第八十九話
夕食時の自宅で両親と最近の自分の出来事を話していた。
友達が映画を撮っていること、スマートフォンで撮影していること、友達と私が主役をしていること、映画は大学祭で発表することを一通り話した。
「楽しい事をしていて良いじゃない。夏休みで時間は沢山あることだし」
母親は食器を片づけながら楽しそうに言った。
「映画かぁ、今の時代は簡単に何でもできて良いな。父さんが学生の頃はスマートフォンが無かったからな。ネットも」
父親はお茶を飲んだあとに笑顔で言った。
「昔は何をして過ごしていたの? 夏休みとか」
私はネットが無い時代が想像しづらかった。
「昔は友達とお店やデパートに見に行ったりしてたわね。今ならネットで新しい服がどこで売っているとか調べればわかるけどね」
母親はスマートフォンに指をさして言った。
「学生の頃、僕は本を読んでいたなぁ。小説を書いていたこともあったかなぁ」
父親は顎を触りながら、斜め上を見て言った。
「へぇ、小説を書くのって凄いなぁ」
私は父親が学生の頃から創作的な事をしているのに感心した。
「紙とペンがあればできるだろ。お金も掛からないし。その頃は小説家になりたいと考えることもあったよ」
父親は昔を懐かしむように言った。
「小説家を目指さなかったの?」
私は単純に思ったことを聞いた。
父親は腕を組んで深い息を吐いた。
「やっぱりお金を稼がないと食べていけない世の中だからな。小説家で食べていけるのなんて、ほんと一握りの人間だろう。売れる自信があった訳でもないからな、でも……」
私は父親の口調から何かを感じ取った。たまに見せるお喋りな父親かもしれない。
「父さんはこの“お金を稼がないと生きていけない世界”を疑問に思うんだ。小説を書いたり、絵を描いたり、音楽を作ったり、映画を作ったり、など芸術的な創作活動をしている人は、自分がしたい事があっても生活するために、その道を諦めるなんて勿体ないと思う。自身がしたい芸術が出来た方が、もっと芸術の幅が広がると思うんだ。今より良いものだって出来ることもあるだろう。何も取り柄が無い人は得意な事を探して伸ばせばいい。創作活動が苦手で仕事が得意な人は仕事をすれば良い。自分のしたい事ができる、そんな世の中が理想だと思うんだ」
「そうだね」
私は父親の論理が通っているようで通っていない想像の話を聞くのが好きだ。
「そういえば、時間があるのだったら車の免許を取っておくのも良いぞ。就職したら時間が無いからな。学生のうちに取っておけばいい。父さんは大学生の時に取ったからな」
「忙しいから考えておく」
まだ先でも良いかな、二年ぐらいに取ろうかなと考えていた。
友達はいつ頃、免許を取るんだろう。そのタイミングに合わせても良いかな。今度聞いてみようかな。




