第八十六話
十一時ごろになって、ユメさんが撮影中の私達と合流した。
「ウィッス」
ボーイッシュでラフな服装で男性の様な挨拶をした。
「ちょうど良いタイミング! これから真理の前に恋人の真司が現れて驚くシーンを撮る予定」
ヒカリさんは私とユメさんを指差すと、向かい合わせにして近づけるような動きをした。
「了解。衣装は?」
ユメさんは半袖シャツのボタンを一つずつ外しながら言った。
「あー、今の服装にサスペンダーを付けてくれたらオッケー。これが真司の特徴だから。たまにパッチンしてね」
ヒカリさんは鞄の中からサスペンダーを取り出した。
「どこで撮影しよっかなー。やっぱり門付近かな、ばったり会うのは。よし、それでいこう」
ヒカリさんはその場の雰囲気で決めている様子だった。
私はユメさんと顔を見合わせて、気まずくなって視線を反らした。
「校門にもたれかかっている真司を、真理が見つけて驚いて駆け寄る。そのシーンを撮るよ。リハーサルしておく? それとも一発本番?」
ヒカリさんはスマートフォンを取り付けた長い棒を短めに持って、撮影準備をしていた。
「練習はしたいかな……」
私はシーンを思い浮かべて、イメージトレーニングをした。
こんな演技をやった事もないから、一生懸命するしかない。
私は並木道を歩いていて、途中で驚いた表情をして校門まで駆けだした。そして、ユメさんの前で役名の名前を呼んだ。
「真司! 本当に真司なの!?」
「驚いた表情と話す時の表情が硬いかな。あと、走るのはゆっくりで良いよ。もう一回お願い」
ヒカリさんは納得していない表情でそう言った。
「うん」
頭の中のイメージではできているのに、演技となると上手く出来ないのがとても歯がゆい。
「もう少し大きな声で、自然な感じで台詞を言って。もう一回」
ヒカリさんはまた納得いっていない表情でそう言った。
普段からあまり大きな声を出さない私には難しいことだった。カフェバイトの“ソ”の音の高さで声を出してみると自然ではないみたいだし。アカリさんなら上手く大きな声を自然に出すことができるのだろうと思う。
その後、同じシーンを十回以上撮り直した。
私はヒカリさんのリクエストに応えるように意識して演技を頑張った。




