表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月蝕  作者: 檸檬
2章 魔術学院編
40/67

儚き幻想血に染まりて地に伏せる19

2話投稿です。

アリイア編は基本鬱です。

 For example, justice is considered to mean equality, It does mean equality but equality for those who are equal, and not for all.

 正義は、平等を意味する。平等を意味するが、それは平等な人にとっての、平等。すべての人には、そうではない。


「素晴らしい」


 声が聞こえた。

 遠くで、とても遠くで聞こえる様な声。

 もはや殺意も消えてただ無力感と、全身から抜けて行く様な熱を感じた。

 殺してくれと思った。

 死にたいと思った。


 シーナが死んだ。

 ロイが死んだ。

 リュッドが死んだ。

 ルサが死んだ。

 アーリが死んだ。

 ジルアが死んだ。


 どうして、どうして、どうしてどうしてどうして、どうして彼らが死ななければならなかった。

 彼らが何かしたのか、ただ、ただただ毎日苦痛を耐え、辛い実験に耐え、何も報酬を求めず、結果を出して来たではないか。

 なのに何故彼らが死ななくてはならない? 

 

「君の実験は成功だった様だ、さすがは天才アイリーン。君の生体兵器はまだまだ発展が見込めそうだ。含めて出してもらっていた科学技術を用いた武器の方は私が完成させておこう。なに、たまには君も休みが欲しいだろう、暫く休暇を取りたまえ、まぁ研究所からは出られんがな」


 笑い声が聞こえる。


 涙も涸れた、喉も枯れた。

 押さえつけられていた手が押しのけられるのを感じながら、もはや動く気力も出ない。


 私が彼女達に力を与えたからこうなったのか?

 力を与えなければこうならなかったのか?

 私が実験材料となれば良かったのか?

 一体何処で間違ったというのだ、一体なんで彼らは死んだのだ?


 私が悪いのだろう、私が研究なんてしなければ、私が技術を生み出さなければ、私が生きていなければよかったのだ。産まれなければ良かったのだ。


 私が産まれたせいで、私が存在しているせいで彼らは死んだ。私が研究するせいで彼らは死んだ。


 では研究しなければ良いのか。

 そうしたら今度はどうなる、どうされる、拷問か? いいだろう、いくらでもするがいい。女性としてあらゆる苦痛か? いいだろう好きなだけ弄ぶが良い。

 だから、いっそのこと、殺してくれれば――


「あぁ、死のうなんて思うなよ? 残った3人、どうなるか解っているだろう? せめて3人だけでも生かしてやりたいと思わんか? ん?」

「……」

「あぁ、君、あの実験動物を連れて来たまえ。暴れる様だったら多少大人しくさせても構わん」

「う、ぅぅ”……、ぐ、う”、う”ぁぁ”ぁぁ……」

「おやおやまだ泣くのか、まるで子供だな君は。割り切りたまえ、国家の為、力を得るのは当然だ。その為に他国の材料こどもを使っているだけに過ぎない。戦争が起きて戦争に負ければ自国の民が慰み者にされるのだよ? 勝つ為には力が必要だ、その為の必要な犠牲だよ。大人になるのだねアイリーン君」


 諭す様に告げられた言葉、もはや睨む気力も出ない。

 枯れたと思っていた涙がまだ出てくる、己の愚かさにか、己の罪にか、立ち上がる気力すら出ず、地面へと這いつくばり涙を流す。

 声が聞こえた、ずるり、と顔を上げると拘束された子供達が視界に入る。


 セオ、男の子だからか気丈にも泣かずに立っている。メルを、そしてココナを守る様にして周りを囲む兵を睨み、首筋に突きつけられている剣にも怯えず立っている。

 メル、踞り、セオに何とか連れて来てもらった様な状況なのだろう。泣きじゃくり、時折嗚咽を漏らし、ジルアの名前を呼び続けている。兵の一人が苛立たしげに睨んでいるがそれをセオが庇っている。

 ココナ、ぼぅ、とこちらを見ている。その全身に付いている返り血はジルアのものだろう。もはや感情が無くなったかの様な能面の顔でどこか、ここではないどこかを呆然と見ている。


