第九十八話
「はい、真理と真司のデートシーンを撮るよ。恋人っぽく二人で手を繋いで歩いてね。楽しそうな顔をしてよ」
ヒカリさんはシチュエーションを説明した。
ユメさんが私の手に触れた瞬間、電撃のようなものが全身に走った。
「ん? どうした?」
ユメさんは私の顔を覗き込んだ。
「う、うん。なんでもない」
私の掌が思いのほか敏感だったのか、ユメさんの手が思いのほか柔らかかったのか、手を繋ぐだけで何故か心臓の鼓動が早くなった。
再び手を繋いだ時には何も無かった。
「それじゃ手から撮るから」
ヒカリさんは繋いだ私とユメさんの手のアップを撮影して、そこから後ろに引いていった。
歩いている二人の周りをゆっくりと回るように撮影をしている。
私は恋人と手を繋いで歩いたことないから、どんな感じなのか分からないけど、たぶんこんな感じかなという雰囲気で歩いた。
ユメさんも堂々とした歩き方で凛々しく見えた。
「OK、OK! それじゃ次のシーンに行こう。はい、服チェンジ!」
ヒカリさんは撮影した動画を確認しながら言った。
「はい」
私は撮影がOKだったので大きく息を吐いて安心した。
「次の服装はこれね、カスミ。ユメはTシャツ替えるぐらいで良いよ」
ヒカリさんは鞄から次の服を取り出した。
私は次の服装を持って化粧室へ向かった。
「ちょっとスカート短くないかな」
私は着替えて戻ってきて一声、そのように言った。
「えっ? 高校生の時とか膝上十五センチは普通でしょ?」
ヒカリさんは頭を傾げながら言った。
「短くしている人はいたけど、私はしてなかったかな」
私は校則をちゃんと守る方だったから、短いのは慣れていなかった。
「大丈夫。大丈夫。カワイイよ。次のシーン撮るよ」
「はい」
ユメさんも衣装チェンジしたみたい。でも、色違いのシャツに替えただけかな。
「さあ、腕組んで歩いて。暑いけどね。アツアツで」
私は腕を組んだことが無いので、相手がユメさんでも少し緊張した。
「どうぞ」
ユメさんは腕を組みやすいように差し出した。
「はい」
私はこんな感じかなと思う腕の組み方をした。もし私も彼氏ができたら、こんな風に腕を組んで歩くのかなと思った。とても密着するので恥ずかしかった。
「ユメに惚れたりしないでよ、カスミ」
ヒカリさんは冗談っぽく言った。
「し、しないよ」
私は同性には興味は無いから大丈夫だと思う。
でも、心臓が高鳴り始めた。
ユメさんはボーイッシュでカッコいい。私よりも五センチぐらい背が高くて、がっちりした体格で高校の時に部活は柔道をしていたみたい。
ヒカリさんは腕を組んで歩いている私たちを撮影し始めた。ゆっくりと私たちの周囲を回りながら撮影していた。
「はい、台詞のシーン」
ヒカリさんは次の指示を出した。
「今日はびじゅちゅかんでの展示、楽しみだね!」
私は言いながら台詞を噛んだことに気が付いた。
「アハハ。台詞、リテイクね! もっと笑顔で!」
ヒカリさんは人差し指を立てて、もう一回の指示をした。
「今日は美術きゃんでの展示、楽しみだね!」
私は言いながらまた台詞を噛んだことに気が付いた。
「アハハ。はい、リテイクね! なんかね、台詞を言う時だけ真顔になっているよ」
ヒカリさんはもう一度人差し指を立てて、もう一回の指示をした。
何故だか台詞で噛むこと、台詞を言う時に真顔になってしまうことがなかなか直せず、この後に何度もやり直しを行った。
私は台詞を言うのも演技も下手で、ヒカリさんとユメさんに迷惑を掛けてしまった。




