第八十八話
「それじゃ、早速撮影しよう。いつでも開始して良いよ。自然な雰囲気でね」
ヒカリさんは青い炭酸飲料を飲みながら言った。
ユメさんはコーラを一口飲んで、台詞を話し始めた。
「フランスでのパティシエ修行は焼き菓子部門からチョコレート部門へ移動したんだ。最近はチョコレートで“楽器”を模したのを作っているよ」
「チョコレートで楽器を作るの?」
「本物みたいに弾くことはできないけどな。溶かしたチョコレートを型に入れて冷やして、くっつけたり削ったりして作るんだ」
「すごいね。そんなの見たことが無い」
「フランスでは今年の流行りなんだ。だから日本では来年あたりに流行るかもしれない」
「最先端なんだね」
「だからパティシエの技法を学びに来る外国人って結構多いんだ。お互い言葉も通じないから、トラブルがあったり大変だよ」
「大変そうだね」
「急に一週間ほど休みを取ることができたから、真理に会いたくてサプライズで日本に戻ってきたんだ。驚くかなと思ってな」
「ビックリしたけど、嬉しい!」
ヒカリさんはスマートフォンの録画停止ボタンを押した。
「OK、OK! 良いじゃん! 角度を変えて、同じシーンをあと二回撮るから」
私は取り合えず一回目でOKが出て安心した。それにユメさんの笑顔で話す演技が上手くて凄いなと思った。目の前でドラマを見ているような感じがした。私だったら台詞が長いと上手く言えないと思う。
一回目がOKだったので、同じ要領で演技をすれば角度を変えた撮影も問題なくOKだった。
「後は編集で何とか上手くするわ。今日の撮影は一旦これで良いわ」
ヒカリさんは青い炭酸飲料を飲み干して言った。
私とユメさんも飲み物をゆっくりと飲んで一息ついた。緊張から少し解き放たれたが、まだ気が抜けない。
パラソルの日陰にいても熱風が吹き抜けて、私以外は暑そうで汗をかいていた。




