第九十七話
今日は映画の撮影日だから鳳空駅から近くにある美術館の前で待ち合わせしている。ここには一度来た記憶がある。現代美術館で美術作品を友達と観に来たことがあった。
ヒカリさんとユメさんはまだ来ていないみたい。
大きなキャンバスに描かれた人魚と魚の絵画はまだ飾っているかな。
今は何の作品展が催されているのかな。私は美術館の入口から中を覗いて、展示の内容を見に行った。以前は鯉のぼりの絵が大きく飾られていたのを思い出した。
今は“銀河と宇宙展”という催しをしているようだった。
今日も暑いから、建物の日陰で日差しを凌いでいた。
遠くの方から見たことがある人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
あれは“ぶつかった人”だ。確か名前は長良さん。
こんな所で遭遇するとは思っていなかった。それに私の事は覚えていないだろうから、気づいていないフリをしていれば分からないはず。
私は地面を眺めながら、気づいていないフリをした。
「あっ、“よく図書館にいる子”だ。あれ? ここで何しているの? ここの展示を観に来た?」
長良さんは近づいてきて私に声を掛けてきた。
「あ、うん……。ちょっと用事があって」
私はまさか話し掛けられると思っていなかったので、上手く言葉を返せなかった。
「そうか、それじゃあ……」
長良さんは手を振って美術館へ入っていった。
あっ。確か宇宙の事が好きだったから、この展示を見に来たのかな。
私は展示を見ている長良さんを想像して、少し気になった。
「カスミ、早いねー。ちょっと遅れてごめんね」
ヒカリさんはいつもと変わらない元気な様子で挨拶をした。
「ウィッス」
ユメさんもいつもと変わらないクールな様子で挨拶をした。
「私も今、来たところだから」
私は気を遣ってそう言った。
「今日の撮影はね、この辺で行います。美術館の中は撮影許可が下りないからね。美術館を背景にシーンを撮るから」
ヒカリさんは手に持ったスマートフォンを指さして言った。
「うん、衣装は?」
私はヒカリさんが背負っている鞄に入っているんだろうと思って言った。
「今回は三着あるから忙しいよ。まずはこれでお願いね、カスミ」
ヒカリさんは鞄の中からオシャレなチェックのワンピースを取り出した。
「うん。この服、かわいい」
私は淡い青と白のチェックのワンピースを身体にあててみた。
「良いじゃん、良いじゃん。着替えは図書館の化粧室でね。無料エリアだからお金は掛からないし。さ、着替えてきて。準備できたら撮影始めるから」
ヒカリさんはテキパキとスマートフォンに長い棒を取り付けた。
私はワンピースを持って化粧室へと向かった。