 そして、皆私を見ると同時に駆け寄って来た。


「先生、先生先生先生ッ、ジルが、ジルが、ジルが死んじゃった、死んじゃった、どうして、先生、ジルが、ジルがぁ”ぁ”」

「……怖いよ先生、怖かったよ、皆、みんな死んじゃったよ、どうして、なんで、どうして死んじゃったの、先生、どうして」


 答えられる言葉等無い。

 漸くやって来た全身を覆う痛み、この世界にいま自分が居る事を認めたのだろうか、それとも彼女達を守る為に体が必要だと思ったのか、全身を蝕む激痛に耐え彼女達を抱きしめる。


「ごめんなさい……、ごめん、なさい……」


 謝る事しか、そもそも謝るというのは一体誰に対してか、一体何の意味を持ってか。自分の良心を、自分の感情を抑える為の謝罪なのだとしたら滑稽にも程が有る。


「感動の再会かな? まぁ、いい。あぁ、それと余計な真似をしない様に一つ貰って行く」

「……え」


 目の前に突きつけられる槍と剣。

 悪魔の様に見えたその手が掴んだのはココナの腕。


「え?」


 声が漏れたのはココナ。ココナ自身も、そしてアイリーンも状況がつかめていない。

 唯一輪に入っていなかったココナはその掴まれた腕を呆然と見た後、ややおくれて状況を理解したのか、顔が青ざめる。


「え、い、いや……。なんで、どうして、先生、どうして、私、頑張ったよ……?」

「待って、お願い、やめて、何でもする、何でもするから、研究成果が欲しいならいくらでもやるから、なんでもするからお願いお願いだからこれ以上は、これ以上はやめてッ!」

「先生? なんで、どうして、私、ジル殺しちゃったから? ジル殺しちゃったからなの。ねぇ、先生、なんで、私頑張ったよ、なんで、いや、やだよ、せんせい、やだ、いやだ」

「ココナ、お願い、まって、やめて、ココナ、ココナッ、どうしてッ! 何でもするって、お願いだからやめて、お願い、何でも言う事を聞くから、お願いだから!」


 その言葉でやめると言う様な男なら元よりあの様な真似などする筈も無く。

 返事は無く、ただ無情に扉は閉められ、アイリーンの絶叫だけがその部屋に残った。


 ○


 ぐったりと体を長方形の金属の塊、ベットと言えるような物ではない場所へ据え付けられている少女が一人。

 魔術の光で照らされたその部屋は薄暗くはない、だがしかしその雰囲気は醜悪。

 壁沿いに並べられた用途不明の機械や薬品、それらが所狭しと並べられていた。

 少女の体は革製のベルトが幾重にも覆っており、ただ眠っているだけの様に見える。


 ココナはアイリーンと引き離された後、暴れようとした所昏倒させられここに縛り付けられていた。


 縛り付けられて数日。生命を維持する程度の食事しか与えられていない彼女は衰弱し、動く気力も湧かず、昏睡を繰り返し僅かな時間だけ目を覚ます。


 そんな彼女の周りを囲うのは数人の研究員、ナニカを書き記しながら周りで何事かを呟く。碌な事ではないのだろう、だがしかし大事な人質とも言える、殺す事は無いのではないかという淡い希望の下ココナは何とか生きていた。

 

 そんな中がちゃり、と扉が開け放たれる。

 

