第九十二話
次の日、私は以前セミナーを聴きに来たことがあるビルに入った。
約二年振りにここに来たけど、全然変わっていないイメージで懐かしい気持ちになった。セミナーを聴いた部屋、サロンへの順路もしっかりと覚えていた。
以前は学生服で来たんだったかな。その時の場面を思い出して、自分の姿が頭の中にふと浮かんだ。
サロンの前まで来て、自動ドアが反応する手前で立ち止まった。もし嫌な顔をされたら、早く退散しようと思った。
自動ドアが開いて、部屋の中をキョロキョロと見渡しながらゆっくりと歩いて入った。
心臓の鼓動がいつもより早く打っているのが分かるほど緊張していた。
サロンの中はセミナー講師の控室みたいな場所で、テーブルと椅子が喫茶店のように並べられている。雑談をしている人や資料みたいなものをまとめている人などがいて、その中にキラキラとした目でノートパソコンを見つめている東河さんを見つけた。
私が近づくと、すぐに気づいたみたいだった。
「やあ、久しぶり。倉里さん! メールありがとう。ささ、座って。ジュースかコーヒーだったらどっちが良い?」
「ありがとうございます。コーヒーで構わないです」
東河さんは席を立つと、ドリンクコーナーへ歩いていった。
ここの部屋の匂いが記憶の中に残っていた。椅子のクッションの沈む感じも覚えている。
「コーヒーどうぞ」
「ありがとうございます。突然、メールを送ってすみませんでした」
私は頭を下げて謝った。
「いやいや、全然謝らなくても良いよ。ちょうど執筆が煮詰まってきたから、誰かと喋りたかったんだ」
東河さんは笑いながら頭を掻いた。
私も合わせて笑ったけど、東河さんは気を遣って、そう言ったのだと思った。
「元気そうで良かった。前回会ったときは落ち込んでいるような表情だったからさ。倉里さんは今、高校生だったかな?」
私は以前、セミナーに参加したときは悩み事で暗い表情だったんだと今頃気づいた。
「今年、大学生になりました。心理学を専攻してます。あとHSPについても自分で勉強しています」
「おお、心理学を勉強しているのか。凄いじゃないか。僕と同じ道を歩んでいるんだね」
東河さんはとても嬉しそうな表情をした。
私はその表情を見てとても嬉しくなった。




