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11.精力剤を獲ってきた


「サトウ、ラブは明日から休みなんだけど、どうする?」

 迷彩服に着替えて午後仕事にいこうとするとパリスに声をかけられた。

「どういうシフト?」

「一週間のうちお勤めは四日。三日は好きなところで休みにしていいのさ。ラブはアンタが来てから喜んでるけどそろそろ休みにしてやらなきゃね。あんたはどうする?」

 うん、体張った3K職場だからな。

 日本の風俗の姫の公休日シフトもそのくらいだったような。


「ならしばらく遠出するか。明日の朝から出かけて、三日後に帰ってくる」

「他の子世話してもいいけどね」

「やめとく」

「意外と上手に遊ぶねぇあんたは」

「せっかくだから遠出するよ。見て回りたいところもあるし」

「わかった。今夜はラブのこといっぱい可愛がってやってねぇ」

「おう」


 俺を見つけてあわててらぶちゃんが走ってくる。

「いってらっしゃいませーっ!」

 フロアにいたメイドさんたちも全員集まって、

「いってらっしゃいませーっ!」と合唱。

 うーん、これははまるかも……。いい気分かも。


 そういえば、ちょっと不思議に思ってたことがある。

「ちょっと聞きたいんだけどさ」

「なんだい?」

「俺、この館でほかの客ってやつを見たことないんだけどさ……どうなってんの?」

 メイド隊全員が口を押さえて笑いをこらえる。

「あっはっは!」とうとうパリスが大笑いだ。

「知らなかったのかい? バカ正直に正面玄関から出入りしている客はアンタだけさ」

「へえ?」

「あちこちに通路があるんだよ。向かいのカフェとか、酒場とか、図書庫とかにね。体面を気にする客とか、身分が高い客とか、こっそりとね、そこ通ってね」

「なんだ――――!」

「きゃはははーっ」

 メイドさんたち笑いすぎ。

「うちは上客ばかりだからねぇ、そういう仕掛けも必要なのさ」

「……まあ俺別に人に見られて困ることなんてなにもないけどさ」

「ああ、うちはやましい商売しているつもりはないよ。アンタみたいに真昼間から堂々と玄関から出て行ってくれる客はアタシらにとっても誇らしいんだ」


 うん、メイドさんたちが凄い嬉しそうに俺を見る。

 そうかー。そうだよな。


「ありがとうみんな。じゃ、行ってくる」

 バカだな他の客。こうしてみんなに送ってもらうのって、凄い嬉しいのにさ。俺が独り占めだぜ。



 さて明日から三日も店を空けるんだから、今日はちょっといい食材獲りに行くか。

 食材ランクの中が先日獲ったブラウンベアーだ。ここまでは動物、いわゆる野生動物だが、この上になると魔物になる。

 魔物は動物と何が違うのかと言うと簡単に言えば魔法攻撃使ってくる。獲るのがずっと難しくなっちゃうわけだ。

 食材としての価値が高い奴……。

 デガサンショウウオか。これで行くか。全長4m。


 ハンターハンドブックに記された沼地へ向かう。

 上空から見ると、泥沼地をうねうねと巨大ななにかがうごめいている。

 アレか……。なんか10匹ぐらいいる。


 これは獲れないわ、普通のパーティーには。一匹だけならともかく、群れだもんな。

 観察を続けると、パリッパリッと放電している。

 なるほど、これは手ごわいわ。

 なにより沼にいるし群れだから遠くから仕留めても回収ができん。

 うーん……どの手でいくか、ってことなんだよね。


 湖畔に降り立つ。

 俺を見つけた一匹のデガサンショウウオがのたのたと大口あけて威嚇しながら沼をかき分けて迫ってくる。バリバリバリッ! すげえ電撃を纏っている。

「【ヴァーポライズ】!」

 ぶぅわあああああああああ!!!

 ものすごい蒸気が沼地から立ち上がる。他の群れの目くらましにもなるぞ。

 気化魔法だ。沼地の水分を猛烈な勢いで気化させて蒸発熱で熱を奪う。

 体が冷たくなって動きが鈍くなったところを、

「【コントラクション】!」


 収縮魔法だ。物を収納するのに大きさを縮める魔法だが、重さは変わらないという例のヤツだ。実は生きてる奴にも使える。これ使うと大抵の生き物は、自分の体重が一気に数十倍に重く感じられて自重で身動きが取れなくなる。

 心臓から血液を送り込むにも負担がでかすぎて血の巡りも悪くなるし肺の呼吸も追いつかなくなるのですぐになにもできなくなるな。放っておくと死ぬので人間には絶対に使えない。

 で、俺はその50cmぐらいに小さくなった重さ1トンのデガサンショウウオを佐藤印の特製カーボンファイバー縄で縛り上げ、【フライト】をかけて沼地から脱出する。

 もう他の人に見られたら絶対にアウトな狩り方だ。悪かったなチートで。


 離れた安全地帯まで逃げ込んでから、小さいままのデガサンショウウオを逆さに浮かべ、首にさっくり傷を入れて血抜きをする。重くなった血がぼたぼた勢いよく下に落ちる。これをやっとかんと肉がすぐに腐り出すから必須だ。


 両生類だから手足と腹に切れ目を入れて皮を脱がすように引っ剥がす。

 あとは魚っぽい白い肉をいいところ切り分けて大きめの袋二つに入れる。


 この作業をしてる間は、周りに【ウォール】の結界魔法をかけておかないと面倒だぞ。匂いを嗅ぎつけてなんかでっかいコヨーテっぽい群れが取り囲んでるわ。

 がうっ! がるるるるうっ!