「所長」


 言うまでもなく数日前にアイリーンの実験結果を確認した男。

 40を少し過ぎた程度、やや顔に出て来た皺彫りの深い顔。鋭い目は冷血な印象を与え、とはいえど喋り方は至極丁寧。

 動きもゆったりとしていながら、見る物が見ればそれなりに“出来る”者だと理解できるだろう。

 コンフェデルス連盟、魔科学技術研究所9課の所長である、ノーマン・レクターである。


 殆どの者が彼を所長と呼ぶため名前で呼ばれる事は滅多に無い彼、ノーマン・レクターは愛国者である。 

 頭に歪んだ、と付くであろうが。


 彼は産まれも育ちも連盟であり、その連盟を誰よりも愛していたが、昨今の連盟の状況には不満を覚えていた。

 現在連盟が所有している加護は一人だけ、同盟国のカナディル連合王国は二人、その時点で連盟が劣っていると思われているのが我慢ならなかった。

 加護持ちは国家戦力にイコールとしても良い程のものだ。とはいえ絶対的なものでもなく、無敵な訳でもないので過信しては良く無いが、それでも象徴としては十分すぎる程。

 そして仮想敵国としての帝国は三人も加護持ちを所有している。それは不安であり不満だ。


 連盟が他国の後塵に喫している現状等ノーマンにとって何よりも許しがたい事だった。

 そんな現状で今度はカナディル連合王国が蒸気機関等というシステムを生み出した。

 科学技術の雄である連盟を差し置いて、だ。


 許される事ではない、認められる事ではない。


 故に、ノーマンは目に見える結果を欲した。解りやすい力を欲した、加護持ちに匹敵とまでは行かなくても、そこらの傭兵や兵士では太刀打ちできぬ力を欲した。


 そしてその力を見せた少女が手の中に転がり込んで来た。

 ノーマンは笑みを浮かべた。沸き上がる感謝を内心で述べた。

 選ばれた者は必要な時、本当に必要な時にこそ必要な者を呼び寄せる力を持つ者である、そうノーマンは確信する。

 そしてそれが自分自身であるのだという事も。


「557番はどうですか?」

「順調です、所長が完成させた機構も取り除いた右腕の代わりに取り付けました。思った以上に親和性が高く、これなら期待できそうです」

「そうですか、アイリーン君も感謝するでしょう。彼女の研究成果を完成させてあげたのですから」

「えぇ、ですが所長少々問題が」

「問題、かね?」

「えぇ、イマイチ制御が出来ておらず、うわごとの様にせんせい、せんせいと、どうしますかね?」

「ふぅむ」


 ノーマンは顎に手を当てて思案する。

 自分に従順な兵器でなければ意味が無い、連盟に牙を剥く可能性を孕む兵器では意味が無い。

 故に、決断は早かった。


「記憶を消してしまいますか、まぁ兵器に記憶は不要ですし」

「は、いえですが、そうしますとアイリーン殿にどう説明を」


 既に右腕を捥ぎ、機械を取り付けている時点でどう説明もしようがないのだが、この研究者にとっては彼女の研究を手伝った程度の認識しかない。

 礼を言われるだろうとは思っているが、ソレ以外の事等考えても居ない。だが、記憶を消すとなれば別だ、正確に言えば記憶を消す事には問題は無い、だがその記憶を消す薬が劇薬なのだ。生存確率が圧倒的に低いソレ、さすがに死んでしまえば兵器としての価値は著しく下がる。それは流石にアイリーンも黙っていないのではと考えた。

 

 だが、


「構いませんよ、彼女には私から言っておきます。心配せずに行って下さい。彼女も実験結果と過程資料さえ渡せば文句は言わないでしょう? どちらにせよ最初は使い捨てから始まる訳ですし。では、頼みますね」

 

 軽く手を振って告げるノーマン。

 頭を下げて見送る研究者を一瞥し、そして横たわる少女に深い深い笑みを浮かべ、そして彼は部屋を出て行った。


 ○


 塗りつぶされて行く。


 白く、白く白く。世界が白く塗りつぶされて行く。

 今までの景色が消えて行く。


 思い出が。

 温もりが。

 友が。

 日常が。

 世界が。

 母が。

 父が。

 故郷が。

 そして――


 せんせい、が。


「消さないで」


 朦朧とする意識の中で呟かれた言葉。

 がちゃがちゃとナニカが鳴る。


 自分の体が熱くて熱くてたまらない。

 溶けてしまいそうな感覚。骨が、肉が、脳が、とけてとけてなくなってしまいそうになる感覚。


 抜けて行く様な記憶とともに心を埋め尽くすのは単純な破壊衝動。

 殺したい、と。

 壊したい、と。

 全て全て無くしてしまいたい、と。


 灰色の髪。痩せこけた顔に骨の皮だけの体。20代も中盤くらいだと言っていたのにその年齢は40くらいと言っても良い程の先生。

 せんせい、せんせい、せんせいの顔が思い出せない。


 髪は灰色。

 頬が痩けていて。

 そう、服装はいつも同じで。


 髪、髪の色はなんだったっけ。

 頬は痩けていて、体は凄い痩せていた。

 

