ゲームバランスが崩れるからか? でも、プロテクターなんかは許されるんだよな。良くわからんな」


 ダンジョンが発生してしばらくの頃は魔物を倒すことが最優先だったので、自衛隊はダンジョン内部でも銃器類で魔物を倒していた。しかしあるとき、コンバットナイフなど近接武器で魔物を倒すとドロップアイテムが出てくることが発覚したのである。このため、日本で探索者という職業が成立したときに銃器類の規制緩和は見送られたのだ。


 ただし、ダンジョンの外に出てきた魔物は例え近接武器で倒してもドロップアイテムが出てこない。このことから、ダンジョンが魔物を大量に放出したときは遠慮なく銃器類や各種兵器で殲滅する方針が日本でも採用されている。楽に殺せるのならばそれに越したことはないのだ。


 このような理由で探索者たちの武器は近接武器で固められていた。それは祥吾やクリュスも例外ではない。


 そんなことを話しながら2人は施設の建物から出た。

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