 ガリガリと【ウォール】をひっかいてるが、まあ無駄だね。


 獲物を獲っても、この解体作業中に他の動物、魔物に襲われて命を落とすハンターもいる。獲った獲物より強いやつ、数が多いやつが襲ってくるからな。なので現場での解体はやるやつがあまりなく、丸ごとかかえてさっさと逃げてくるのがこの世界の普通のようだ。

 残滓をダイヤにするのはもうやめだ。やっても全部聖職者の身を飾るなんて馬鹿らしくてやる気がしない。ああいうのはきれいな女の子を飾るためにあるんだ。なんで俗物まみれのクソジジイにそんなもんを提供しなきゃならなん。


 で、俺はその場から【フライト】で飛び上がってさっさと逃げ出す。

 その【ウォール】はまああと一時間ぐらいで消えるからね。

 皮とか手足とか尻尾とか内臓とか食えるとこがだいぶあるから、あとでみんなで食べてね。



「……デガサンショウウオの肉ですな」

 冒険者ギルドの買い取り担当、ローナンの声が震える。

「いったいどのようにしてこのような……」

「聞かないで」

「はい。考えてみると恐ろしくて聞けませんな」

「さすがに全部ってわけにはいかなくて、半頭分しかないんだけど」

「お察しいたします。よく生きて帰ってこられましたな。精力剤として大変貴重な肉ですしお薬も作れますので、教会関係者や領主にも非常に高く取引されております超高級素材です。状態も最高ですので、高く引き取らせていただきますぞ」

「……なんで教会関係者に精力剤が必要なんだよ」

「……それはその、お察しください」

 まったくこの国の聖職者は……。


「あと、ランクをCに上げますので、一応会長にお会いください」

 うーん面倒そう。

 ローナンがからんからんと紐をひっぱると、二階から協会会長が降りてきた。

 前回のヒグマの時俺に文句言ってきたおっさんだな。ジムさんという。

「ほんとうにデガサンショウウオなのか?」

「はい、間違いなく」

「うーん、サトウさん、あんた実は凄いパーティーの使いっパシリとかしてないか? あるいは個人ですげえチーム抱えてるとか、事情があって顔出せないS級冒険者の仲買とかしてんのか?」

「それやるメリットが俺になにかあるかどうかについて」

「……そうだよな。アンタにおいしいとこ取られて黙ってる冒険者なんているわけないな……。どうやって獲ったのかわからんし、絶対になんか凄い手使ってるに決まってるんだが、それを聞くのはまあ冒険者のルール違反だな」

「助かります」

「とにかくデガサンショウウオを獲ってきた。これからも獲ってこれる。その事実だけでランクはBだ。今日はCにしてやるけど次にまた持ってきてくれたらBにしてやる。それでいいか」

「どうぞ」

「ではカードをお預かりいたします」

 ローナンにカードを渡して戻ってきたのを見るとCに上がってた。

 それをジムさんがひったくって見る。


  サトウ・マサユキ(40)

  冒険者ランク C

  LVレベル 20

  HP(体力)  32

  MP(魔力)  0


 ……ランク以外かわってねえ。

 

「本当かコレ! なんか間違ってないか? レベル20でデガサンショウウオ? あいつらいつも群れでいるからレベル60でフルにパーティー組んで生きて帰れるかどうかって相手だぞ? おかしくないかコレ? HP32ってサンショウウオに一発電撃食らっただけで即死だろ?! 裏っかわにも魔法の一つもないじゃないか? ええ?」

 ……すいません。だからカードあんまり人に見せたくないんです。

 なんか矛盾だらけですいませんホント。


「……あー、レベルとステータス、抹消してやれ。これ多分壊れてるわ。もうランク表記だけでいいや」

 ジムさんがカードをローナンに戻す。

「レベルとかステータスとか、裏の使える魔法リストを隠しておくってのは、まあS級とかA級冒険者にはいるんだけどな。普通はちゃんと記入してないとパーティーに入れてもらえん。でもお前やっといたほうがいいわ。それ見せても誰も信じないから」

「はい、ありがとうございます」

 冒険者協会からも公式にボッチ認定されました。涙拭いていい?


 報酬は金貨192枚だ。これぐらいの超高級肉になると重さで量って厳密に値段を決めるらしい。



 娼館チェルシーに戻って、パリスに残りのデガサンショウウオの肉半頭分をお土産に出したら怒られた。

「ダメだ! ダメだよサトウこれはダメ! いやーまったく大変なものをもってきてくれたねぇ! お客様に絶対に出せないよ!」

「なんで? 前に熊のキモが精力剤になってお客が喜ぶって?」

「あれはそういう迷信で実際には精力剤にはならないからいいんだよ。それぐらいあたしだって知ってるよ。これはホンモノなの! ホントに効くの! こんなものをお客に出したらうちの子たちが壊れちまうよ!」

「あっそっか! そりゃそうだ!」

 どんだけバイアグラなの?


「……お客はねぇ金払いが良くて優しくてしつこくなくてさっさとイッちゃうやつが最高なの。あんたも遊び上手だとは思ってたけどやっぱり客だねぇ」

「思わぬ経営者の本音をいただき涙が出そうです。ありがとうございました」

「さっさとどっかに売ってきな」

「あの、俺が食べるのは」

「ダメ」


 涙拭いていい? あ、協会で金貨188枚で引き取っていただけました。



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