 友達もいた。

 シー●

 ●イ

 リ●ッド

 ル●

 ●ーリ

 セ●

 ●ル


 ジ●ア、殺して御免、ね。すぐ逝くよ。

 誰を、殺した、殺した、私が殺した。


 そうだ、なんでこんな事になったんだろう。

 いつもみたいに、皆でご飯を食べて、先生に甘えて、そしてちょっと辛い実験して、そして寝て、そうやって一日が終わる。

 先生はいっつもご飯を食べ無いから皆で、皆、皆? 皆って誰、そうだ私と先生で二人だったじゃないか。


 そう、そうだ、二人で、食事して、二人で、二人で甘えて……?


 甘え、誰に甘えてたんだっけ。


 そうだ、せんせい、せんせいが、居た。

 せんせいに甘えて、先生の温もり、せんせい、せんせい大好き。


 ●色の髪も。

 

 ギチギチと音が鳴る。


 ●●の頬も。


 ミチミチと肉が弾ける。


 ●た体も。


 魔素が溢れて――


「せん、せ……」


 ぶちん、とナニカが切れた音がした。


「ば、ばかな! 緊急事態! 取り押さえろ、557番が拘束具を――」


 ぐちゃり、と音が鳴る。

 水袋を潰した音。

 ぼたぼたと“鉄の右手”から血が滴り、そしてがちゃがちゃとその機械の腕唸り、その鉄の爪に赤い肉片が混じる。


「せんせ、どこ?」


 ずりずりとがりがりと鉄が床を擦る音が聞こえる。

 少女の身長よりも長いその腕は鉄の義手と言えるだろうか、その指は鉄の刃で、その腕はまるで丸太の様に分厚く、そして所々に取り付けられた魔石が怪しく光る。繋ぎ目からは血が垂れて痛々しく、だがその痛みをまるで感じない様に少女は歩く。


「取り押さえろ、多少痛めつけるげぁッ――」


 ガシュン、と音がしたと同時にその鉄の腕が振るわれ、壁ごと叫んだ研究者を切り裂き、肉片へと変える。


「暴走だッ! にげ――」


 ぶちゅ、と音がする。

 氷が生えていた、いや、違う、凍っていたのか。

 鉄の爪に付いていた血から煙が上がる。燃えているのかとも思ったがそれは違う。パキパキと音を立て、それは大気中の空気を冷やし冷えすぎて白く湯気の様にあがっているのだ。それでいて固着せず、問題なく動くそのギミックは異質としか言えない。


 氷の爪、放たれた火魔術をかき消し、そして振るう。

 爪が取れた。鉄の爪が。そして次に生えて来たのは氷の爪。

 パキパキと音がして、そして振る。


 射出される氷の爪は逃げ惑っていた研究者の背中を、脳髄を、心の臓を貫き絶命させる。そしてまたパキパキと生える爪。


「せんせ……。せんせ? って、だれだっけ」


 がりがりと地面を引きずる。氷の爪。

 誰を求めていたのかを忘れながらも誰かを求めて、少女は崩壊した壁の先へと足を踏み入れた。


 ○


 そして、やや前。


 首が飛ぶ。

 血が舞う。

 一切の命乞いも許さず、一切の逃げも許さず。ただ一つの生存も許さず。


「研究者は皆殺しだ、忘れるな。一人も逃すな」


 それは自分達の襲撃である事を漏らさない為の鉄則。

 だが、その声を発した男、アインツヴァルも、それを聞いたシュバリスも、フィリスも、エーヴェログも個人的感情から誰も逃すつもりは無かった。

 ただ黙々と作業の様に殺して行くアリイアは解らないが。


 この研究所でやられていた研究資料、忍び込み、最初に殺した研究者がもっていた手記から読める醜悪で狂っている世界の闇。

 義憤、自分達がそんな物を持った所で、謳った所で茶番にしか過ぎない事など理解している。けれど、それでも。


 力の篭るその手、シュバリスはその手記を握りしめる様に潰し、先ほど切り捨てた男を睨む。

 沢山のヒトを殺して来た、殺した、という行為に変わりはない。だがしかし、彼ら程品がないつもりはない。


「な、なんだ貴様ら――」


 音に気が付いたか、扉を開けて入って来た別の研究者。あわてて剣を構えるシュバリスだが、ぐずり、と胸から曲刀が生える。

 ブロンドの髪が舞い、美しき女性が死を纏って舞を奏でる。

 死の舞、血の舞、鮮血のアリイア。 


 既にもう数十人と殺して来た後か、返り血でやや汚れた顔を袖で拭い、冷たく、そしてやや笑みを浮かべた顔でシュバリスへと告げる。


「何をしているのですか、夜明けまで時間がありませんよ」

「わかってる」


 ぶん、と振るわれた曲刀。血が半円を描く様に振りまかれ、血糊が落ちる。


「アリイア、子供達も、殺すのか」


 手に持った手記にアリイアの視線が落ちるのを感じたシュバリス。

 同情、とまではいかないか。だがそれでも、と思った事は否めない。


「助けたいとでも言うのですか? どのような“生き物”になっているかすら解らないというのに」

「……ッ」

「心が咎めるというのでしたら見つけたら私に言って下さい。子供でも赤ん坊でも、生まれたての乳児でも殺しますので」

「ッ!」


 ギ、と一度だけアリイアを睨み。そして軽く頭を振るシュバリス。

 捨てられない、捨て切れない。だがそれが選択した事。


 アイリーン・レイトラの“保護”。それが任務であり、それが厳守すべき事。それが守れない可能性を孕む行為は慎まなければならない。

 それは傭兵としての鉄則、雇われ者としての義務。そしてシュバリス自身もそれを頭では理解していた。


 彼とて傭兵家業をそれなりにやってきた、腐った連中も見て来たし、救われない連中も見て来た。


「(甘くなった、ってことか……?)」


 そう思いつつも否定する。

 握る剣の重さはいつもと変わらない、いつもと同じ様に敵を殺し、任務を遂行する。

 その相手が子供になったというだけの話。

 

 そして子供だから油断が出来る等という夢物語はスオウ相手に木っ端微塵に砕かれている。故に油断も無い。


「悪いな、少し考えただけだ」


 その言葉にアリイアは、やや間を空けて答えた。


「……私にとってヒトを殺すという行為は息をする事と同義です。貴方が何に葛藤しているのか正直な所解りません。敵であれば殺し、邪魔であれば殺し、場合によってはそこに居ただけで殺します。それを繰り返して生きて来た私にとって殺すという行為に忌避感は無いのです」


 冷たい目は変わらず、呟くアリイア。


「ですがそれがおかしい、という事は認識しています。ですが、それを理解する事は出来ません。私は、いえ私たち殺し屋はあなた方傭兵とは違い何処か壊れています」


 そう言って口を噤むアリイア。

 既にシュバリスの方は見ておらず、むしろ置いていかんばかりに先へと進む。


「お、おい」


 声をかけるが振り返る事は無い。珍しく沢山喋っていたなとシュバリスが思っていたりするのだが、あるいはアリイアも珍しく沢山喋ったから黙ったのかもしれない。スオウ相手であれば解らないでもないのだが。


「危険性の高い物は処理、それで良いのでは?」


 背を向けたまま告げた言葉、理解は出来ない、そして意味も解らない、だが別にそれに固執する訳でもないアリイアの意思。

 それを理解したシュバリスは深くため息を付き、そして軽く手を振って答えた。


 そして、悲鳴が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